王女殿下の報告
そこまで命令を出すと、先に報告に来ていた参謀は陛下の執務室から出ていった。
陛下はそこまで済ませてから、改めて外交部の長官に向かって報告を聞く。
「すまなかった、長官。
色々と立て込んでいるので、まずは報告を聞くとしよう」
「はい、アミン公国の外交部から連絡がありました。
グラファイト帝国からの要請でフェノール王国に対して帝国との会談の仲介をしましたが、無視されたために帝国は早急に護衛艦隊を引き連れ、フェノール王国に向け移動したとのことです。
その際、非常に大きな宇宙船が一緒だったとのことです」
「多分ですが、帝国の持つコクーンかと思われます」
宇宙軍長官は外交部長官の報告に追加で情報を提供してきた。
「で、帝国はコクーンを中心に護衛の戦隊を引き連れフェノール王国に向かったと……これは完全に宣戦布告ではないかな」
「ええ、ですが会談の申し出に対して無視した段階で、フェノール王国側に非はありますから、外交上戦争状態になっても致し方ないのでは」
「ちょっと待ってほしい。
ですが帝国とフェノール王国とでは直接国境は接していない。
そうなると我が国を経由しないとまずいが……」
宰相は、もっともな懸念を示してきたが、それに対して外交部の長官は平然と言い放つ。
「宰相、ですがすでに我々との間で戦争状態にありますし、我が国と軍事同盟を結ぶ事になりましょう。
そうなれば、我が国にとっては多大な利が生まれます」
外交部の長官は帝国とダイヤモンド王国との間で交わしてある秘密の不戦条約を知らないから、これから新たな条約が結べそうと喜んでいるフシもあった。
「ただ、その後すぐに追加で、フェノール王国に向かった帝国の一行は戻ってきているともありました。
これは一体……」
「今度は帝国もワケワカラン行動をしているな。
もしかしたら、この2つの事象は……」
陛下の疑問に情報部の長官が答える。
「ええ、繋がりがないとは考えられませんね。
何かしらのことが進行中だと考えるほうが自然ですし、そう考えて行動をしないと我々のほうが危険になるかと」
「そうなると、やはり情報を集めるしか無いか……」
「威力偵察は必要ですかね、長官」
宰相が不安そうに宇宙軍長官に質問してきたが、その質問に誰一人として答えることはできなかった。
ちょうど室内での話し合いが行き詰まった頃、先程まで全員が必死に情報を求めて色々と質問し合っていたが、その質問も出尽くしたというか、現状では埒が明かないことを理解して無言になっていた。
その状態で、隣室から秘書の一人が入ってきた。
「陛下、マリー第三王女殿下が陛下との面会を求めてきております」
第三王女といえども、昼の公的な時間帯では父親に会うのも手順を踏んで許可を求める必要があった。
これがナオ司令ならば軍のトップということもあり、緊急性があればの話にはなるが無許可でも室内に入り陛下に報告と指示を仰ぐことができるのだ。
先ほど来ていた、陛下に報告してきた者たちは例外なく全員が緊急扱いでの直接報告が出来る資格を持っている者たちだけなのだが、あいにく王女殿下にはその資格が与えられていない。
彼女は警察官僚機構の上位者という扱いであるので、たとえ大臣クラスでも外交や諜報などのトップとは違い、直接無許可での陛下への報告する権利が与えられてはいない。
なぜこのような措置が取られているかというと王女殿下が現在就いている長官職、その座を降りた時に問題が発生することを恐れての措置なのだが、そもそも王女殿下として王の秘書に面会の許可を頼めば簡単に願いは叶うだろうから実害はないと判断されている。
現に今回がそれだ。
陛下はすぐに許可を出して王女殿下を室内に入れた。
秘書官がいったん部屋から出て、すぐに王女殿下を連れて戻ってきた。
その際、王女殿下は彼女の部下であるマキ本部長も同行させていた。
その様子を見た外交部の長官は少しムッとはしていた。彼が部下の一人も付けずにこの場にいるのに対して、王女殿下は堂々と部下を連れてきているためだ。
これは手続き上の問題で許可なく陛下に報告に上がれるものが限られていたためで、彼らは本人だけがやってきているのに対して、王女殿下は、正式に許可を求めての行動なので平時の扱いと同じだ。
陛下はそんな空気を察してか、少し苦笑いを浮かべるが、すぐに王女殿下に話しかける。
「マリー、急ぎの報告があるようだが、その前に質問させてくれ」
「はい、陛下。
ですが、ここでは私は広域刑事警察機構の長官ですので」
「そんな建前は、今はいい。
現状それどころでないのでな」
陛下の話しぶりに緊張感を悟った王女殿下はすぐに態度を改めて聞き直す。
「なにか緊急事態でも?」
「ああ、国の存続がかかっている」
「それほどの……」
「ああ、知っていたら教えてほしい。
先ほど報告が入り、フェノール王国内で、何やら重大事態があったようだ。
国境周辺から軍が引き上げている。
また、グラファイト帝国もフェノール王国へ外交圧力をかけていたようなのだが、すぐに引き返しているらしい。
少し前に聞いたことだが、マリーの部下をフェノール王国内に送るとか言っていたな。
その部下からなにか報告はないか?
もし、なければその部下を通して調査を依頼したいのだが」
陛下の質問を聞いて、王女殿下はホッとしたのか笑みを浮かべた。
「陛下のお話で安心しました。
今日私がここに参りましたのは、その件の報告と、事後処理についての相談です」
王女殿下はそう言って、陛下たちに菱山一家の海賊事件の黒幕たちの身柄確保について報告してきた。
そこで、ナオ司令たちからの相談のあった件について報告と一緒に殿下は陛下に相談に来ている。
「ちょ、ちょっと待て。
私の聞き違いでないのならば、現在フェノール王国の王はマリーのところで拘束されているということか?」
「ええ、ですが少し訂正を。
私のところではなく、身柄拘束作戦に協力していただきましたグラファイト帝国のコクーン内にです。
それに、彼らの身柄についてですが、事前の取り決めによりコクーン強奪に直接関与が認められたそうですので、そのまま帝国側に引き渡します……すでに引き渡した状態ですが、現在国内を航行中ですので、微妙といえば微妙でしょうね」




