放し飼いのつけ
「王女殿下。
すみません、途中に口を挟むようになりますが、私にも質問をお許しください」
慌てたのか、宰相が王女殿下に聞いてきた。
流石に王女殿下と陛下との会話に無理やり入り込んだような感じで、宰相以外は少し引いてはいたが、それだけ異常事態だということを理解している陛下は何も言わずに宰相に質問を許している。
「今の殿下のお話ですが、グラファイト帝国と一緒にフェノール王国の首都まで乗り込んで国王を拉致してきたというのですか」
「拉致??宰相、少々お口が悪くはありませんか。
私達は一切法に触れるようなことはしていません。
それこそ、いつぞやの悪徳貴族のようなことは絶対にありません」
流石に、王女殿下は宰相の言う『拉致』に反応したのか、この場ではいささかズレた回答をしてきたというか、ご立腹だ。
マキ本部長は、宰相の言わんとしていることを理解したのか、王女殿下に一言断ってから経緯を丁寧に話している。
マキ本部長も最初からこの計画に加わっていたわけではないので、グラファイト帝国との約束などについては知らない。
知らないグラファイト帝国との密約については説明をしていないが、ナオ司令の行った作戦については報告を受けた範囲で理解していることから、そのことを説明している。
「そういうことか。
流石に首都に敵が現れ、王を拉致……連れ去られれば国内も混乱するのも理解できるな」
「ええ、陛下。
それでなのでしょう。
首都が攻撃されたという一報が入れば、すでに展開中の戦力は何を置いても首都に向かわざるを得ませんしね」
「宇宙軍長官。
たしかにその理屈は理解できますが、それなら先程関係があると判断しましたアミン公国からフェノール王国に向かったグラファイト帝国の動きについてはどう考えますか」
「ひょっとしたら、この作戦の陽動でしょうか?」
「マリー、その辺なにか聞いていないか」
「はい、今回の作戦の協力を依頼するにあたり帝国に赴いた時に、グラファイト帝国の皇帝陛下から直接、今回の作戦について陽動を申し出てもらいました。
要求通り、フェノール王国の方から会談を受けるようなら、そのまま会談する方向でいたようですが、皇帝陛下の見通しでも、まずありえないとお考えだったようです。
この先は、この場限りで一切の情報の拡散を禁止しますが、お話の続きを聞かれますか?」
王女殿下の最後の言葉にこの場にいた男たちは一瞬固まった。
その後陛下が、王女殿下に話の続きを促す。
「何やら、重要な情報を持っているようだな。
マリーの言い分は理解した。
良いな、今後この場で話されたことを誰にも話すことはならん。
これは勅命である。
これでよいか、マリー」
「ありがとうございます、陛下」
陛下のお言葉をもらい、王女殿下はグラファイト帝国で皇帝陛下との会談で聞かされた今回の騒動の裏にある思惑について話した。
「そういうことか。
正直、そこまで大きな陰謀が隠れていたとは思わなかった」
「情報部には、そのあたりの情報はなかったのか」
宰相が、長官に聞いている。
「いえ、現在情報部は全力を持ってフェノール王国の情報を探っておりますし、グラファイト帝国が懸念しているコランダム王国については我が国と国境が接しておりませんので、調べてもいませんでした」
「しかし、マリーから先に報告があったようにアミン公国は危なかったようだな」
「ええ、ですが王女殿下のお話を聞いたことで、全てが繋がりました。
しかし、本当に危なかったようですね」
宇宙軍長官も、今回のフェノール王国からの戦乱について腑に落ちないことが多く、悩んでいたようだが、今の話で全てが繋がり理解したようだ。
なにせ、フェノール王国とのいざこざはそれこそ何度もあったが、今回の争乱は明らかに今までとは一線を画している。
それだけに長く宇宙軍に奉職していた長官には違和感が拭いきれなかったのだ。
「コランダム王国が絡んでいたようでは、いきなりグラファイト帝国から会談を持ちかけられてもフェノール王国の王もすぐには返事もできなかっただろうな。
それより、マリーよ。
その話が今回の訪問の目的か?」
「いえ、先に申しました通り、私どもはフェノール王国の王宮から海賊『菱山一家』と共謀して海賊行為を行っていた者たちの身柄を拘束しました。
そのうち事前に帝国との取り決めにより、帝国所有のコクーン強奪に関与した52名については帝国側に身柄を引き渡しますが、コクーン強奪に直接関与せずとも海賊行為に関与したと思われる者たち183名に付いての身柄の扱いについて相談に参りました。
陛下から頂いた令状によって身柄を拘束しましたが、どこの司法部署に預ければよいでしょうか?」
「「「は???」」」
「司法に預ける……何を言っているのだ」
「敵国の捕虜では無いのか」
「いえ、宇宙軍長官。
私どもは警察権をもって犯罪者の身柄を法律の定める所によって逮捕しましたが、私達には司法権はありませんので、これも法律に則り、然るべき司法機関に預けようかと考えております。
しかし、何分初めてのことなので」
「初めて?」
「ええ、逮捕者については犯罪の行われた場所もしくは逮捕した場所の司法機関にというのが法律にはありますが、犯罪行為が国内全域にまたがる海賊行為ですし、逮捕したのは外交上だけ国内扱いとなるフェノール王国の中心部になりますから、担当する司法機関がありませんので預け先に困りまして、陛下の判断を仰ぎたく参りました」
「マリー。
少し落ち着こうか」
「私は落ち着いておりますが」
「何か、国王や貴族、それに軍高官たちは捕虜ではなく犯罪者として扱うというのか」
「はい、先ほどからそう申しております」
「いやいや、それはないでしょう」
「宰相、それはどういうことですか」
「戦争中の敵国の軍関係者なのでしょう。
もう捕虜か戦争犯罪人しかありえないでしょう」
「捕虜については私達には扱いが微妙になりますので判断は悩みますが、戦争犯罪人としては今回はできそうにありません」
「それはいかなる理由で」
「我が国の法律では、逮捕時には令状を読み上げ犯罪行為を明らかにしたうえで身柄を拘束することになっております。
今回、身柄拘束時に戦争犯罪での件では逮捕はしておりませんので、このまま戦争犯罪人として扱うには違法になります」
「え?
マリー。
今の話だと、今回フェノール王国の王を捕まえた時に令状を読み上げたうえで身柄を拘束したのか」
「はい、後ほど詳細な報告書で報告しますが、そのように聞いております。
もっとも令状を読み上げた時に、相手がきちんと我々の話を聞いていたかまでは不明だとのことらしいですが」
簡単にではあるが、王女殿下はあの『タンポポ』の被害についても聞いていた。
流石に現場での惨状までは想像すらできはしないだろうが、それでも広域にスタングレネードを撒いての逮捕劇だと、まともに話は聞けないだろうと言うくらいの理解はしていた。
「は〜、……わかった。
私の方から司法長官に伝えておくから、ここで身柄を引き取ろう。
ここまではマリーが連中を連れてきてもらえるのだよな」
「はい、コクーン内でもう少し取り調べを行い詳細な犯罪行為について改めて逮捕状を請求してからと捜査室長は申しておりましたが、私の方で逮捕状までは保留させております」
「ああ、それで構わない。
そのまま引き取るから」
王女殿下の報告も無事に終わり、今回王宮に訪問してきた目的が果たされたのを確認して、王宮を後にした。
陛下の執務室に残された面々は、王女殿下が執務室から出ていった後、一斉に頭を抱えてしばらく動けなかった。
王女殿下が部屋から出ていった後しばらくして、執務室に入ってきた陛下の秘書官たちは一挙に老けたような感じを受けた陛下たちを見つけて少し騒ぎにもなったくらいだった。




