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1章2話 灯台もと暗し

「記憶喪失…?」

それってつまり、記憶が無いってこと…だよな?

当たり前のことを考えながら眼前の少女を見つめる。

「はい…つい2、3日前以前の記憶が無くて、目が覚めたらどこかの建物の屋上で、名前以外何も思い出せず、当てもなく歩いていたら…」

飢えて行き倒れたということか…それにしても彼女の話を信じるなら約3日間ほど飲まず食わずでフラフラとウロウロしていたということになる。よく警察に見つかったりしなかったな…

「…わかった、にわかには信じ難いけど、とりあえず君の話を信じよう。」

「本当ですか!?」

嘘をついているのならどのみち何を聞いても正直にえないだろう、それなら1度彼女の話を信じてしまった方が楽だ。

「それで…なにか手がかりみたいなものは無いの?気がついた時に持っていたものとか。」

記憶喪失だとしても目が覚める前までは普通に生活をしていたなら財布や身分証の類は持っていてもおかしくはない。

「それが…今来ている服と、後はこれくらいしか…」

そう言って彼女が差し出してきたのは金色の…メダル、だろうか?中央には何かのマークと、縁の部分に『Resistance AD2056』と書いてある。

「AD2056…?」

ADという文字と数字の羅列からするに西暦を表すようにも見えるが…それだと今から38年後という事になる。ならば、何らかの別の意味を持つ文字列なのだろうか…?

どちらにしても、これだけでは何もわかりそうにない。

「他には本当に何も?」

彼女は小さく二度頷いた。

弱った、これでは彼女を家に返そうにも手がかりがない。

「目が覚めた建物って?」

目が覚めたところに行ってみればなにか手がかりが得られるかもしれない。しかし…

「…覚えてません、結構長いこと歩いていたので…でも、大学…みたいな所でした。目が覚めたのは夜間だったので誰もいませんでしたけど…」

ダイヤ乱れが…ますます分からない。彼女はそこの学生という事だろうか?でもどうして大学の屋上なんかで記憶喪失に…?

警察に預けるべきだろうか?しかし記憶喪失で、身分がわかるものも何も無いとなると直ぐに素性がわかるとも思えない。

仮に捜索願などが出されていなかったら、多分、その見込みはほとんどゼロだろう。

そうなったら警察は彼女を預かってくれるだろうか?

「真里奈さん…これから行く宛はあったりする?」

「いえ…本当に何も覚えていないので…」

当然の答えだった。ならばどうするべきか。

俺は自分の部屋を見渡す。

2LDKで、一人暮らしには少しだけ広すぎるくらいの部屋だ。

「とにかく、明日警察署に行ってみよう。それで仮に行っても何も分からなかったら…」

全く、こうやって余計なことをして、自分から面倒に首を突っ込むのは悪い癖だ。

「もし、何も分からなかったら、真里奈さんが望むならここに暫くいてもいい。」

そう伝えると彼女はパッと顔を上げて

「本当に…いいんですか!?」

「まあ、1人で済むには充分すぎる部屋だし。食べ物もまあ足りるだろうし。」

こんなに困ってる女の子を拾ってしまって、投げだすのも後味が悪いし。

「ありがとうございます!」

そうして滝川大和と星真里奈の共同生活は幕を開けたのだった。

そしてこの出来事が、彼の運命を大きく変えることになる。

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「というわけでして、捜索願も出てませんし、何も覚えてないとなると…少なくとも直ぐに身元をお調べするのは難しいですね。」

警察官は悩ましい表情をしている。

星真里奈と出会った翌朝、警察署では全く予想通りの反応が帰ってきた。

「やはりそうですか…では、身元がはっきりするまではうちで預かりたいと思います。」

そう言って警察署をあとにする。

真里奈は肩を落として見るからに落ち込んでいた。

「やっぱり…自分が誰かわからないのって…不安?」

「それもありますし、身元がわかるのに時間がかかればそれだけ滝川さんにはご迷惑をお掛けしますし…」

なるほど、そういう事か。

「俺が迷惑とかは、まあそんなに気に病まなくていいよ。俺も話し相手ができてうれしいし。」

これは本当だ。飲み会に誘われなかったことからも分かるように俺には友人と呼べるのは片手で数える程しかいない。昨日はその友人のひとりに慰めてもらっていた訳だが、現在のところ家に泊まりに来るような友人はいない。なので夜中に話せる相手ができるだけでも結構嬉しいのだ。

それに相手は可愛い女の子だし。

「…これって、犯罪になったりしないよな…」

「なんですか?」

「い、いや!なんでもない!…あと、敬語は使わなくていい。」

「そうです…そう?それなら、敬語はやめま…やめる。」

声にでてた。

一応成人男性であるところの俺が、18歳(推定)と2人で生活する…犯罪の匂いがする…。

しかし、良く考えれば先ほど警察に行ったばかりだ。大丈夫だろう、多分。

その後は、当面の生活に必要そうなものを買い出したりして、下宿に帰る頃には夕方を迎えていた。

「さて、じゃあこれからの事を考えようか。」

部屋にもどり荷物の整理を終え、人心地着いたところで口をひらく。

身元がわかるまでうちで預かるとは言ったものの、かと言って一生預かるということは当然できない。出来るだけ早く彼女の身元を特定しなくては行けない。

幸い、学校ももうすぐ長期休暇に入るので、時間はそこそこ裂けそうだった。

「昨日はよく覚えてないって言っていたけれど、目が覚めた時の学校の様子とかってどんな感じだった?」

やはり一番大事な手がかりはそこだろう。目が覚めた場所がわからない限りはどうしようもない。

「うーん…実は起きた直後の記憶が曖昧で…でも、起きたらすぐ横に大きな機械?みたいなものがあった気がする。」

大きな機械…貯水タンクとか?それとも発電機の類いだろうか、最近では屋上に太陽光発電システムなんかを作る学校もあるらしいし。

「そういう感じのものでは無かった。なんと言うか、言葉では説明しにくいんだけど、独特の形をしてたの。」

独特の形…うーん、やはりこれだけでは手掛かりにならない。手詰まりか?

「それでは続いて、本日のニュースです。」

何気なく、流しっぱなしにしていたニュース番組に目を向けると、そこには電気通信大学…俺の通う大学が映し出されていた。

「なんだ?」

何処かの研究室が賞でもとったのだろうか?そういった話しを聞いた覚えはないが…

「3日前の朝、電気通信大学の東6館屋上に、突如として謎の機械が現れました。」

画面が切り替わり、屋上の様子が映し出された。

そこには全高2メートル強はあろうかという巨大な機械が鎮座していた。

「なんだこりゃ?」

見た事も無い形をしている、何に使うものなのだろう…入口のハッチのようなものがあるのを見る限り乗り物にも見えるが。

「っ…!」

俺が画面に釘付けになっていると、真里奈は驚いたような表情で立ち上がり、言った。

「これです…」

「なにが?」

聞いてから頭の中で繋がった。学校、謎の機械、3日前。

「おいおい、まさか…」

「これが、私の見た機械です!」

灯台もと暗し、とはよく言ったものだった。

手がかりの一つは俺の通う大学だったのだ。


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