1章1話 滝川大和、最低最悪の1日
電気通信大学2年生、滝川大和にとってその日は人生最悪と言ってもよかった。
高校卒業以来付き合っていた彼女に振られたのが1つ目。
サークルの飲み会に自分だけ誘われなかったことが発覚したのが2つ目。
そしてこれから起こる3つ目の出来事が、この日を人生最悪の日に決定づける最大の理由だった。
「うえ、気持ち悪い…」
それは俺が友人に慰めてもらいながら酒を飲み明かした帰りの出来事だった。
「あの…」
下宿に向かう道の途中、どこからか女の子の声が聞こえた気がした。
振り返ってみたが誰もいない。
「幻覚か…」
もう二度と酒を飲むのはやめよう。
朦朧とした頭で直ぐにでも忘れてしまいそうな誓をして、また歩きだそうとすると。
「すみません…」
まただ、弱々しく今にも消えてしまいそうな声。
しかし、振り返ってもやはり誰もいない。
薄気味悪くなってその場から逃げ出そうかと考えた矢先、振り向いた視線のさらにした、地面の上に弱々しく動く影が見えた。
「すみません…助けてください…お腹減っちゃって動けないんです…」
それは18歳ほどの少女だった、呼吸は荒く、こちらへ伸ばした腕は可哀想なほど震えている。
行き倒れ…だろうか。でもそんなの実際にあるのか?
「とりあえず…うち、来ます?」
このまま放置するのも気分が悪い、どのみち下宿は
すぐそこだ。
彼女を担いで部屋にたどり着く頃には、酔いはすっかり醒めていた。
「それで…まず名前を聞いても?それと、両親の連絡先とか。」
部屋に辿り着くとまずは冷蔵庫の中に入っていた食料を彼女に渡した。
彼女はそれを驚異的な速度で平らげ、土下座せんばかりの勢いで感謝の意を伝えてきたのだった。若干引くほど。
「…」
質問に対して彼女は直ぐに答えなかった、何やら困ったような顔をしている。
「なんか…聞かれたくないこと…だったりするのかな?」
両親の事を聞かれたくない…家出かなにかだろうか。
「いえ!そんな事は無いです…無いん…ですけど…」
彼女はまた少し黙り込み、そして重々しく口を開いた。
「名前は…星真里奈、両親は…ちょっと連絡が取れなくて… 」
連絡が取れない?ますます家出が怪しい。
少しづつこれは面倒事に巻き込まれているのではという気がしてきた。早めにおかえり願うべきだろうか…
「…ひとまず了解した、じゃあ君はどうして倒れてたのかな?何があったのか、教えてくれる?」
尋ねると彼女は更に困った顔をして、先ほどよりも長く黙り込んだ。
「…」
カップラーメンが作れるくらいの時間黙り込んでいた彼女は、やがておずおずと顔を上げるとこう言った
「実は私…記憶喪失なんです。」
それは、滝川大和の最低最悪の期間の序章だった。




