主人と従者‐2‐
「今からご披露するは我が剣技!」
よく通るジーグの第一声に、通りすがりと思しき者まで足を止め、振り返る。
「諸国を漫遊しては数多の剣豪と刃を交え、各国王から賞賛をいただいたこの技、一見の価値あり! とくとご覧あれ!」
おもむろに頭巾を取り払ったジーグに、広場中の注目が集まった。
ここトレキバの町では珍しい濃い栗色の髪に、金色の瞳。装束を脱いで現れた屈強な姿と、腰に下げた大剣の見事さ。
そこかしこから上がる感嘆の声を背に、ジーグはもったいぶった足取りで観客の前を横切る。
そうして距離をとって立ち止まったジーグの目配せを合図に、レヴィアは用意しておいた薪を力いっぱい投げつけた。
「はっ」
軽々と振られた大剣が素早く空を切る。
と思った次の瞬間には、真っ二つになった薪が、乾いた音を立てて地面に転がっていた。
沸き起こるどよめきのなか、間髪入れずに投げられる何本もの薪。
それらを優美ささえ感じさせる剣技で断ち割っていくジーグ。
まるで一差の剣舞のように大剣を振るうジーグを見ようと、今や観客たちは何重にも二人を取り囲んでいる。
ジーグの剣が翻るたびに歓声が上がり、熱気が高まっていった。
最後の薪を斬ったジーグが、剣を鞘に収める。
その金属音を聞いたレヴィアは、籠を手にして観客たちの間を回り始めた。
「すごかったなぁ」
「各国王お墨付きも嘘ではないだろう」
「あんなの初めて見たぞ」
「異国の剣士なんて、この町に初めて来たんじゃねぇか?」
集まっている観客たちは、ジーグをもっとよく見ようと、背伸びをしたり人垣の間をのぞき込んだり、それぞれ押し合いへし合いしている。その熱狂ぶりは、喧嘩が起きないのが不思議なほどだ。
あっという間にたまっていく見物料を落とさないように、レヴィアは籠を胸に抱えた。
「あ!」
人々の勢いに押されたレヴィアを、誰かの手が支えてくれた。
(え、だ、誰?)
思わず振り向くと、そこには自分と同じような旅装束の男が、覗き込むようにしながら首を傾げている。
(顔、見られちゃう!)
「あの、えと、ごめん、なさい」
レヴィアは慌てて顔を伏せると、逃げるようにジーグの元へと急いだ。
「あなた、大陸の出身でしょう。瞳がまるで琥珀のようね!」
「こんなすごい剣をどこで手に入れたんだ?」
「次はいつ来る?」
「どこに宿を取っているんだ?もしよかったらオレのところに――」
興奮冷めやらぬ群衆に囲まれ、答えに窮するような質問を浴びせられても、ジーグはさりげなく話題をかわし、会話を続けている。
(……ジーグって、すごいなぁ)
頭巾から顔が出ないように気をつけながらも、レヴィアはジーグに見ほれ続けた。
ひとしきり観客の相手をしたのち、二人は再び旅装束に身を包み、広場を後にした。
「どこ、行くの?」
帰る方向とは逆、市場の中心へと向かうジーグにレヴィアの首が傾く。
「食欲も戻ってきたし、これまで以上に食料を用意したいからな。ついでと言ってはなんだが、お前は何か欲しいものはないか?」
「え、欲しい、もの?」
しばらく考えて、レヴィアがジーグを引っ張っていったのは果物を扱う店だった。
「どれが食べたいんだ? ……芒果? あれでいいのか?本当に?」
何度聞いてもレヴィアは店の奥に鎮座する果物を指さし、ただうなずくだけ。
「他にはないのか?」
「ない」
「靴が傷んでいただろう」
「まだ、はける」
「畑仕事の道具とか」
「ある」
「……そうか」
根負けしたジーグは、それ以上尋ねるのをやめ、腰に下げた財布を開いた。
「今日のお礼だ」
「ありがとう! わぁ、立派な芒果、だね」
小屋へと戻ったレヴィアは満面の笑みでジーグから木箱を受け取ると、いそいそと水場へ向かった。
「もう食べるのか?」
「この間は、すりつぶしたけど、今日は、角切りにしようと、思って」
「今日は? ……レヴィアは食べないのか?」
「えと、僕じゃ、なくて。食べさせて、あげてほしい」
「レヴィアが欲しい物を買おうと言ったんだぞ」
語気を強めるジーグにレヴィアの目が丸くなった。
「そうだよ? もう一度、食べてほしかったんだ。もう、持ってこられないと、思ってたから、嬉しい」
「……そう、か、そのためだったのか……。ありがとう、レヴィア」
「当たり前だよ。ジーグの稼いだお金、なんだから」
少女と見まがうほど愛らしい笑顔を浮かべながら、レヴィアはジーグをまっすぐに見上げていた。
これほど心優しい子が、なぜ自らを「隠し子」などと言うのかと思うと、胸がつまる。
その頬にうっすらと残る痣から目を離さずに、ジーグは黙って微笑みを返した。




