↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/24

主人と従者‐2‐

「今からご披露するは我が剣技!」

 よく通るジーグの第一声に、通りすがりと思(おぼ)しき者まで足を止め、振り返る。

「諸国を漫遊しては数多(あまた)の剣豪と刃(やいば)を交え、各国王から賞賛をいただいたこの技、一見の価値あり! とくとご覧あれ!」

 おもむろに頭巾(ずきん)を取り払ったジーグに、広場中の注目が集まった。


 ここトレキバの町では珍しい濃い栗色の髪に、金色の瞳。装束を脱いで現れた屈強な姿と、腰に下げた大剣(たいけん)の見事さ。


 そこかしこから上がる感嘆の声を背に、ジーグはもったいぶった足取りで観客の前を横切る。

 そうして距離をとって立ち止まったジーグの目配せを合図に、レヴィアは用意しておいた薪(まき)を力いっぱい投げつけた。


「はっ」 

 軽々と振られた大剣が素早く空を切る。

 と思った次の瞬間には、真っ二つになった薪(まき)が、乾いた音を立てて地面に転がっていた。

 沸き起こるどよめきのなか、間髪入れずに投げられる何本もの薪(まき)。

 それらを優美ささえ感じさせる剣技で断ち割っていくジーグ。

 まるで一差(ひとさし)の剣舞のように大剣を振るうジーグを見ようと、今や観客たちは何重にも二人を取り囲んでいる。

 ジーグの剣が翻(ひるがえ)るたびに歓声が上がり、熱気が高まっていった。


 最後の薪(まき)を斬ったジーグが、剣を鞘(さや)に収める。

 その金属音を聞いたレヴィアは、籠(かご)を手にして観客たちの間を回り始めた。


「すごかったなぁ」

「各国王お墨付きも嘘ではないだろう」

「あんなの初めて見たぞ」

「異国の剣士なんて、この町に初めて来たんじゃねぇか?」

 集まっている観客たちは、ジーグをもっとよく見ようと、背伸びをしたり人垣の間をのぞき込んだり、それぞれ押し合いへし合いしている。その熱狂ぶりは、喧嘩が起きないのが不思議なほどだ。

 

 あっという間にたまっていく見物料を落とさないように、レヴィアは籠(かご)を胸に抱(かか)えた。

「あ!」

 人々の勢いに押されたレヴィアを、誰かの手が支えてくれた。

(え、だ、誰?)

 思わず振り向くと、そこには自分と同じような旅装束の男が、覗き込むようにしながら首を傾(かし)げている。

(顔、見られちゃう!)

「あの、えと、ごめん、なさい」

 レヴィアは慌てて顔を伏せると、逃げるようにジーグの元へと急いだ。

「あなた、大陸の出身でしょう。瞳がまるで琥珀(こはく)のようね!」

「こんなすごい剣をどこで手に入れたんだ?」

「次はいつ来る?」

「どこに宿を取っているんだ?もしよかったらオレのところに――」

 興奮冷めやらぬ群衆に囲まれ、答えに窮するような質問を浴びせられても、ジーグはさりげなく話題をかわし、会話を続けている。

(……ジーグって、すごいなぁ)

 頭巾(ずきん)から顔が出ないように気をつけながらも、レヴィアはジーグに見ほれ続けた。


 ひとしきり観客の相手をしたのち、二人は再び旅装束に身を包み、広場を後にした。

「どこ、行くの?」

 帰る方向とは逆、市場の中心へと向かうジーグにレヴィアの首が傾く。

「食欲も戻ってきたし、これまで以上に食料を用意したいからな。ついでと言ってはなんだが、お前は何か欲しいものはないか?」

「え、欲しい、もの?」

 しばらく考えて、レヴィアがジーグを引っ張っていったのは果物を扱う店だった。


「どれが食べたいんだ? ……芒果(マンゴー)? あれでいいのか?本当に?」

 何度聞いてもレヴィアは店の奥に鎮座する果物を指さし、ただうなずくだけ。

「他にはないのか?」

「ない」

「靴が傷んでいただろう」

「まだ、はける」

「畑仕事の道具とか」

「ある」

「……そうか」

 根負けしたジーグは、それ以上尋ねるのをやめ、腰に下げた財布を開いた。


「今日のお礼だ」

「ありがとう! わぁ、立派な芒果(マンゴー)、だね」

 小屋へと戻ったレヴィアは満面の笑みでジーグから木箱を受け取ると、いそいそと水場へ向かった。

「もう食べるのか?」

「この間は、すりつぶしたけど、今日は、角切りにしようと、思って」

「今日は? ……レヴィアは食べないのか?」

「えと、僕じゃ、なくて。食べさせて、あげてほしい」

「レヴィアが欲しい物を買おうと言ったんだぞ」

 語気を強めるジーグにレヴィアの目が丸くなった。

「そうだよ? もう一度、食べてほしかったんだ。もう、持ってこられないと、思ってたから、嬉しい」

「……そう、か、そのためだったのか……。ありがとう、レヴィア」

「当たり前だよ。ジーグの稼いだお金、なんだから」


 少女と見まがうほど愛らしい笑顔を浮かべながら、レヴィアはジーグをまっすぐに見上げていた。

 これほど心優しい子が、なぜ自らを「隠し子」などと言うのかと思うと、胸がつまる。


 その頬にうっすらと残る痣(あざ)から目を離さずに、ジーグは黙って微笑みを返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。