主人と従者‐1‐
夜半まで降り続いた雨は嘘のように上がり、朝には青空が広がっていた。
まだ寝ているかもしれないと考え、そうっと取っ手に手を掛けようとしたレヴィアの目の前で、扉が大きく開け放たれた。
「え、あ……、お、おはよ?」
「ああ、おはよう」
小脇に何やら布のかたまりを抱えているジーグが、視線でレヴィアを中へと誘った。
「それ、は?」
「旅装束だ。お前には丈が長いだろうから、腰帯で調節してくれ。今から市場に行くぞ」
「市場?」
よくよく見れば、ジーグが身に着けているのはレヴィアが渡した下男用の作業着ではなく、最初に出会ったときの黒装束である。
「それ、新しい、服?」
「いや」
「でも、やぶけて、ない」
「繕ったからな」
「ジーグ、縫物、するの?」
「レヴィアだってその作業着、自分で丈直しをしているんだろう?」
「……これ以上小さいの、ない、から」
「それは使用人のための服だろう。お前はここの小間使い、ではないんだよな?」
「そう……、だけど……」
「よし、すぐに出発するぞ」
口ごもってうつむくレヴィアにそれ以上問いかけることなく、ジーグは革袋を背負った。
「昼前には場所を取っておきたいからな」
「でも、あの、敷地から出るなって、言われてる」
「頭巾を目深にかぶれば顔などわからない。万が一、誰かに何か聞かれたら、私が旅の途中で拾った孤児だと説明しよう。そうだな、私たちが出会ったのは……」
仮初の身の上話を、ジーグはさも事実であるかのように、よどみなく語って聞かせた。
そうして最後に。
「困ったことがあれば、すべて私に任せればいい」
ジーグの自信に満ちた一言は、レヴィアを安心させるに十分だった。
市場の活気と熱気に圧倒されながら、レヴィアは辺りをキョロキョロと見まわした。
居並ぶ天幕には、見たこともない食べ物や商品が並んでいる。あたりには嗅いだことのない匂いが漂っていた。
大勢の人々がその前を行き交い、店主たちは自慢の品を掲げて盛んに客を呼び込んでいる。
そんな市場の中央広場では、さまざまな演者たちが出し物の支度を始めていた。
楽器を試し弾きする者や、華やかな踊り子、奇抜な装いの大道芸人――目に映るものすべてが、レヴィアの興味を引いた。
「よし、このあたりでいいだろう」
ジーグが荷物を下ろした重い音に、レヴィアが我に返る。
「ここ?」
「ああ、なかなかいい場所が空いていたな。お前の役割だが……」
「……うん、うん。わかった」
「では頼んだぞ」
入念に手順の確認をしたのち、ジーグは辺りを見渡して大きく息を吸った。




