↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/25

父と子‐4‐

 すっぽりと雪に覆われた中庭を見渡せる広間に入ると、父親は腰の剣を抜き、刃を確かめるように目の前にかざした。

「ふむ、誰もついてこないのか。……審判役をどうするか」

「僭越(せんえつ)ながら、私が務めさせていただきます」


 父親の独り言に応えたのは、小雪の舞う庭にたたずむ黒装束の大男だった。男は掃出(はきだ)し窓から広間に入ると、父子(おやこ)に一礼する。

「お側に寄っても?」

「許す」

 男は敵意がないことを示すように、ゆっくりと父子(おやこ)のもとへ歩み寄り、膝をついた。

「貴君が息子の新しい師でおられるか。どうか顔を上げてほしい」

「はい。この度は拝顔の栄誉を賜(たまわ)り、恐悦に存じます。トーラ国王、ヴァーリ陛下」


「……え?」

 なんの冗談かとレヴィアは固まるが、ジーグのまなざしは、今しがた「陛下」と呼んだ父親にまっすぐ向けられている。

「殿下にご身分を明かせずにいらしたご事情は、今なお変わらぬのでしょうか」

「そうだな。事情はそちらにもありそうだが。大陸の剣士殿」

 国王の視線が、ジーグの琥珀(こはく)の瞳から、その片手に支えられた大剣(たいけん)へと移った。

「ないとは申しません。そうした事情のなかで、レヴィア殿下に命を救っていただきました。そのご恩に報いるため、これより全力でお仕えする所存です」

「頼もしいことだ」


 レヴィアの父――トーラ国王は目元を緩めた。

「では、早速ではあるが、貴君が授けたという剣術を見せてもらおう。レヴィア、お前の剣は」

「今、お持ちいたします」

 頭巾(ずきん)を目深(まぶか)にかぶり、襟巻(えりまき)で顔の下半分を覆った旅装束(たびしょうぞく)の人物が、庭から身軽に広間へ入ってきた。剣を片手にしたその人物は国王に略式の礼をとると、レヴィアの前に膝(ひざ)をつき、顔を上げる。


「……あの子は、あんなふうに笑うのか……」

 思わずつぶやいた国王の視線の先で、レヴィアは口元をほころばせ、旅装束の人物とうなずき合っていた。


「始め!」

 ジーグの合図と同時に、父子(おやこ)の刃が真っ向から激突した。


 キィィン――ッ!

 鋭い金属音が広間に弾け飛ぶ。


 地を蹴り、風圧を感じるほどの勢いで踏み込む父親。

 その迅雷の如き一撃を、レヴィアは身を沈めて受け止め、滑らせるように斬り返した。

 火花が散る。間近で視線を交わす二人の刃が、ギリリと音を立ててせめぎ合う。


 父親がふっと剣を引き、拮抗していた力の均衡をわざと崩した。

 前のめりになりかけたレヴィアは、瞬時に体幹を締め直して身を翻(ひるがえ)す。

 追う黒の軍服が猛然と躍動し、かわす白銀の裾(すそ)が鮮やかに舞い上がった。

 縦横に交錯する二本の鉄光が、空間を激しく切り裂いていく。


「どっちが勝つ?」

 旅装束姿のアルテミシアが、楽しそうに小首を傾げた。

「わずかにレヴィアが有利でしょうか。彼はこの一年足らずで、体力も筋力も格段に伸ばし、技術を磨きました。なにより、彼が毎日受けている剣は、誰のものだと思っておられますか」

「私だな」

「そこはジーグ、とおっしゃっていただきたかったですね。レヴィアに両手剣を教えたのは私ですよ」

「両手剣はジーグに負けるからな」

「おや、珍しく素直ですね。明日は雨でしょうか」

「トーラの真冬だぞ。雪に決まってるだろう」


 軽口を交わす間も、二人の鋭い視線は、激しく斬り結ぶ父子(おやこ)を正確に追っていた。

「それに、陛下は本調子ではいらっしゃらないようです」

「夜通し馬車を走らせたのだろうな。本来、あの程度ではないだろう」

「激務のなか、やっと時間を作られたのでしょう。ほら、もうすぐ決着がつきますよ」


 その言葉と同時に、父親が深く踏み込んだ。レヴィアの死角めがけて、鋭い一閃が走る。

 だが、レヴィアは一歩も退かなかった。

 真っ向からその重い刃を受け止めると、円を描くような流れる動作でその力をいなし、父親の懐へと斬り返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。