↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/23

おいしいということ

 少しずつ、レヴィアは二人と過ごすことに慣れていった。

 心配していた食事の作法も、ゆっくり食べるよう促してみれば、食器の細かな扱いを知らないこと以外、何の問題もなかった。

「帝国宮廷の饗宴(きょうえん)に招かれても心配ないぞ。レヴィを家畜呼ばわりしたヤツの目は節穴だな。どうせ役に立たない目なら、本当に穴にしてやる」

 乱暴で物騒な励まし方をするアルテミシアだが、その所作(しょさ)には実に品がある。

「この川魚、串に香木を使っているんだな」

「え、うん。そう、だね」

 魚を串から外す動作でさえ優美で、見とれていたレヴィアは思わず視線をさまよわせた。

「塩加減も絶妙だし、本当においしい」

「おいしい?」

 アルテミシアの笑顔にしばし見入ったあと、レヴィアは自分の焼いた魚をまじまじと見つめた。

「……そう、か。そうだね」


 ひとりで食べていたときと同じ魚、同じ調理法。

 それなのに「おいしく」て、いくらでも食べられそうな気がする。

 そして、気が付けば――。


「あの、えっと。僕、こんなに食べちゃって、二人とも、おなかいっぱいに、なった? ……明日、狩りに行ってこようかな」

「壁に掛けてある弓矢は、やはりお前のものか。かなり使い込まれているが、習っていたのか」

「武芸は、いろいろやらされた、から」

「剣も?」

 ジーグに重ねて尋ねられた途端、レヴィアの表情がすぅっと消えた。

「向いてないって、言われたけど」

「向いていない? どんな剣を使っていたんだ」

「軍で使うのと、同じだって」

「軍人用? なんだ、それは。まったくダメだな」

 呆れかえるようなアルテミシアの口調に、レヴィアはしゅんとうなだれる。

「そう、だね。ダメ……だね」

「レヴィのことを全然考えてない、最低なヤツのやることだ」

「最低な、ヤツ? 僕、じゃなくて?」

「そうさ」

「あ……」

 視界の端にアルテミシアの両手が映ったかと思うと、そっと伸びてきて、レヴィアの右手を包み込んだ。


 他人の手を怖がるレヴィアに、アルテミシアとジーグは細心の注意を払って接した。

「人馴(ひとな)れしていない猫を懐かせるように。慎重にですよ」

 ジーグの助言どおりに接しても、無意識の震えをレヴィアは抑えられないようだった。

 それでも、毎日少しずつふたりの手に慣れていくレヴィアの様子は、本当に怯(おび)えていた子猫が懐いてくるようで。

 初めて怖がることなく、アルテミシアの指を受け入れてくれたときの嬉しさといったら!

 そのままなで回したいほどだったが、きっとレヴィアは嫌がるだろうと、アルテミシアはぐっと我慢したのだ。


「レヴィの手はまだ小さい。軍人用なら両手剣だろう? バカじゃないのか、そいつは。ジーグ、私の剣をここに」

 アルテミシアの指示にいったん居室に下がったジーグが、一本の短剣を持って戻ってきた。

「まず、これを使ってみたらいい」

 アルテミシアはジーグから剣を受け取ると、レヴィアの手を包み込むようにして柄を握らせた。

 それは湾曲した幅広の片刃の短剣で、見た目より軽く、柄は作業用の小刀に似てレヴィアの手になじんだ。

「……これは?」

「大剣(たいけん)を振り回すだけが剣術ではないからな。適性も考えずに剣を教えるなんて、ダメもいいところだ。私はこれで、ジーグにだって勝つぞ」

「ミーシャ、剣士なの?」

 驚くレヴィアに、アルテミシアは得意げに鼻を鳴らす。

「ふふん、“リズィエ”だからな」

「弓は味方も殺す勢いですけれどね」

「大きなお世話だっ」

 鮮緑(せんりょく)の瞳が、機嫌の悪い猫のように細くなった。

「おお、怖い怖い。失礼いたしました」

「失礼だなんて思ってもいないくせに。まったく、なんて従者だ。……レヴィ」

 ひとしきり文句を言ったあとで、アルテミシアは優しい声で呼びかける。

「完治したら、私が教えてあげる。それまではレヴィに預けておくから」

 短剣の柄をぎゅっと両手で握り締めたレヴィアは、アルテミシアをまっすぐに見つめて、こくりとうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。