第8話:お国自慢?
私はこの世界の知識が全くない。自分の種族のことも、国や世界についても。
ありがたいことに、レイラさんは私を「訳ありの記憶喪失」として扱ってくれている。
「じゃあ、王都への道すがら、この国についていろいろ教えてあげるね!」
ガタゴトと揺れる馬車の中で、レイラさんは広大な地図を広げてお勉強会を始めてくれた。
氷麗のいる世界:『アルビオン連合王国篇』
私たちが今いるのは、世界地図で見ると比較的北の方に位置する大きな島国。4つの国が寄り添う「連合王国」を名乗っているらしい。
*イグラシア王国 : 島の南側3分の2を占める超大国。連合の実質的な中心。
*ランズベルド王国:北に位置する寒冷な国。今私たちがいる場所。かつてイグラシアに敗北し、現在は名目上「王国」だけど、実質はイグラシアの一州として自治権を認められている状態。
*ウィンブル公国: イグラシアの西にある小国。南の大陸の「フランク王国」に占領されていた地域が独立した歴史があり、公王は代々フランク王国の王族が就任する。
*アルミラル王国:ランズベルドのさらに西にある島。名目上は自治を認められている(放置されている)が、実際は小さな部族が乱立する荒々しい、国で統一した政府はなく、何年かに一回、統一部族大会(と言う名の戦争)で、国の長が決まる。それでも、国決定は部族長による衆議制が取られていて、意見が割れた時は、代表者による神決闘で決まる。別名「バイキングの国」
「世界は広大でね、海を渡った南の大陸には大国フランクをはじめ、たくさんの国があるのよ。で、私たちが今目指しているのが、イグラシア王国の首都(王都)『コロン』ってわけ!」
なるほど、完全に中世ファンタジーな世界観だ。
そして、ファンタジーといえばお約束のあいつら――『魔物』も当然のように存在する。
「はぁ……」
お勉強会の最中、私は小さくため息をついて馬車の窓の外を睨みつけた。
新スキルの広域探索レーダーに、不快な赤信号が大量に灯ったからだ。
宿舎を出て数日。王都へ続く街道の先、森の奥から濁流のような足音が迫っていた。
緑色の醜悪な小鬼――ゴブリンの大群。その数、ざっと50体。
なんだろう、スタンピード(魔物の大暴走)でも起こっているのかな? 心なしか、後ろの方には一回り大きな大型個体の気配も混ざっている。
「「「敵襲――ッ! ゴブリンの群れだ!!」」」
周囲を警戒していた男の騎士たちが武器を構える。
「あお〜〜〜ん!!」
主人の不機嫌を察したのか、秋田犬サイズの雪華が、鋭い遠吠えをあげて先陣を切ろうと身を乗り出した。
「雪華、ここは私に任せて」
私はすました顔のままそう告げると、すっと馬車の外へ出た。
周囲の温度が劇的に下がり、乾いた地面にハラハラと白い雪が舞い降りる。
「――出でよ、我が眷属」
私の冷徹で、けれど力強い小さな声が街道に響き渡った。
直後、地面に積もった雪が生き物のようにボコボコと盛り上がり、そこから「それ」が次々と這い出てくる。
手のひらからチワワサイズの、頭にバケツ(氷製)を乗せた、最高に可愛いミニ雪だるまたち。
その数、きっちり100体。
「みんな、やっちゃって、手加減無用!」
私が冷たく指をさした瞬間、可愛いマスコットたちは「狂戦士」へと変貌した。
「「「「チチチチチッ!!」」」」
エグい連携だった。
100体のうち、後衛の50体がマッハの速度でカチコチの「雪玉(※実質つぶて)」を機関銃のように投げつけ、前衛のゴブリンたちの顔面を容赦なく粉砕していく。
そして前衛の残り50体は、どこから取り出したのか短い木の棒を両手に握り締め、怯んだゴブリンたちに群がって頭部を殴る、殴る、殴る、殴る。
「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁ!?」
「ブモォッ!?」
可愛い見た目の雪だるま集団に、数の暴力でタコ殴りにされるゴブリンたち。完全にシュールな地獄絵図だ。
「がうッ!」
生き残った大型のボスゴブリンが怯んだ隙を見逃さず、雪華が電光石火の早さで跳躍。その強靭な牙でボスの一撃を噛み砕き、一瞬で屠り去った。
ものの数分で、50体の群れは文字通り全滅した。
「……よわっちぃ」
私はパチンと指を鳴らし、用済みの雪だるまたちを雪へと還した。
あとに残されたのは、あまりの光景に絶句し、凍りついたように動けなくなっている騎士団の男たち。
「……お前ら、帰ったら天国コース決定な」
「「「なんでだよ!?」」」
呆然とする男たちに、レイラさんの無慈悲な追撃(訓練宣告)が飛ぶ。
私はそんな男たちを冷ややかなジト目で見つめながら、駆け寄ってきた雪華の頭を「えらいえらい」とクールに撫で回すのだった。




