第4話:ここはどこ?私は氷麗
なんだかんだで騒ぎがどうにか落ち着き、私は宿舎の一室でレイラさんと机を挟んで向かい合っていた。
ちなみに、最初に私がベッドの中で思いっきり殴り飛ばしてカチンコチンの氷漬けにした男(騎士団長じゃない方)は、いまだに部屋の端っこにゴロゴロと転がったままだ。もちろん、アイスヒール内包の親切設計なので死んではいないけれど、誰も解凍しようとしない。不憫。
「それじゃ、いくつか質問させてね。……氷麗ちゃんは、どっから来たの?」
レイラさんが手帳を広げながら、優しく問いかけてくる。
「……よくわからない」
「じゃあ、どうしてあの森にいたの?」
「……気がついたら、あそこに居た」
嘘は言っていない。本当に気づいたらあの森だったから。
レイラさんは「記憶喪失ってわけじゃない、何かの魔法事故かな?」と小さく呟いて、次の質問へ移った。
「氷麗ちゃんの種族って『雪女』っていうんだよね? それって……魔族?」
「魔族じゃないと思う。……そもそも、魔族って?」
「あ、そっからか〜」
レイラさんは苦笑しながら、この世界の常識を教えてくれた。
いわく、魔族というのは魔力の澱みから生まれる存在らしい。世界のあちこちで魔力が濃く溜まると『澱み』が生まれ、そこから発生する異形たちのことをこの世界では魔族と呼ぶのだそうだ。
「私は雪女。はるか遠い国では『妖』と呼ばれることもある存在。……だから、多分魔族ではないと思う。それに私は普通に生まれた・・・と思う」
雪女が子供を持つ話はあるし。
「アヤカシ……聞いたことないなぁ。じゃあ、氷麗ちゃんのあの氷の力は魔法?」
「違う。似ているけれど、まったく違うもの、妖力って言う言い方する」
「・・・どう違うの?」
「よく説明できない。呼吸と同じでなんとなくできるから、ウ〜ん、上手く言えない。」
魔法が「魔力を消費して世界の法則を書き換えるもの」だとしたら、私の氷雪魔術は「雪女としての呼吸」のようなものだ。
「ふ〜……。なんか、聞けば聞くほどますますわかんないや」
レイラさんはお手上げといった様子で手帳を閉じ、最後にまっすぐ私を見つめてきた。
「最後に聞くけど、氷麗ちゃん、これからどうするの?」
「どうもしない」
「どこかに用事があるとか、行きたい場所があるとかは?」
「特に決めてはいない」
長生きしたいし、熱いのは嫌だけど、具体的な目的地があるわけじゃない。
できれば涼しい所、冷蔵庫とかで引きこもりたい。は!冷蔵庫のプリン、しまっ他〜食べてからって今はそんなことどうでもいい。しかもきっと火事で燃えてる。
でも、限定で並んでやっと買ったのにな。
そんなどうでもいいこと(よくないが)考えていたら、レイラさんは、少しだけ表情を和らげて、提案するように身を乗り出してきた。
「……それならさ、しばらく私たちと一緒にいない? ほら、こういう騎士団っていう場所だから、男ばっかりで女の子が少なくてね、寂しいんだよね」
(女の子が少ない……つまり、むさ苦しい男たちを避けて、レイラさんたちと合法的に一緒にいられる?)
チラリと部屋の周りを見回す。隅っこで凍っている男(死んでない、と思う)を除けば、ここにはレイラさんと私しかいない。男がいない空間は精神的にとても快適だ。
「……しばらくなら、一緒に居てもいい」
ツンとすました顔のまま、私はコクリと頷いた。心の中では『レイラお姉様と一緒! やったー!』と元気印がガッツポーズを決めているけれど、表情には一切出さない。
「よし! じゃあ決まりね!」
レイラさんは嬉しそうに破顔して、私の小さな手をそっと握った。温かい手だ。お母さんみたい、というのはあながち間違いじゃないかもしれない。
「後で、騎士団にいる他の女の子たちも紹介するね。みんな良い子だからさ」
「うん」と短く返事をしながら、私はこれからの異世界生活に、ほんの少しだけ期待を膨らませていた。




