閑話:私風の制服を作りたい
「――というわけだから、マリーさん。この学園指定の制服(地味な紺色の一着)の型紙をベースに、私風に大改造してほしいの」
王立魔法魔術学園への入学が決まった翌日。私はキラースパイダーの最高級シルク(医療用の弾き。通称・不良品)を抱えて、マリーさんの仕立屋へと突撃していた。
「まぁまぁまぁ! 氷麗ちゃん、学園の制服をオーダーメイドだなんて、最高に燃えるご依頼じゃない! 支給される既製品なんて、あんなのただの布切れよ! このマリー様が、学園の歴史を塗り替えるレベルの傑作に仕上げてあげるわ!」
マリーさんは鼻息を荒くしながら、キラースパイダーの糸で作られた白く輝く布地を広げ、極太の腕でテキパキとメジャーを振り回し始めた。
「それで、氷麗ちゃんのこだわり(指定)はどんな感じかしら?」
私はツンとすました顔のまま、お気に入りの和装の袖から、事前に自分で描いておいた(ちょっと不器用な)デザイン画を差し出した。
「……先ず、色は『白』を基調にして。雪の白。汚れても私の魔力(冷気)で自動洗浄・自動修復されるように裏地に魔術式を編み込んで」
「相変わらず服に付与する機能がトンデモないわね!? でも白ベースの制服、絶対に可愛いわ!」
「それから、スカートは可憐なひだ付き(プリーツ仕様)で。動いたときに綺麗に広がるようにしてほしい。そのひだの縁には、アクセントとして『金色のリボン』をあしらって。白と金の組み合わせは綺麗だから」
「あら、清楚でありながら高貴! 公爵家預かりのお嬢様としての品格もバッチリね!」
マリーさんは目を輝かせながら、デザイン画にサラサラとプロの修正線を加えていく。
「……最後の一押しに。上着の襟元や胸元、それからスカートの裾の所々に、銀の糸で『雪の結晶の刺繍』をちりばめて。光が当たったときに、さりげなくキラキラ光るように」
「完璧だわ……! 白い蜘蛛の絹糸、縁取る金色のリボン、そして踊るような銀の雪結晶の刺繍……。地味で頭の硬い学園の制服が、まるで雪の妖精のドレスに生まれ変わるわね! 腕が鳴るわぁ!!」
数日後。店に呼び出された私は、完成した「私風の制服」に袖を通し、姿見の前に立った。
鏡に映っていたのは、小柄な私の体型に完璧にフィットした、息をのむほど美しい制服姿だった。
全体は、純白の雪を思わせる輝かしいホワイト。
上着のショートジャケットはタイトで動きやすく、胸元と袖口には、細密な銀糸で編まれた大小様々な【雪の結晶】が、まるで本物のダイヤモンドダストのように繊細にきらめいている。
そして、一番のこだわりであるスカート。
しっかりと折り目のついた、綺麗なひだ付き(プリーツ)のデザインだ。私が一歩歩くたびに、上質なクモシルクのひだが滑らかに揺れ、その裾に施された【金色のリボン】が、まるで光の軌跡を描くように美しく円を描く。
どこからどう見ても、一国の王女様か、さもなくばお伽話の雪の精霊にしか見えない仕上がりだった。
「……ん。完璧。マリーさん、ありがとう。これなら学園の退屈な授業も、少しはマシな気分で受けられそう」
「最高に似合ってるわよ、氷麗ちゃん! 嗚呼、早くこれを着て歩く姿をレイラに見せてあげたいわ!」
自分の傑作を前に大満足でハンカチを噛み締めるマリーさん。
ちなみに、後からこの制服を見たレイラさんは、あまりの美しさに悶絶しつつも、「学園の校則(紺色指定)を完全にぶっちぎってるんだけど、本当にこれで登校するの……!?」と、顔を真っ青にして頭を抱えることになるのだが――それはまた、別のお話である。
ちなみに氷麗の制服を見た、高貴の貴族令嬢がマリーの店で同じ制服を発注したのは、言うまでもなかった。生徒会も動いて、制服の仕様変更がなされた。
そして、男子の制服のデザインを依頼したのだが。
「・・・・男は布一枚でもいい」
「・・・・パンチ一枚で走れ」
「・・・・なんなら裸で踊れ」
容赦のない、氷麗であった。




