第30話:『貴殿の入学を許可します』
ある日の朝、白狼騎士団の女子寮の窓を、コンコンと叩く音が響いた。
見ると、そこには一羽の立派なフクロウが、一通の重厚な手紙をくわえて佇んでいた。
「……レイラさん。お手紙をフクロウが持ってきたんだけど」
私はツンとすました顔のまま、受け取った手紙をリビングにいたレイラさんに見せた。
手紙の表紙には、金色の蝋で不気味なほど立派な紋章が刻印されている。中身を開いたレイラさんは、その内容を見るなり「えええっ!?」と素っ頓狂な悲鳴をあげた。
『王立魔法魔術学園・中等部。クロックフォード公爵家預かり、氷麗殿。貴殿の入学を許可します』
「……レイラさん、このクロックフォードって?」
「あ、ええとね……それは私の婚約者である第二王子殿下に、婚姻後に下賜される予定の新しい公爵家の家名よ」
「……預かり?」
「そう。つまり、あなたが形式上、私の実家(クロックフォード公爵家)の養女、あるいは後継者候補として籍を置くって扱いになっているのよ」
ん? 待って。聞き捨てならない言葉が混ざっていた。
「……日取り、決まった?」
「え? ええ、まぁ……来年の春にね。マリーさんからそれとなくつつかれて、観念して進めたのよ」
「おめでとうございます」
「ありがとう。……って、話を逸らさないで!」
レイラさんが顔を真っ赤にしながら書類をパタパタと仰いだ。
「で? この魔術学園って何?」
「まぁ、基本的には貴族の子弟が通うエリート学校よ。魔法が使えれば平民でも通えるけれど、それなりに厳しい試験を突破しなきゃいけないはずなんだけど……」
「……『許可』って書いてある」
「試験をすっ飛ばして一発合格(特待生)になってるわね……。多分、王様だわ。先の脱税摘発や医療改革の件で、氷麗ちゃんを敵視する保守派の貴族連中から、色々としつこく言われたんだと思うの。『身元の知れない小娘をのさばらせるな』って。だから、公爵家の後ろ盾を与えて学園に囲い込むことで、貴族たちを黙らせる算段ね」
「……レイラさんも貴族」
「ま、うちはね〜」
苦笑いするレイラさん。
なるほど、王様が私を保護(あるいは貴族のバカ息子たちを監視)するための、大人たちの政治的思惑というやつか。なんとなく言いたいことは分かった。
何事も経験
「……で、これって断れない?」
「う〜ん、王命に近いからちょっと難しいかな。っていうか、普通の女の子として学校に通うのは、私も大賛成だしね」
「でも……めんどくさい」
私のジト目での抵抗に、レイラさんは優しく微笑んで私の頭をなでてくれた。
「大丈夫よ。もし通ってみて、どうしても周りの貴族の子たちと合わなかったら、いつでも辞めていいから。とりあえずは少し通ってみましょ? 何事も経験よ」
前世のベストセラー小説の主人公のような気分になりながらも、私は「まぁ、それならいっか」と小さく頷いた。退屈な毎日に新しい刺激があるのも悪くない。
「……わかった。じゃあ、制服はマリーさんに作ってもらおう」
「えっ!? 学園指定の制服があるはずだけど……」
「ダメ。既製品は汚れるし破れる。土蜘蛛の最高級シルク(不良品)をマリーさんに渡して、自動洗浄機能付きの最強ドレス風制服に改造してもらう」
「マリーさんに頼んだら、絶対に学園の校則をぶっちぎるレベルの、もの凄く派手で可愛いフリフリの制服になりそうなんだけど……っ!」
頭を抱えるレイラさんを他所に、私は早くも脳内で「カトリーヌ、学園で貧血で倒れる生徒がいたら血液銀行の顧客にしなさい」「ボス、学園の裏山にキラースパイダーの罠を張っておきますか?」という配下たちとの学園サボり(ビジネス)計画を練り始めるのだった。
こうして、異世界の雪女による、嵐の予感しかしない学園生活が幕を開けようとしていた。




