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異世界妖怪奇譚〜雪女の場合〜  作者: るうと280
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第29話:ひと騒動終えて


魔鉱山の落盤事故は、王立総合病院と保健局にとって、その存在意義を証明する初の大舞台となった。


結果は、死亡5名、重軽傷者多数。

非常に痛ましい犠牲は出てしまったが、迅速なトリアージとカトリーヌたちの輸血、ジャック先生の外科手術により、運ばれてきた負傷者の大半は無事に命を取り留め、復帰できるまでに回復した。


亡くなった5名は、落盤の直撃をその身に受けた人たちだった。いくら絶対零度で時間を止められる私でも、頭部が完全に潰れてしまっていては、どうしようもなかったのだ。

それでも、遺族からは涙ながらに何度も感謝された。この世界では、こういう事故が起きると労働者はそのまま炭鉱の奥に埋められて終わることが多い。遺体が五体満足で手元に返ってきただけでも、奇跡に近いことだったのだ。


なお、崩落した坑道からの遺体収容や、生き埋めになった人々の救助には、私が臨時で手配した土蜘蛛麾下の『キラースパイダー』たちが大活躍した。


「……あなたたち、穴掘りも糸での補強も得意でしょ? これから一部を組織化して、トンネルの強度強化とかの土木工事に従事しなさい」

「へいっ! 喜んでお仕事させていただきます、ボス!」


お酒(報酬)の力で完全に調教された土蜘蛛たちは、今や立派な国のインフラ専門職人だ。

王様と王妃様も「魔物を有効利用するとは!」と喜んでこの土木組織化を許可してくれた。ちなみに、横で話を聞いていた王太子殿下は、相変わらず私の冷気でカチンコチンに凍りついたままである。


赤く輝くドレスと、無欲な雪女


事故から数日後。王宮では、先の事故の救助活動を労うための犠牲者を追悼するための夜会が催された。

(夜会での寄付金は、総合病院の運営費に回される)


会場に現れた王妃マーガレット様を見て、貴族たちから一斉にため息が漏れた。

王妃様が身に纏っていたのは、私がプレゼントした例のドレス――土蜘蛛たちの最高級シルクをマリーさんが鮮やかな赤に染め上げ、縫い上げた一着だ。光を浴びるたびにキラキラと神秘的に輝くその姿は、まさに国母たる美しさだった。

(なお、マリーさんのお店には、定期的に医療用として弾かれたクモ糸の失敗作が納品されるシステムができ上がった。ウィンウィンである)


夜会の始まりに先立ち、まずは全員で先の事故の犠牲者に黙祷を捧げる。

その後、素晴らしい総指揮を見せた保健局局長・カッシーニ夫人に盛大な褒美が下された。


そして、ついに私の番がやってくる。


「ツララ殿。前回の脱税摘発に続き、今回の迅速な救命活動、誠に見事であった。よって、其方に『レインフォード』の姓を贈り、爵位を賜ることとする!」


王様の厳かな声が響く。普通なら感涙に咽ぶ場面だが、私はジト目のまま一秒で答えた。


「……いらない」


「ぶっっっ!?」


同行してくれたレイラさんが、文字通り恐怖で凍りついた。慌てて私の肩を掴んで揺さぶる。

「つ、氷麗ちゃん!? せっかくの国王陛下のご厚意なのよ!?」


「私は、ただ自分がやりたいことをやっただけ。報酬はいらない」

「あ、あのね、氷麗ちゃん……っ!」


「あらあら、困ったわね。それでは、氷麗ちゃんのあまりに大きな功績に対して、私たちはどうやって報いたらいいのかしら?」


王妃様が困ったように、しかし愛おしそうにクスクスと笑う。私はすん、と鼻息を漏らして首を振った。


「……今回、本当に活躍したのはカッシーニ夫人と、ジャック先生が率いる医師団。そしてカトリーヌだよ。私は少し軽いお手伝いをしただけ。だから報酬は、事故で亡くなった犠牲者の遺族に全額あげて」


静まり返る会場。

自らの利権のことしか頭にない貴族たちの中で、爵位をゴミのように捨て、すべてを弱者に分け与える12歳(見た目)の少女。


私の要望は、のちに事故や戦災で命を落とした、遺族の生活を助けるための基金を設立するきっかけとなった、これにより、多くの孤児が救われることになる。お金はあんまりあってもね。貴族になると色々めんどくさいし。


数秒の沈黙の後――王様が「ガハハハハ!」と、割れんばかりの大爆笑を響かせた。


「潔いな! ではツララ殿、今回はその言葉に甘えて、国からの『借り』にしておこうではないか。今度何かあった時には、必ずこの借りを返そう。あるいは、其方が困った時には、国を挙げて其方を全力で保護しようではないか!」


「……ん。それでいい。落とし所」


納得して頷く私。しかし、満足げに私との距離を詰めようとした王様に向けて、私はスッと右手を突き出した。


「……と、それ以上近づかないで、王様」


自動防御が発動して王様までアイスオブジェクトになっては困る。


「おお、そうか! 氷麗殿の周囲は絶対零度の結界であったな! では皆の者、ツララ殿には決して気安く近づかぬよう、国法として命じる!」


王様の豪快な宣言に、夜会会場はドッと温かい笑いに包まれるのだった。

ちなみに、懲りない王子はすでに氷柱と化していた。


使い道に困るほどの裏報酬(貴族からの没収資産の一部)をすでに隠し持っている私は、ドレス姿で綺麗に微笑む王妃様を見上げながら、「まぁ、こういう落とし所なら悪くないかな」と、静かに冷たい炭酸水を喉に流し込むのだった。

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