第28話:王立総合病院開設、そして保健局、始動。
ついに王都に『王立総合病院』が完成し、カッシーニ男爵夫人を局長に据えた『保健局』が正式に始動した。
カトリーヌが総裁を務める血液銀行も、例の横領貴族たちから「合法的かつ強制的」に絞り取った新鮮な血液の備蓄によって、極めて順調に運営されている。
しかし、新しい試みがすべての人に歓迎されるわけではない。
これまで高い治療費をふんだくっていた街の開業医や、頭の硬い古株の侍医、そして特権階級におもねる貴族子飼いの医師たちからは、この誰もが一律で安くかかれる総合病院をひどく忌み嫌われていた。
「王妃様の肝入りでなければ、こんなふざけた病院など即座に潰してくれるものを……!」
そんな露骨な嫌がらせや陰口も耳に入ってきたが、私はジト目のまま完全にスルーした。
なぜなら、最先端の医療技術を学びたい若い医師たちや、今回新たに保健局が創設した【看護師制度】は、自立を目指す多くの女性たちから熱狂的に歓迎されていたからだ。
そんな、新旧の医療体制が冷戦状態を続けていた、ある日のこと。
王都近郊の魔鉱山で、大規模な【落盤事故】が発生した。
坑道に取り残された作業員は数十名。生還した者たちも、重傷を負って次々と運び出されているという。
「――全員、出動! 日頃の訓練の成果を、今こそ示す時よ!」
王都に響き渡ったカッシーニ局長の鋭い大号令。
総合病院の正面玄関から、白衣を翻した医療団が一斉に飛び出した。
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落盤事故現場:新生医療団の総力戦
現場は、血と泥にまみれた負傷者たちの悲鳴で混沌を極めていた。
しかし、新設された保健局の動きに一切の無駄はなかった。
総指揮を執るのは、カッシーニ局長。
「緑は軽傷、黄は中等傷、赤は重傷! 黒は……後回しです! 命の優先順位を間違えないで!」
彼女の指示のもと、看護師たちが負傷者の腕に色違いの布を結んでいく。私が前世の知識から事前に仕込んでおいた緊急医療システム【トリアージ(負傷者選別)】が、この異世界で完璧に機能していた。
「そこのあなた、完全に失血死寸前ですわ! 血液型は……よし、A型(の味)ね! この皮袋の血をすぐに繋ぎなさいな!」
現場に同行した吸血鬼カトリーヌは、医師団の診察にぴったりと張り付き、その驚異の味覚(血液型鑑定)と極細ストローを使って、適切な輸血を神速で行っていく。
「若造ども、もたもたするな! 骨が突き出てようが内臓が傷ついてようが、俺が縫うそばからお前らは止血と洗浄を徹底しろ! キラースパイダーの糸は切演ねぇ、安心して引っ張れ!」
無精髭を泥で汚したジャック先生が、手下の若い医師たちを怒鳴りつけながら、圧倒的なスピードで外科手術(縫合)をこなしていく。
高い治療費を要求してふんぞり返っていた古い医者たちが、あまりの惨状に腰を抜かしてオロオロしているのを尻目に、保健局の若いチームは、一秒でも早く、一人でも多くの命を救うために命懸けで動き続けていた。
「……ん。みんな、よく頑張ってる」
私はツンとすました顔のまま、ミケを肩に乗せ、雪華を従えて最前線のテントへと足を踏み入れた。
そこには、落盤の直撃を受けて潰され、治癒魔法も、ジャック先生の縫合手術すら間に合わないほどの、息絶え絶えな最重傷者たちが並んでいる。
「……ここからは、私の番」
私はゆっくりと両手を広げ、怪我人たちの身体を優しく包み込むように、絶対零度の冷気をコントロールして放った。
死にゆく細胞の時間を物理的に「凍結」させ、仮死状態にして命を繋ぎ止める――雪女である私にしかできない、究極の救命処置の始まりだった。




