第24話:王妃様にお願いします。
蚊から進化した残念悪役令嬢な吸血鬼・カトリーヌを配下に加え、『血液銀行』の設立を決めた私。
しかし、事業を始めるには、清潔な献血施設(建物)や、血液を保存するための魔導具(機材)の調達など、乗り越えなければならない壁がいくつもあった。
というか、ぶっちゃけ言うと――お金が必要だった。
そこで私は、再び王宮へと足を運び、一番話の早そうな最高権力者へ直談判することにした。
「あら、氷麗ちゃん! よく来てくれたわね。さぁ、今日も私のお膝の上にいらっしゃい」
今日も聖母の笑みで迎えてくれる王妃マーガレット様。
私はすんなりとお膝様の上にエスコートされながら、ツンとすました顔のまま、単刀直入に本題を切り出した。
「……王妃様。お金ちょうだい」
「まぁ? おねだりかしら。可愛いわねぇ。何に使うのかしら?」
私は、先日ビル工事現場で起きた出血多量死の悲劇と、カトリーヌの極細ストローを使った『血液銀行』の画期的な医療システムについて説明した。
王妃様は「素晴らしいわ! 魔法でも救えなかった命が救えるようになるのね!」と目を輝かせたが、やはり費用の面で少し眉をひそめた。
「建物の建設や機材の調達……王宮の予算を動かすとなると、あの頭の硬い財務大臣たちを説得するのに少し時間がかかるわね……」
そこで、私の脳裏に「ある極秘のゴリ……じゃなくてゴシップ情報」が閃いた。
「……建物なら、いいのがある。商業区の、あの一等地に建っている大きな商館。あそこの商人、国の役人に莫大な賄賂を渡して、脱税してる。レナさんが言ってた」
「あら、まぁ……?」
王妃様の笑顔の温度が、一瞬で私の絶対零度並みにガクンと下がった。
「その建物を犯罪の証拠として『接収』すれば、土地代も建物代もタダ。ついでにその悪徳商人の全財産を没収すれば、血液銀行の機材代も、カトリーヌに払う給料(1割の血)を補うための新鮮なお肉代も、全部お釣りが来る」
私の極めて合理的(邪悪)な提案に、王妃様は漆黒の笑みを浮かべて深く頷いた。
「素晴らしいアイデアだわ、氷麗ちゃん。……ねぇ、その商人はもちろん、罪に服してくれるのよね?」
「……ん。悪いことする人に、人権なんてないんです。前世の黒い魔道士の姉御がそう言ってました」
「そうね。私もそう思うわ」
容赦がなかった。
王妃マーガレット様がパチンと指を鳴らすと、影から近衛兵の長が音もなく姿を現した。
「聞きまして? すぐさま警邏隊(警察)を動かしなさい。商業区のあの商館を包囲し、脱税および贈賄の罪で商人一族を即座に一網打尽にするのです。抵抗する令嬢やバカ息子がいたら、裏の堀に投げ捨てて構いません。あ、商館は傷つけずにそのまま接収してね、氷麗ちゃんが使うんだから」
「はっ!! 直ちに!!」
王妃様による苛烈な『断罪の嵐』が、王都の商業区に向けて吹き荒れた。
普段は腰の重い警邏隊の面々も、「王妃様の直命」かつ「天下の免罪符(氷麗情報)」とあれば話は別だ。彼らは水を得た魚のように、すぐさま実行へと移るために王宮を飛び出していった。
数時間後、王都の一等地にある巨大な商館は、何一つ傷つくことなく、合法的に『王立・ツララ血液銀行』の本部へと生まれ変わるのだった。
「おーほほほ! さすがわたくしの主! 恐ろしいほど話が早くていらっしゃいますわ!」
「……(カトリーヌ、あなたもサボったら堀だからね)」




