閑話:河童たちのお仕事 〜すべては至高の緑(きゅうり)のために〜
これは、氷麗が王宮で優雅に王妃様のお膝の上でチョコレート付きスコーンを「あ〜ん」と食べさせてもらう、ほんの少し前の物語。
王都近郊の山林に作られた、突撃怪異対処部隊(仮)の河童駐屯地。
そこでは、平均体長80センチのミニ河童たちが、およそファンタジーの生き物とは思えないほどの超ハイテンションかつ組織的な動きで、泥まみれになりながら作業に励んでいた。
「いの一番より報告! イル川上流、大溜池の決壊防止補強工事、これにて終了しました!」
「への一番より報告! メリコン川支流のバイパス水路開削、予定通り完了いたしました!」
「うむ、大儀である!」
次々と上がってくる部下たちの報告書を、束ねたきゅうりでパシパシと叩きながら確認していくのは、体長150センチのキング河童(族長)。
彼らの手によって、人間たちの土木技術では何十年かかるか分からない連合王国の複雑な河川、および河口の治水工事が、信じられない神速でどんどん進んでいっていた。
理由はただ一つ。きゅうりをいっぱい食べるためである。
「――野郎ども! 聞けい!!」
キング河童が残りのきゅうりをガバッと天に掲げ、腹の底から声を張り上げた。
一斉に動きを止め、直立不動でこちらを凝視する数百匹のミニ河童たち。
「先ほど、お嬢(ツララ様)からの直々のお達しが届いた! 明日からこの地域一帯に、これまでにない規模の『大雨』が予想されるとのことだ!」
ザワッ……!と河童たちに緊張が走る。
「いいか、よく聞け野郎ども! 万が一にも川の氾濫なんか起こしてみろ、お嬢からのきゅうりの至高の支給が全額ストップするかもしれんのだぞ!!」
「「「「「な、なんだってぇぇぇぇぇーーーッ!?!?(絶望)」」」」」
彼らにとって、それは国家の崩壊よりも恐ろしい、絶対的な死刑宣告に等しかった。
「なんとしても氾濫は阻止しろ! 各水門の開放タイミングを完璧に同期させるのだ! 一滴の水たりとも溢れさせるな! 気合を入れろ!!」
「「「「「キュキュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」」」」」
大地の底から響くような河童たちの雄叫び。
彼らのモチベーションは、きゅうりという名の絶対報酬によって、いま限界突破を迎えていた。
そんな命懸けのミーティングが繰り広げられている嵐の前日。
河童たちの熱気(殺気)に当てられてガタガタと震えながら、一人の男がひょこっと遠慮がちに手を挙げた。
「あ、あの一応……俺、この部隊の書類上の『責任者兼・河童係』に任命されたカインなんですけど……明日の配置表とか見せてもらっても……」
激流から生還し、書類偽造の罰(団長のこめかみグリグリ)を終えて現場配属された元勇者・カインくんである。一応、人間の国サイドから見た公式のリーダーだ。
そんなカインくんの控えめな言葉に対し、キング河童は書類を持ったまま、冷徹極まりないドスの効いた声で一喝した。
「あああ? 見りゃ分かんだろ、今忙しいんだよ。人間の役立たずはそこの泥んこ広場で大人しくきゅうりのヘタでも数えてろ。邪魔すんな!」
「お、俺、これでも元勇者なんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ(涙)」
名目上の責任者カインくん、平均体長80センチの河童たちに完全にシカトされ、現場の隅っこで体育座りをしてシクシクと涙を流すのだった。
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翌日、隣国をも巻き込むレベルの未曾有の大雨が連合王国を襲ったが、カインの涙を吸い込んだイル川は、河童たちのプロフェッショナルな完璧すぎる水管理によって、一滴の氾濫も起こさず静かに海へと流れていったという。
神様は見ているし、お嬢の冷気レーダーは気象予報すら完璧なのだった。




