第21話:お茶会当日。
「…………行きたくない」
お茶会当日。私はベッドの中で、みのむしのように布団に丸ごとくるまっていた。
そんな私の結界(布団)を、レイラさんが顔を真っ赤にして引っ張っている。
「い・ま・さ・らドタキャンなんて、で・き・な・いってば――ッ!!」
バフッ!!!
非情な筋力によって、私の生命維持布(布団)が無慈悲にひっぺがされた。
「あう、あう……」と寒さと絶望で小さく丸まる私。その時、女子寮の部屋のドアが勢いよく開いた。
「レイラ〜ちゃ〜ん! 遅いから、待ちきれなくてこっちから来ちゃったわよ〜ん!」
現れたのは、相変わらず見事なバルクを誇るマッチョおねえのマリーさんだった。
「マリー! ちょうどいいところへ!」
「あら〜? 氷麗ちゃんはまだベッドの中でお隠れ中〜?」
「そうなの、今更無理ってごねてて……」
「おやおや、そうなのね〜。――お前たち、やっちゃいな!!」
マリーさんがパチンと指を鳴らすと、彼の背後から、どこの暗殺部隊かと思うような素早さでお針子さんたちが湧き出てきた。
「ひゃっ!?」
あれよ、あれよ、という間だった。
お湯の張られたタライに放り込まれて全身をピカピカに磨き上げられ、気がついた時には一週間前に仕上がったあの薄い青色のフリフリドレスを完璧に着せられていた。……え、どうやったの? 時間巻き戻った?
「よし、次はジェリー、頼んだわよ!」
「任せて。これだけ可愛い素材なら、職人として腕が鳴るわね」
次に現れたお化粧担当のジェリーさんは――よかった、ちゃんと普通の、優しそうな大人の女性だった。
手際よく髪を結い上げられ、顔にパタパタと可愛くお化粧を施されていく。
すべての工程が終わり、目の前の大きな鏡を見た瞬間、私は完全にフリーズした。
そこには、まるで絵本から飛び出してきたお姫様のような、可憐でどこか神秘的な美少女が映っていた。誰これ。別人がいる。
私は呆気に取られたまま、横にいるレイラさんへ向けて、「……これ、私?」と指を差してジェスチャーで聞いてみた。
レイラさんは、もの凄く満足そうな顔で大きく何度も頷いてくれた。
「うん、元々の素材が抜群に良いから、最高の仕上がりになったよ!」
ジェリーさんも満足げに胸を張る。こうして、私は完全にまな板の上の鯉状態で、レイラさんとともに辺境伯家の豪華な馬車へと押し込まれ、王宮に向かったのだった。
王宮の中庭
馬車の私の席(というか肩の上)には、護衛と称して子猫サイズのミケがちゃっかり乗っている。
実は今回のお茶会に際して、「雪華とミケ、どちらが氷麗のお供として王宮に行くか」という、もふもふ同士の血で血を洗う(?)激しい攻防戦があったのだが……その涙なしには語れないエピソードは、また後日お話しすることにしよう。
馬車が止まり、案内されたのは王宮の広大な中庭の一つだった。
美しく手入れされた薔薇が咲き誇る中、すでに大勢の貴族のご令嬢や奥様方が到着されており、華やかな社交界の雰囲気が漂っている。
(……うわぁ、視線が一斉にこっちを向いた。緊張する……)
私は心の中の元気印を必死に抑え込み、マイナス40℃のクールなお嬢様フェイス(化粧付き)を貼り付けた。そして、道中でレイラさんから叩き込まれた、ドレスの裾をエレガントに持ち上げる挨拶『カーテシー』を披露する。
「遅れまして、申し訳ありません。……氷麗ともうしまう」
やばい。
噛んだ。
「申します」って言おうとして、完全に噛み倒した。
私の社交界デビュー、始まって3秒で終わった……。
ショックのあまり、その場でカチンコチンに凍りつきそうになった私の耳に、鈴を転がすような上品で優しい笑い声が届いた。
「ふふ、まぁ、なんて可愛らしいのかしら。そんなに硬くならないで、気軽に楽しんでね? ほら、こちらにいらっしゃい」
上座の最も豪華な席から、優しく手招きをしてくれる美しい女性。
間違いない。ドレスの格、他を圧倒する気品、そして周囲の引き締まった空気。この人こそが、この国のトップに立つ王妃様だ。
噛み散らかした私を優しくフォローしてくれる王妃様の聖母のような包容力に、私は内心で涙を流しながら、おずおずと王族のテーブルへと足を進めるのだった。




