第20話:王妃&奥様方とのお茶会(ドレス編)
あの河童騒動から数日。ようやく一息つけると思った矢先、レイラさんから信じられない紙切れを手渡された。
『王都・淑女の集い(お茶会)へのご招待状 〜王妃主催〜』
「……行かない」
私は差し出された綺麗な手紙を、ツンとすました顔のまま突っ返した。
「ツララちゃん、子供じゃないんだから、そんな我慢のないワガママ言わないで」
「……子供だけど?」
中身は16歳(前世)だけど、今の見た目はどこからどう見ても12歳前後の可憐な少女である。
「……しまった。そうだったわ」
レイラさんがガチで「忘れてた」という顔で額を押さえた。普段の私の態度(主に男への容赦のなさ)のせいで、たまに精神年齢がバレそうになるので危ない危ない。
「と、とにかく! 王妃様からの直々のご指名なんだから、絶対に断れないの。行くわよ!」
「? どこへ」
「決まってるじゃない。お茶会に着ていくドレスを仕立てるのよ」
私は自分の着ている、白地に青い雪の結晶柄の着物を指差した。
「……これでいいよ」
何せこの着物は自動洗浄・自動修復機能がついた超高性能チート仕様。おじさんを凍らせたときからずっと着ているけれど、シミ一つない新品同様の代物だ。これで十分である。
「ダメよ! 王妃様のお茶会に、普段着で出席するなんてあり得ないでしょ! ほら、行くわよ!」
高級仕立屋『マリーの店』
こうして、私はレイラさんにドナドナされる子牛のように連行され、王都の一等地にあるお洒落な高級服屋へとやってきた。
「あら〜〜〜ん! いらっしゃい、久しぶりね〜、レイラちゃん! ――って、まぁ! まぁ!まぁ!なんて可愛い子なのかしら!レイラちゃんの子?違う?でも、 着飾り甲斐がアリアリだわ〜〜〜!」
出迎えてくれたのは、見事な筋肉を誇る、ゴツいおねえ――いや、完全にお兄さんだった。
ただ、心はそっち系の人らしく、仕草がやたらと乙女チックだ。
あまりのビジュアルの衝撃(ゴリラ団長とは別の意味での強烈さ)に、私のマイナス40℃のメンタルは、恐怖で完全にフリーズしていた。
「マリー、今日は――」
「みなまで言わないで、レイラちゃん。噂は聞いているわ。この子が例の子なんでしょう。となれば、今度のお茶会ね?」
「そうなの。急で申し訳ないんだけど……」
「いいのよぉ。で、この子が今、社交界(主に王宮の氷漬け事件)で話題のツララちゃんなのね?」
「大丈夫? 期日までに間に合うかしら……」
レイラさんの少し不安そうな言葉に、マッチョなおねえさん――マリーさんの目がキランと鋭く光った。
「あんた、誰にものを言ってるのよ。間に合わせるに決まってるだろうが、うちの子達を舐めないでほしいわね」
急にもの凄くドスの効いた、地鳴りのような重低音(男声)が響いた。ギャップが怖すぎる。
「さぁ、みんな! 張り切って行くわよーーーっ!!」
マリーさんがパチンと指を鳴らすと、奥から「針子」と呼ばれる職人のお姉様方が、色とりどりの高級生地や、キラキラしたアクセサリーを両手に持って、飢えた獣のような目で一斉に迫ってきた。
(あ、これ、アカンやつだ……)
そこで私の意識はパッツリと途切れた。
「うん! 我ながら完璧な出来栄え(ビューティフル)ね!」
マリーさんの満足げな声でハッと意識を取り戻したときには、私は鏡の前で、淡い綺麗な青色の、フリフリした豪華なドレスを着せられていた。
ちなみに、お茶会は一週間後である。
「ツララちゃん、すごいのよ? 普通、こういうドレスってね、採寸、デザイン、仮縫い、試着、本縫い、試着、修正、試着、そして完成って感じで、早くても一ヶ月はかかるものなの。それを彼は……色んな工程をパワー(物理)で全すっ飛ばして、一週間で仕上げちゃうのよ」
「そうよぉ〜、まぁこのマリー様に任せなさいっての!」
ガハハと笑いながらウインクしてくるマリーさん。この人も何気にチート職人(筋肉系)だったらしい。
「じゃあマリー、また当日にね」
「ええ、待ってるわよ」
「そうね、ツララちゃんの社交界デビューなんだから、他の有象無象の貴族令嬢に負けないくらい綺麗にしないとね。当日はジェリーにも声をかけておくわ」
レイラさんが嬉しそうに私のドレス姿を眺めながら、また新しい謎の名前を口にした。
ジェリー? 誰それ。
ドレスだけでも精神的キャパシティがいっぱいなのに、お茶会当日、私の身にさらなる試練(お化粧担当のゴリラとか)が待ち受けている予感がして、私はドレスの裾を握り締めながら、早くも家に帰りたくなるのだった。




