第19話:河童騒動顛末
無事に(カインを犠牲にして)河童の一族と和解した私は、代表である大ガッパの長(およそ150センチ)を連れて、ゴリラ団長へ事後報告に向かった。
――はずだった。なのに、なぜだろう。
「……なんで、またここにいるんだろう」
デジャヴだった。私は今、数日前にも来たはずの王城の立派な廊下を、再び歩かされている。
大ガッパを見たゴリラ団長が「おいおいおいおい、国全土の治水だと!? これは俺の権限を越えてる、王様に直談判だ!」と叫び、そのまま私と河童の長をセットで王城へ連行したのだ。
本当にめんどくさい。早く宿舎に帰って美味しいスコーンが食べたかった。
謁見の間、ふたたび
重厚な扉が開かれ、私たちは二度目となる謁見の間へと足を踏み入れた。
玉座には、相変わらず頭を抱えている初老の王様。……そこまではいい。
問題は、その隣だ。
前回のタコ殴りでMな属性に目覚めてしまった、あの変態王太子(仮)が、またしても熱い視線をこちらに向けてスタンバイしていた。
(……見つけた)
私の脳内レーダーが、最大級の危険変質者を瞬時にロックオンする。
やられる前に、やらなきゃ。
ピキィィィィィィィィンッッッッ!!!!
「ぶふぉっ!?」
王太子が何かクズなセリフを発するよりも早く、私の絶対零度が炸裂した。
今回は前回の反省を活かし、通常の3倍はあろうかという超分厚い氷の結晶で、彼を完全に閉じ込めておいた。これを自力で破って復活してくるようなら、もはや人間ではなく、本物のゾンビか何かだと思うことにする。
「お、おい……またか……」と絶句する王様を無視して、私は「あとはよろしく」とばかりにゴリラ団長にバトンタッチした。これからの難しい政治の話(国家治水プロジェクト)は、全部レオパルド辺境伯にお任せである。
団長が王様に向かって「ハッ、我が白狼騎士団が今回連れ帰りましたるは、水辺を総べる河童族の長にございまして――」と真面目なトーンで説明を始めた。
その書類提出や解説の長い後ろで、私は退屈しのぎに、隣に立つ大ガッパの長に小声で話しかけた。
「……(ねぇ)」
「(はて、いかがなされましたか、主よ)」
あるじ?
私はツンとした顔のまま、無言で自分を指差した。主って、私のこと?
「(いかにも。貴方様のことにございます)」
「……(なぜ?)」
「(なぜ、とは? 我ら河童一族を圧倒的な冷気でひれ伏させ、国家の要員としての仕事まで斡旋して従えたではないですか)」
「……(……そうなの?)」
「(そうなのです。わしらはもう、完全にツララ様の子分にございます)」
いつの間にか、異世界の河童一族のトップに君臨してしまっていたらしい。雪女なのに。
ゴリラ団長が前方で熱弁を振るっている後ろで、私と大ガッパはフムフムとコソコソ話を続ける。
「――というわけでして、この河童族を国全土の水辺に配備すれば、今後の洪水被害は九割削減できるかと。……で、どうなのだ? 氷麗殿」
「……ん? 何が?」
突然団長から話を振られ、私は素で首を傾げた。完全に聞いていなかった。
「いや、だから! 今、今後の予算編成と河童たちの給与(きゅうり支給量)について王様と詰めの話をだな……!」
「……(きゅうり、いっぱい貰えると嬉しいにゃ)」
「(わかってるって)」
私が大ガッパとアイコンタクトを交わしていると、ゴリラ団長から額にバキバキと青筋を立てて直球のツッコミが飛んできた。
「話聞けよ、お前は!!!」
「うるさいゴリラ、静かにして」とジト目で黙らせつつ、私は分厚い氷の中でガシガシともがいている王太子を、さらにマイナス10℃ほど追加で冷やしてあげるのだった。




