第18話:カインの冒険 〜神様は見ている〜
私が河童の親分と歴史的な治水事業契約を結んでいた頃。
ロープが千切れて激流へとどんぶらこ流されていった元勇者・カインくんは、文字通り生死の境を彷徨っていた。
王都へと続くイル川の中流。そこに、優雅に浮かぶ大きめの船や、川で漁をしている大小様々な船が行き交っていた。
そして、そのうちの一つに上流と下流を結ぶ貴族や富豪御用達の豪華な観光船があった。
「おい、なんか川に浮いてるぞ!」
「あぁん? ありゃドザエモン(水死体)だろ」
「でも、万一ってことがあるかもしれない。引き上げよう」
「しょーがねぇな」
親切な船員たちの手によって、川から引き揚げられたカイン。
しかし、悲劇はここからだった。
何せ彼は、レナさんとコテツちゃんによって身ぐるみを剥がされ、激流に揉まれた身。着ているインナーはボロボロ、というか下半身に至ってはもろだしだ。
そんな究極の無防備な姿で、よりによって観光船のデッキにいたセレブな貴婦人たちの前に「獲ったどー!」と言わんばかりに引き揚げられてしまったのだ。
遮るもののない大自然のなかで、彼のプランプランしたそれが、お日様の光を浴びていた。
微妙に残念な感じがした。
「「「「ギャァァァァァァァーーーッ!? 変質者よーーーッ!!」」」」
船員たちは腹を抱えて大爆笑。
対する婦人たちからは悲鳴とともに、手当たり次第に私物が猛スピードで投げつけられた。
そして、そのうちの重厚な何かが、信じられないほどの神速とピンポイントの精度で飛んできて、カインの「そこ」に見事に直撃した。
ドンピシャッ!!!
「ホブッッッ!?!?!?」
カインは声にならない悲鳴をあげて悶絶し、エビのように丸くなって気絶した。
ちなみに、その神業のような一撃を放ったのは、たまたま乗船していた『白狼騎士団長夫人(元凄腕騎士)』であったという。夫婦揃ってゴリラ級の戦闘力。カインくん、本当に踏んだり蹴ったりである。
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王都・白狼騎士団宿舎にて
「……いつか、絶対に泣かす」
命からがら王都に自力で戻ってきたカインが、ボロボロの毛布にくるまり、まだ痛む股間を押さえながら涙目でそう呟いた。
誰を泣かすとはあえて言わない。というか、私の名前を出した瞬間に、部屋ごと絶対零度で凍らされて今度こそ物理的にパリンと砕け散るのを本能で理解しているのだろう。賢いね。
っていうかさ。
後からミナちゃんの帳簿チェックで発覚したのだけれど。
彼が持ち込んできたあの村の苦情書――あれ、早く里帰りしたいがために、カインくんが自分で適当にでっち上げた「偽造書類」だったらしい。
(……うん。神様は見ているのだよ。天罰はあるのだよ)
元勇者カインくん。
異世界に転生し、聖剣を授かり、可愛い女の子たちに囲まれるハーレムを夢見た彼の輝かしい青春は、プランプランの強制開示と団長夫人のスナイプによって、ここに完全な終わりを告げたのだった。
「おい、カイン。ちょっと面貸せや」
「ひゃっ!? ど、団長……!?」
当然、書類の偽造がバレたカインは、背後に仁王立ちするレオパルド団長(辺境伯)によって、そのまま無慈悲に引きずられていった。
間もなく、宿舎の廊下に「あががががががが! 脳みそが! 脳みそが潰れるぅぅぅ!」という、こめかみを骨が軋むほどグリグリされる悲痛な叫びが響き渡る。
私は肩の上のミケを優しく撫で、足元の雪華に美味しいお肉をあげながら、その処刑サウンドを心地よいBGMとして聞き流していた。
「……南無南無」
私はツンとすましたクールな顔のまま、心の中で最高にスッキリとした笑顔で、哀れな男の冥福を祈るのだった。




