第17話:第二回河童釣り、のち、国家プロジェクト?
私たちはカインを引きずりながら、さらに流れの激しい上流のポイントへと移動した。
「せめて、抱えて」
「「「嫌(でござる)」」」
そして、再び餌を激流へとドプンと投入した、その直後。
ブチィィィィィンッ!!!
「「「あ」」」
激しい水圧に耐えかねて、カインの腰に結んでいた頑丈なロープが、無情にも真ん中から激しく千切れた。
「ぶくぶくぶくぶく……(流されるカインの手)……ッ!?」
「カインどのーーーっ!?」
コテツちゃんが叫ぶ中、聖剣使い(笑)はもの凄いスピードで下流の彼方へとどんぶらこっこと流されていった。
私は、ツンとすました表情のまま、流されていく男の影に向かって、そっと胸の前で両手を合わせた。
(……合掌。強く生きてね)
男のことは一旦忘れて本題に戻ろう。
やっぱり人間を餌にするのは効率が悪い。私はアイラさんから貰った『油』をお皿に薄く塗り、その上に新鮮な『きゅうり』をいくつか乗せて、川辺の大きな岩の上にそっと置いてみた。
すると。
ペタペタペタペタペタペタッ!!!
「「「「きゅ、きゅうりだにゃーーーっ!!」」」」
入れ食いだった。
岩陰や川底から、緑色の甲羅を背負った生き物たちが、一斉にわらわらと狂ったように湧き出してきた。
河童の親分との交渉
とりあえず実力行使(絶対零度)で威嚇しておとなしくさせ、穏便に話を聞くことにした。私の肩の上では、子猫サイズのミケが「吾輩よりお調子者そうなやつらにゃ」と猫耳をピコピコさせている。
そこに、群れのボスらしき『大ガッパ』が姿を現した。
……大ガッパ、という割には、体長はおよそ150センチほど。人間の成人女性より少し小さいくらいだ。
周りの一般河童たちをよく見ると、平均80センチくらいしかない。ちっさ! 完全にマスコットサイズである。可愛いから許す。
大ガッパは、私の冷気(威圧)に冷や汗を流しながら、ペコペコと頭の皿を下げて事情を話してくれた。
「わしらは別に、人間に害をなしたいわけではないんじゃ。ここ最近の気候変動で、山奥の住処と食糧がなくなってのぅ……。それさえ保証してもらえるなら、二度と村で悪さはせん約束をしよう」
私は真っ白な雪華の頭をもふもふしながら、冷徹なジト目で大ガッパを見つめた。
「……働く?」
ただできゅうりをあげるほど、私は甘くない。働かざる者食うべからず、とあのゴリラ辺境伯も言っていた。
「働け、とな? わしら河童に、一体何をしろと言うんじゃ?」
「……治水」
河童なら、水のコントロールに関しては人間より遥かに詳しいはずだ。川の流れを読み、土手を補強し、大雨の際の洪水を未然に防ぐことだってできるに違いない。
「お安い御用だ。水のことなら、わしらの右に出る者はおらん」
「……国全部。いける?」
「な、国全部とな!? スケールが大きいな……! だが、ここにいる一族の若い奴らを各地の水辺に遣わし、ネットワークを作れば不可能ではない」
私は、80センチほどのミニ河童たちをじっと見つめた。
「……小さい、大丈夫?」
「こう見えても一端の河童族じゃ! 土木作業や水の誘導なら任せて問題ない!」
大ガッパが胸を叩く。よし、交渉成立だ。
「……代表者、一緒に王都に来る」
「ふむ。では、族長であるわしが行こう」
「ん」
私は満足して、小さく頷いた。
王都周辺の川やため池の管理、ひいては国全体の治水事業を一手に担う『河童専門部隊』の誕生である。
怪異の調査を命じたら、なぜか緑色の河童の親分を連れて王都に帰還する私を見て、あのゴリラ団長(レオパルド辺境伯)が一体どんな顔をして腰を抜かすか、今から目に浮かぶようだ。
「ミャー、ところでカインは放置でいいのかにゃ?」
「……(がんばれ)」
私はツンとすました顔のまま、再び下流の方に向かって無言で頑張れポーズを送り、河童の親分を連れて意気揚々と王都への帰路につくのだった。




