第15話:なぜあんたが(誰だっけ?)ここに?
雪華の背に乗って王都の城壁を飛び越え、依頼のあった農村へと到着した私たち。
そこで私を待ち受けていたのは、緑色の甲羅を背負ったナニカではなく、実に見馴染みのある銀色の鎧を着た一人の男だった。
「……(あ)」
思わず、冷気混じりの生暖かい視線を向けてしまう。
そこにいたのは、森で出会い頭に私を切りつけ、その後私の目覚めの一撃(鉄拳)を食らって宿舎の部屋の隅で数日間カチンコチンに凍らされていた、あの哀れな騎士団員だった。
後で小耳に挟んだ話によると、何気に『聖剣使い』という凄そうな肩書きを持っているらしい。それはまあいい。
生きてたんだね、あんた。・・・次はしくじらない。
「やあ……その節は、お世話になったねツララちゃん。なんか、怖いこと考えてない?ん、次は不意打ちは聞かないよ」
男――カインが、引きつった笑みを浮かべながら頬をかいた。
ん? なんだ、それは私への挑戦かな?私は売られた喧嘩は3倍の冷気で買い戻す主義だけど。
ピキピキピキ……ッ!
「ひゃっ!? いや、いやいや! 違うんだ! あれは全面的に俺の不徳の致すところだし、目覚めの一撃で十分すぎるほどのお返しをいただきましたので!!」
(?)
私の周囲の空気が一瞬で氷点下に達したのを見て、カインは両手を激しく振って全力で弁解し、サッと『避難距離』を取った。
で? あんたがここにいる理由は?
ちなみに、私は最初から一言も声を出していない。すべてはジト目と、睨みと、精神的威圧と、周囲への冷気漏れ(ピキピキ音)だけで意思表示をしている。秋田犬サイズの雪華を無表情でもふもふしながらね。あくまで私はクールなお嬢様なのだ。
「理由? だって……団長にあの苦情書を出したの、俺だし?」
カインの口から出たのは、意味不明な言葉だった。
これ以上の男との直接交渉は精神衛生上よろしくないので、私はスッとレナさんに目配せをして交渉(お喋り)を丸投げした。ちなみにコテツちゃんは、私の横で「うう、もふもふ、至高のもふもふでござる……」と雪華の毛並みに顔をうずめて禁断症状を癒やしている。仕事しろ。
レナさんが影からスッと現れ、カインから事情を聴取してくれた。
それによると、この村はカインの故郷らしい。
最近、村の周辺できゅうりが盗まれたり、ため池の水が減ったりとおかしな出来事が多発していたため、実家から相談を受けた彼が調査に見にきたのだという。けれど、自分一人ではイマイチ原因がはっきりとしなかったため、白狼騎士団に苦情書を出したのだそうだ。
しかも、団長(ゴリラ辺境伯)に事前の相談もなしに。
(……あ、これ、あとで団長から直々にこめかみを拳でグリグリされるやつだ)
私がやったら、絶対に冷気でカインの脳みそがキュッて凍りついて縮んじゃいそうだから、今は手出しを勘弁しておいてあげよう。お兄様の鉄拳に期待だ。
「よし、事情はわかった。カイン、あんたも案内役としてついてきなさい」
「了解です、レナ先輩!」
レナさんの指示に、カインが生真面目な敬礼を返す。
「あ、それとあとで団長にグリグリされてね」
「え?そこは内密にとかは?」
「ないね」
「・・・」
「・・・」
「せんぱ〜い、助けてください〜」
抱きつこうとした、カインをさっと避ける、レナさん、さすがだね。
私は腕に抱えたミケの猫耳をピコピコと弄りながら、村の奥へと視線を向けた。冷気探索レーダーの先、近くの川辺から、ペタペタという湿った妙な足音が近づいてきている。
「……行こう」
私はやっぱりクールなポーカーフェイスのまま、アイラさんから貰った『油』の瓶をしっかりと握り締め、異世界の河童どもが待つ現場へと歩き出した。




