第14話:妖魔あるいは怪異対処部隊創設?
「妖魔あるいは怪異対処部隊の創設だ」
ゴリラ団長(※ガチの辺境伯)からそう告げられた私は、あからさまに嫌そうなジト目を向けた。
いやいや、この世界における妖魔ってどんな定義なの? 対処って具体的に何をするの?
それに、こっちの世界のいわゆる「西洋の妖怪」って、なんか情緒もへったくれもなくて怖いし、普通に人を襲う狂暴なやつらばっかりでしょ?
「……あ、私も妖怪(雪女)か。でも、ほら、私は基本的に平和主義だし。切ったハッタの野蛮なことはちょっと……」
「盗賊の首を見事に一撃で刈ってたよな?」
「はっ……!」
ゴリラ団長の鋭いツッコミに、私は思わず息を呑んだ。
「だ、だって『盗賊に人権はない』って、どこかの黒魔道士の人が言ってたもん!」
「どこの非人権主義者だ。ま、とにかく我が白狼騎士団は働かざる者食うべからずがモットーだ。ツララ、働け!」
(働いたら負け……とは、このゴリラの前では口が裂けても言い難い)
しぶしぶ私が黙り込むと、レオパルド団長から一枚の古い羊皮紙を押し付けられた。そこに書かれていたのは、王都周辺の農村から寄せられた奇妙な被害報告だった。
* 農園の『きゅうり』が大量に盗まれます。
* 『ため池の水』が不自然に減りました。
* 民家の『水瓶の水』が夜の間に空っぽになります。
(……これって、完全に「あいつら」じゃん。緑色で、甲羅を背負って、頭にお皿が乗ってるあいつらじゃん)
「ええと、これは?」
「ここ最近、王都近郊の村から寄せられた苦情書だ。まずはこれの調査に行ってくれ」
「私、探偵じゃないんだけど……」
「行ってくれるよね、氷麗ちゃん?」
背後にスッと気配を消して現れたのは――レイラさんだった。お母さんの笑顔(※目は笑っていない)だ。
「あのね、今回の怪盗猫目……じゃなくてミケちゃんを身内として引き取るにあたって、上を納得させる『実績』を作らないといけないのよね。あ、もし行かないっていうなら、明日王太子(仮)が主催する夜会に団長のパートナーとして強制出席してもらうけど……?」
「いきます!!」
即答だった。あんなロリコンゾンビ王太子のパーティーなんて、精神的致死量の毒を盛られるようなものだ。そんな地獄に行くくらいなら、緑色の河童どもをボコボコにしに行く方が1億倍マシである。
「ワフッ!」
雪華も「主人の敵(王太子)のパーティーは御免にゃ」と言いたげに短く吠えた。
「ふふ、頼もしいわね。コテツとレナも連れて行っていいわよ。コテツ、最近もふもふ(雪華)に触れなくて禁断症状が出てたから丁度いいわ」
「ありがたき幸せ!!」と、後ろでコテツちゃんが早くも限界化して震えている。
「あの、レイラさん。出発前に、アイラさんに頼んで『油』をたくさん貰っていっていいですか?」
「油? 別に構わないけど、何に使うの?」
「……ちょっとね」
フッ、と私は冷酷な笑みを浮かべた。
お皿に油を塗ると、水を吸収できなくなる。前世の日本の伝統的な河童対策だ。
普通に殴っても死ぬし、私の絶対零度で干からびさせて殺してもいいけれど、相手は未知の異世界河童。念には念を入れてハメ殺す準備をしておかないとね。
「な、なんだかよく分からんが、エグい作戦を企てている気配だけはビンビンするにゃ……! 理不尽にゃーーーっ!!」
私の腕の中で、これからの未来を察したミケが悲痛な悲鳴をあげる。
私はツンとすました顔のまま、ミケを小脇に抱え、コテツちゃんとレナさんを背中に乗せて元の巨体に戻った雪華へと跨った。
「雪華、行って」
「ガルルルッ!」
ドンッ!と力強く地面を蹴った雪華は、王都の巨大な城壁を軽々と跳躍して飛び越える。
こうして、雪女(と愉快な仲間たち)による、異世界初の「妖怪・怪異対処部隊」の初陣が幕を開けた。




