第13話:命名「ミケ!」
深夜の女子寮。
部屋を絶対零度にして捕獲した怪盗猫目(仮)を前に、私と、騒ぎを聞きつけて乱暴に踏み込んできた街の警邏(警察)の男たち、そしてなぜかゴリラ団長を交えての大悶着が始まっていた。
「おい、そいつは王都を騒がせる重罪人だ! さあ、早くこちらに引き渡してもらおう!」
「……嫌です。あれは私の(もふもふ)だ」
私がツンとすました顔のまま猫耳をぎゅっと抱きしめると、警邏の隊長らしき男が声を荒らげた。
「いやいや、犯罪人なんだから国に引き渡すのが人の道理だろう!?」
「ふふふ。私に人の道理は通じないのですよ」
「なんでだよ!?」
「なぜなら――私は人間ではないからです!」
そう、私の種族は雪女。どちらかといえば妖魔とか妖怪とかアヤカシの類。
よって、人間が作った都合のいい理屈なんてものは、今この場で冷気と一緒に吐いて捨てます。
「くっ、都合のいい時ばかり異種族を主張しおって……!」
あれ? この警邏の男、私の性質をよく知っている気がする。
もしかして、あの謁見の間(王太子タコ殴り事件)のときに現場にいた人かな? だからさっきから、私から絶妙な『避難距離』を取って会話しているんだね。賢い。
「あ〜、まあまあ。とりあえずここは、俺たち白狼騎士団が預かろう」
ゴリラ団長が間に入って提案してくる。
「「ダメだ(嫌です)」」
警邏の男と私の声がハモった。三者ともに一歩も譲らない膠着状態。
すると、私の腕の中でプルプル震えていた猫又が、遠慮がちに手を挙げた。
「あにょ……もう寒いし、吾輩は帰っていいかにゃ……?」
「「「ダメに決まってるでしょ(だろ)!!」」」
全員から一斉に怒鳴られ、猫又は「ヒェッ」と耳を伏せた。
「とにかく、ミケは私がゲットしたんです。ゲットしたものに所有の権利があるんです」
「勝手にミケとか変な名前にするにゃ! 吾輩は怪盗猫目……っ!」
「黙って、ミケ(冷気ピキッ)」
「ミャッ……はいにゃ」
名前はミケに決定した。三毛猫じゃないけど細かいことはいい。
「いや、しかし法というものが……!」
なおも食い下がる警邏の男に、私は冷ややかなジト目を向けた。
「法? ならどうして、商業区で堂々と脱税しているあの大商人のお偉いさんたちを、あなた方は放っておくんですか?」
「なっ……!? なぜ、お前がそんな国家機密を……!」
(探索・諜報要員のレナさんから、色々聞いてます。主に裏のゴシップ記事的なやつをね)
私の情報網(女子会の口コミ)を舐めてもらっては困る。
「くっ……! ここは譲ってやる! ただし、そいつが今後ひとつでも悪さをしたら、エバンデール卿、あなたにも責任を取ってもらいますからね!」
エバンデール? 卿?
警邏の男が忌々しそうに指差した先には、腕組みをして鼻を鳴らしているゴリラ団長がいた。
「……エバンデール?」
「ん? ああ。レオポルド・フォン・エバンデール。俺の名前だ。ちなみに肩書きは辺境伯だぞ」
ギギギギギ……。
中世の錆びついた歯車みたいな音を立てて、私はゴリラ団長の顔を見上げた。
まさかの貴族。しかも辺境伯って、軍事権を持った地方のトップで、普通の公爵や侯爵よりよっぽど権力がある、実質この国で一番偉いレベルのガチ大貴族のはずなんだけど。
私は凍りついた無表情のまま、ぽつりと言い放った。
「……名は体を表さないのね」
「何言ってるか分からんが、今、もの凄く失礼なことを言われた気がするぞ」
王太子の件といい、この白狼騎士団、バックが強すぎて逆に怖くなってきた。
まあ、可愛いミケ(もふもふ2号)を合法的にゲットできたので、細かいことはすべてこのゴリラ辺境伯に押し付けるとしよう。
私は腕の中のミケをわしゃわしゃと撫で回しながら、心の中で邪悪な笑みを浮かべるのだった。




