第12話:その名も猫目
あの胃が痛くなるような晩餐会から数日。
私は念願叶って、ミナちゃんやコテツちゃんたち女の子メンバーと一緒に、王都の街へ散策とお買い物に出かけたよ。
美味しいお菓子を食べながら賑やかな市場を歩いていると、街の人々がある噂話で持ち切りなのが耳に入ってきたんだ。
いま王都で最大の話題――それは、『怪盗猫目』と呼ばれる盗賊の存在。
なんでも、狙った獲物の所有者にわざわざ事前に「予告状」を送りつけ、厳重に強化された警備をあざ笑うかのように掻い潜って、鮮やかに宝を盗み出していく輩らしい。
パクリ? いや、リスペクト。というか怪盗といえばこれしかないよね。
正体は誰も知らない。分かっているのは、頭に猫耳が生えていて、お尻の尻尾が二つに分かれているということくらい。
「……十分じゃね?」
情報量としてそれだけ分かっていれば十分すぎると思った。
っていうか、尻尾が二つに分かれた猫って。
「猫又じゃん」
うん、私のなかで決定した。新種の妖怪(同業者)の気配がする。
猫又ってのはね、百年生きた猫が妖力を得て、妖怪になるんだけど、きっかけは飼い主を殺されたりで悲しい話が多いんだよね。で、殺した相手に復讐しちゃうんだけどね。結局人を呪わばって奴でさ、討伐されちゃうんだよね。
深夜の女子寮にて
そんな噂を聞いた、ある日の夜のこと。
騎士団宿舎の女子寮(男連中がいないユートピア)で健やかに寝ていた私は、外の異様な騒がしさに目を覚ました。
外が妙にバタバタしている。
眠い目をこすりながら窓を開けて下を見てみると、白狼騎士団の男たちが「猫はあっちだ!」「いやこっちに逃げたぞ!」と、大声をあげて右往左往していた。相変わらず使えない男たちだ。
「……ふわぁ、うるさいなぁ」
そう呟いて窓を閉めようとした、その瞬間だった。
「ミャーーーッ! 退くのにゃーーーっ!!」
バリンッ!と小気味いい音を立てて、窓から何かが勢いよく飛び込んできた。
私は半ば条件反射でそれをスッと避けると、自分の吐息に軽い冷気を乗せて、侵入者へ向けてお見舞いした。
「ひゃうっ!? め、めっちゃ寒いにゃ……っ!?」
床に転がった侵入者が、身震いしながら恨めしそうにこちらを見上げる。
夜闇のなか、そいつの頭にはピコピコと動く猫耳。そしてお尻のあたりからは、細い尻尾が綺麗に二本、ゆらゆらと揺れていた。
本当に猫又だ。
「…………っ」
キラン。
暗闇の中で、私の目が怪しく、そして爛々と光り輝いた。
普段のポーカーフェイス(マイナス40℃)が、嬉しさのあまり一瞬でひび割れる。
(……待って。もふもふ。猫耳。しかも猫又。超絶かわいい。欲しい。絶対にゲットする)
「こ、こいつ、目がマジにゃ……。な、なにかヤバい気配がするにゃ……っ!」
私のガチすぎる視線に生命の危機を察したのか、怪盗猫目はジリジリと後ずさりをして窓から逃げ出そうとする。
「――逃がさない」
私は冷徹に言い放った。
この世の生き物の大概は、寒さに弱い。猫だって例外ではないはず。ましてや、元がコタツを愛する猫なら尚更だ。
「おとなしく――コタツで丸くなりなさい!」
私が両手を広げた瞬間、私の部屋の中の温度が一気に氷点下へと叩き落とされた。壁や床がパキパキと白い霜で覆われていく。
「ひゃ、ひゃおぉぉぉぉぉんっ!? さむっ! さむいのにゃーーーっ!!」
あまりの急激な極寒に、猫又は窓枠に手をかけたままプルプルと激しく震え出した。
自慢の髭はヘナヘナと下がり、全身の柔らかそうな毛並みが見事なまでに逆立っている。寒さのあまり完全にキャパシティオーバーを起こして、その場に丸くなって固まってしまった。
「……ふっ」
私はツンとすました顔に戻り、ガタガタ震える最高のもふもふ(猫又)にゆっくりと近づいた。
猫耳ゲットだぜ!
私の心の中の元気印が、深夜の部屋で狂喜乱舞の勝利のダンスを踊っていた。




