第11話:憧れのステーキハウスのはずが。
肉。高いステーキ。レイラさんのおごり(隊の経費)。
私の頭の中はそれだけで満たされていたはずだった。
なのに、なぜだろう。
「……ステーキハウスは、どこに行ったんだろう」
私は今、お肉の匂いのする大衆店ではなく、きらびやかなシャンデリアが輝く巨大な広間の、やたらと長いテーブルの特等席に座らされている。
本日の座席表
【上座(一段高いテーブル)】
王様 & 王妃様
王太子(さっきタコ殴りにされたのにもう復活してる。ゾンビかな?)
金髪ドリルのご令嬢(王太子の婚約者、ってレイラさんが言ってた)
第二王子(レイラさんのこんにゃく者……じゃなくて婚約者。確かにまともそう)
レイラさん(ドレス姿。今日だけは騎士じゃなくて未来の王族モード)
【下座の前席】
私え?なんでここ?
レオパルド団長
【さらに下の席】
白狼騎士団(さっき初めて団の正式名称を知った)の女の子たち&男ども
何これ。私、前世のテレビで見たことあるよ。
「晩餐会」ってやつだよね。
名目上は、今回の遠征を無事に終えた『白狼騎士団』の慰労会ということになっているらしい。部外者の私がなぜ団長の隣という超 VIP 席に鎮座させられているのかは、考えたら負けな気がする。
ちなみに、秋田犬サイズの雪華も、私の足元で行儀良くお座りしている。周囲の視線に怯えることもなく、実につまらなそうにフンスと鼻息を漏らしている。本当に空気が読める頭のいいもふもふだ。えらいえらい。
ガタゴトと、上座の方で椅子が鳴る音がした。
見ると、顔の腫れが引いた王太子(仮)が、上座から私を見下ろして、不敵な笑みを浮かべながらパチンとウィンクをしてきた。
(……気持ち悪い)
私の細胞が最速で拒絶反応を起こした。
私はツンとすましたポーカーフェイスのまま、王太子の顔面に視線を固定し、魔力を編む。
ピキッ。
「――っ、ぶふぉっ!?」
王太子がウィンクしたまさにその瞬間、彼の両目の表面だけが綺麗にカチンコチンに凍りついた。
視界を奪われた王太子が、両手で目をガシガシと引っ掻きながら大慌てで悶絶し始めている。ふん、しばらくはそのままアイスノン代わりに冷やしているといい。女の敵への慈悲はない。
金髪ドリル令嬢が扇子を広げて顔を隠しているけど、絶対笑ってる。肩が震えてるもん。
その後、王様の短い(というか目をガシガシやっている長男を呆れた目で見ながら、そして笑いを堪えての)挨拶があり、お兄様の代わりに第二王子がスマートに乾杯の音頭を取って、ようやく食事が始まった。
さすがは王宮、運ばれてくる料理はどれも一級品だ。
アイラさんの家庭的なご飯も最高だったけれど、この綺麗に飾り付けられたお肉も、じゅわっと肉汁が溢れて信じられないくらい美味しい。熱耐性のおかげで、フーフーしなくてもパクパク食べられる。
コテツちゃんやメイちゃんたちも、下の席で楽しそうに美味しそうに料理を口に運んでいる。
うん、ご飯はとっても美味しい。美味しい、んだけど……。
(……あー、お茶会しながらお買い物したかったなぁ。ミナちゃんたちと恋バナとかしてみたかったなぁ。ていうか、周りの貴族たちの視線が痛いなぁ……)
私はやっぱり、マイナス40℃のクールなお嬢様の顔を貼り付けたまま、心の中で限界ツッコミを連発していた。
美味しいお肉をモグモグ噛み締めながら、私は切実に思った。
「……かえりたい」




