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明末の麒麟児  作者: sawami
第5章
53/56

祖国への誇り

 いつも読んでいただきありがとうございます。

 本編とは別に、Ifストーリー(分岐ルート)を書いてみるかどうか迷っていのですが、読みたいルートや、こういうIfが見たいというご希望があれば、コメントで教えていただけると嬉しいです。

 朱慈煥は一通り話し終えた。

 鄭芝龍が清に傾く理由——感情ではなく損得の計算であること。明への忠義より福建の実権を優先する人物であること。これは泉州府で鄭芝龍本人と話したときに、朱慈煥自身が肌で感じたことだった。あの男の言葉の端々、目の動き、沈黙の置き方——すべてが計算の上に成り立っていた。

 加えて、隆武帝が親征をお望みになっても、鄭芝龍様が軍を動かそうとなさらないという噂もある。

 陳豹は腕を組んで聞いていた。時折、深く頷いた。関心深そうな目だった。

「……なるほど」

 しばらく黙ってから、男は言った。

「帰って確かめる」

 短かった。それ以上の感想も、反論もなかった。

 朱慈煥が口を閉じると、陳豹は少し間を置いてから、別のことを口にした。

「殿下から何かないか?」

 朱慈煥は少し意外に思った。

「何か、とは」

「鄭成功殿からだ。殿下に何か要望や伝言があれば、持ち帰ると仰せだった」

 朱慈煥は少し考えた。

「なぜ、そのようなことを」

 陳豹は少し視線を落とした。それから、静かに答えた。

「負けるつもりはない。だが——皇族が一人でも生き残っていれば、それだけで希望になる。そう仰せだった」

 朱慈煥は黙った。

「それと——」陳豹は続けた。「鄭成功殿は漢人と東瀛人、両方の血を持っておられる。南京にいたころ、そのことで陰口を叩かれることが多かったと聞いている」

 朱慈煥は静かに聞いていた。

「だが銭謙益殿や隆武帝との出会いを通して——この祖国を守ることに、誇りを持つようになったと。そう話しておられた」

 陳豹は淡々と語ったが、その言葉の奥に、主への敬意が滲んでいた。

 ——鄭成功が、そんなことを。

 朱慈煥は内心で静かに驚いた。転生前の知識の中での鄭成功は、英雄として語られる人物だ。だがその英雄が、南京で陰口を叩かれながら、それでも祖国への誇りを育てていたという——そうした人間的な側面は、史料にはあまり残らない。学術的に言えば、一次資料に近い証言だ。

 興味深い、と思った。純粋に、研究者としての自分が顔を出した。

 朱慈煥は少し考えてから、口を開いた。

「一つ、お願いがあります」

「聞こう」

「鄭成功殿の息のかかった人物を、もう一人の監視役として派遣していただきたい。その者を通じて、連絡を取り合わせてほしいのです」

 陳豹はしばらく朱慈煥を見ていた。

「……なるほど」

 男は短く頷いた。

「伝える」

 それだけだった。陳豹は立ち上がり、杯を一口飲んで卓に置いた。

 二人は示し合わせたように、それぞれ部屋を後にした。

 廊下に出ると、歓楽街の喧騒が改めて耳に届いた。朱慈煥は張の後ろについて、夜の路地を戻り始めた。

 ——鄭成功は、負けるつもりはないと言った。

 歩きながら、その言葉を反芻した。歴史を知っている自分には、その先が見えている。だがあの男にとっては、まだ何も決まっていない未来だ。

 それでも、誇りを持って戦うと決めている。

 ——大したものだ。

 朱慈煥は静かに思った。

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