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明末の麒麟児  作者: sawami
第5章
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ようやく会えそう

 数日後、屋敷に見慣れない顔の若者が入ってきた。

 年は十六か七か。体つきはまだ線が細いが、背筋が伸びていて目に力がある。張より頭一つ分低いが、その分だけ若さが全身から滲み出ていた。

「陳志远と申します」

 若者は朱慈煥を見て、やや固い表情で名乗った。

「今日からこちらにお世話になります」

 張は相変わらず無愛想に壁際に立ったまま、特に何も言わなかった。どうやら引き続き残るらしい。つまりこれで監視役が二人になったということだ。

 朱慈煥は陳志远を見た。

 自分より年上のはずだが、どこか生真面目すぎる雰囲気がある。鄭成功の配下として送り込まれてきたことは分かっているが、本人はそれを表に出す様子がない。朱慈煥はとりあえず軽く頷いた。

「よろしくね」

 陳志远は少し意外そうな顔をした。皇子にそんな気軽な挨拶をされるとは思っていなかったのだろう。

 翌朝、いつものように稽古に向かった。

 陳老人の練兵場までの道を、朱慈煥が先に歩き、張と陳志远が後ろに続く。以前と違うのは、後ろの足音が二つになったことだ。

 道中、陳志远が口を開いた。

「殿下は毎日稽古に行かれるのですか」

「そうだ」

「何を習っておられるのですか」

「洪家拳と刀法だ」

 陳志远は少し黙った。それから、また口を開いた。

「お一人で習われているのですか」

「老人が一人教えてくれている」

 張が「うるさい」と短く言った。陳志远はすぐに口をつぐんだ。

 朱慈煥は少し笑いたくなったが、堪えた。

 稽古が終わり、帰り道になった。

 陳志远は行きより少し表情が和らいでいた。練兵場で朱慈煥が汗だくになりながら型をやり直しているのを見て、何か思うところがあったのかもしれない。

「殿下は、いつからやっておられるのですか」

「平海衛に来てから少し経った頃からだ」

「それにしては」

 陳志远は言いかけて止まった。

「それにしては?」

「……いえ」

 朱慈煥は少し間を置いた。

「どこの出身だ」

 唐突な問いに、陳志远は少し驚いた様子だった。

「泉州府の同安県です」

 朱慈煥は内心で静かに反応した。

 ——同安県。

 陳永華の出身地だ。後に鄭成功の右腕として活躍し、天地会の創設にも関わったとされる人物——その故郷と同じ土地の出身。

「同安か」と朱慈煥は自然な口調で言った。「泉州とはまた少し違う土地だな。海に近いのか」

「はい。港もあります。子どものころはよく海に出ていました」

「どんな町だ」

 陳志远は少し考えてから、ぽつぽつと話し始めた。市場の様子、海の匂い、祭りの賑わい。言葉は少なかったが、故郷を語るときの目は、少し柔らかかった。

 朱慈煥は相槌を打ちながら聞いた。

 ——覚えておかなければならない。

 同安県の地理、風土、人の気質。それとなく定期的に聞き出していけば、いずれ役に立つ情報になるかもしれない。

 だが今は、ただの会話でいい。

「また話を聞かせてくれ」

 朱慈煥は自然に言った。

 陳志远は少し戸惑った様子だったが、「はい」と短く答えた。

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