祭りの夜に
媽祖升天日の前日、朱慈煥は子どもたちの家を順番に回った。名目は祭りの準備手伝いだ。張は特に気にする様子もなく、後ろをついてきた。
海生の家では網の修繕を手伝い、虎子と石頭の家では廟に供える果物を運んだ。そして最後に阿福の家、呉家に寄ったとき、朱慈煥は何気なく尋ねた。
「呉家の本籍は泉州でしたか」
阿福の父親が頷いた。「そうだ。親戚も泉州にいる」
朱慈煥は少し考えてから、阿福に耳打ちした。
「祭りの夜、泉州に行かないか。叔父上には許可を得ている」
阿福は目を丸くした。それから、にやりと笑った。
翌日——升天日の当日、廟の前は朝から賑やかだった。
張はいつにも増して飲んでいた。これまで朱慈煥が何度酒を飲む機会があっても逃げ出さずにいたことで、すっかり油断していたのだろう。夕方には瓶を二本空にしており、縁台に背をもたせかけてうつらうつらしていた。
朱慈煥は張を一瞥して、静かに踵を返した。
港の近くで、四人が待っていた。
「本当に行くのか」と虎子が言った。目が笑っている。
「叔父上の許可は?」と石頭が聞いた。
「もちろん得ているよ」
朱慈煥は平然と答えた。頭のなかで舌をだしながら。
阿福が「船はこっちだ」と小声で言った。呉家の船は荷物を積んだまま、夜明け前に泉州へ向かう予定だった。阿福の父親には「親戚の家に顔を出す」と告げてあった。詳細は省いた。
五人は提灯の明かりを避けながら、桟橋へと向かった。祭りの太鼓の音が、遠く港に響いていた。
呉家の船の荷の陰に身を潜めながら、朱慈煥は静かに息を吐いた。
——ここまでは、順調だ。
荷の陰で身を寄せ合いながら、しばらく誰も口を利かなかった。船が岸を離れ、水音が遠ざかったところで、虎子が小声で言った。
「なあ、本当に叔父上の許可は取ったのか」
朱慈煥は少し間を置いた。
「取った」
「なんで間があった」
石頭が真顔で聞いた。阿福がくすくす笑い始めた。
「泉州に着いたら何をするんだ」と海生が言った。「俺、泉州の市場に行ってみたかったんだよな。でかいんだろ」
「刺桐城と呼ばれた町だ。市場も港も平海衛の比ではない」
「刺桐城って何だ」と石頭が聞いた。
「昔の呼び名だ。街路に刺桐の木が多かったからそう呼ばれた」
「お前は物知りだな」と虎子が言った。
「おまえって泉州出身なのか?」
「秘密」
「え~」
朱慈煥は友達のブーイングに耳を貸さず口笛を吹くのだった。




