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明末の麒麟児  作者: sawami
第4章
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計画は慎重かつ大胆に

 媽祖升天日まで、あと十日ほどになった頃のことだった。

 朱慈煥はいつものように市場を遠回りしながら、港の動きを眺めていた。張は三歩後ろで欠伸をしている。

 鄭家の旗を掲げた船が、南に向かって出ていくのを目にした。

 ——安海か。

 転生前の知識が静かに動いた。鄭芝龍の本拠地は泉州府晋江の安海だ。鄭家の船が南に向かうということは、安海への定期便か、あるいは鄭成功が戻ったか。

 港の男たちの会話が、風に乗って断片的に聞こえてきた。「鄭の若様が……」「安海に……」

 全ては聞き取れなかった。だが十分だった。

 ——鄭成功が安海にいる。

 確信とは言えない。だが可能性として、十分に高い。

 朱慈煥は足を止めずに歩き続けた。張はまだ欠伸をしている。

 頭の中で、静かに算段を組み立てた。

 媽祖升天日の夜、張を酔わせて屋敷を抜け出す。平海衛の港から南へ——泉州まで半日、安海はそこからさらに近い。呉家の商家が泉州との取引に使っている船があるはずだ。阿福の父親なら、事情を話せば……いや、話す必要はない。乗せてもらう口実さえあれば十分だ。

 問題は、安海に着いてから鄭成功にどう近づくかだ。

 ——「朱文」という書生が鄭成功に会いたがっている、では通らない。

 何か別の入り口が必要だった。朱慈煥は歩きながら、頭の中で可能性を並べた。

 一つ。泉州の港で偶然を装って鄭成功に接触する——以前に一度顔を合わせている。「朱文」として声をかけることはできる。だがあのとき鄭成功は朱慈煥をほとんど気に留めていなかった。書生の小間使いとして見ていたはずだ。

 二つ。安海の鄭家に何らかの用件を作って近づく——だが「朱文」には鄭家に用件を持つ理由がない。

 三つ。鄭芝豹経由で鄭成功に繋いでもらう——最もリスクが高い。鄭芝龍に話が届く恐れがある。

 ——どれも一手足りない。

 朱慈煥は廟の前の縁台に腰を下ろした。張がようやく追いついて、少し離れた場所に立った。

 海風が吹いてきた。

 接触の手段はまだ見えない。だが、場所は分かってる。あとは方法だ。

 朱慈煥は縁台に腰を下ろしたまま、頭の中で計略を組み立てた。

 鄭芝豹の使いを装う。印綬はないが、書状ならどうにかなる。数ヶ月共にしたあの男の文体は、それなりに掴んでいる。もし見破られたなら——そのとき初めて、正体を一部だけ明かせばいい。崇禎帝の皇子という血筋は、明への忠義を持つ鄭成功が無視できる話ではないはずだ。

 完全な算段ではない。だが動き始めなければ何も変わらない。

 ——子どもの自分に、酒を売ってくれるだろうか。

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