表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明末の麒麟児  作者: sawami
第4章
40/47

たまには

1645年(弘光元年)

結局平海衛に戻った朱慈煥は鄭芝豹に頼んだのは、ある夕方のことだった。

「子どもたちと、外で遊んでもよいでしょうか」

 男はしばらく朱慈煥を見た。何を企んでいるのかと、探るような目だった。

「遊ぶ、だと」

「訓練ばかりでは頭が固くなります。少し気晴らしをしたい」

 鄭芝豹はしばらく黙っていた。それから短く「一刻だけだ」と言った。

 平海衛の路地には、いつも子どもたちがいた。漁師の子、商家の子、名も知らない子。昼間は浜で遊び、夕方になると路地に集まってくる。

 朱慈煥が近づいていくと、子どもたちはじろじろと見た。書生風の、見慣れない顔。警戒しているのか、好奇心なのか、判じかねる目だった。

「遊ばないか」

 朱慈煥は子どもたちに向かって言った。

「何して遊ぶんだよ」と、一番年上らしい男の子がぶっきらぼうに言った。

「東瀛の遊びを教えよう。鬼ごっこという」

 子どもたちが顔を見合わせた。

「鬼?」

「そうだ。一人が鬼になって、他の者を追いかける。捕まった者が次の鬼になる。それだけだ」

 子どもたちは少し考えた。それから、一番小さな子が「やってみたい」と言った。

 最初の鬼は朱慈煥が引き受けた。

 子どもたちが散り散りに逃げる。路地を曲がり、縁台を飛び越え、大人の足元をくぐり抜ける。朱慈煥は追いかけながら、内心で少し笑った。

 ——走るのは、得意だ。

 今まで北京からここまできたし稽古で足腰は鍛えられている。すぐに追いつけたが、わざと少し遅らせた。子どもたちの歓声が路地に響く。

 捕まえた子が次の鬼になった。今度は朱慈煥が逃げる番だ。狭い路地を駆けながら、ふと思った。

 ——こんな風に走ったのは、いつぶりだろう。

 北京でも、南京でも、走ったことはなかった。皇子という立場が、そういうことを許さなかった。転生してから今日まで、常に何かを考えながら動いてきた。ただ走るだけのために、体を動かしたことがなかった。

 悪くなかった。

 一刻ほど遊んで、朱慈煥は路地の端に腰を下ろした。子どもたちはまだ走り回っている。鬼ごっこは、すっかり子どもたちのものになっていた。

 少し離れた場所に、鄭芝豹が立っていた。腕を組んで、眺めている。

「面白い遊びだな」

 男は、珍しく自分から口を開いた。

「東瀛では子どもが皆やると聞いています」

「お前、東瀛のことをよく知っているな」

 朱慈煥は少し考えた。

「本で読みました」

 鄭芝豹は短く「ふん」と言った。それ以上は何も聞かなかった。

 子どもたちの笑い声が、夕暮れの路地に響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ