表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明末の麒麟児  作者: sawami
第3章
27/53

命懸けの交渉 後編

鄭芝龍はしばらく黙っていた。

「孟達、侯景か」

 低く繰り返した。嘲るでも否定するでもなく、ただ言葉の重さを確かめるように。

「随分と大きく出たものだ。その三人が清に叛くと、そう申されるか」

「叛くとは申しておりません」

 朱慈煥は静かに返した。

「清が彼らを飼い続けるには、あまりにも大きくなりすぎる——私はそう見ております。呉三桂は李自成の軍を山海関の戦いで破り、耿仲明と尚可喜らは南京に向けて進軍している。清にとって彼らは今は便利な刃ですが、刃は使い手を選びません」

「それも南京で耳にした話か」

「断片を繋ぎ合わせた、私の見解です」

 鄭芝龍の目が細くなった。

「見解、か」

 男は立ち上がり、窓の外に目をやった。潮の匂いが、薄く室内に漂っていた。しばらく沈黙が続いた。

「殿下は賢い」

 振り返らずに言った。

「言動は正に海千山千の老獪な政治家そのものだ。外れれば子どもの見当違い、当たれば慧眼——どちらに転んでも損はない」

 朱慈煥は何も言わなかった。

 鄭芝龍がゆっくりと振り返った。今度はその顔に、値踏みとは違う何かがあった。

「だが」

 男は再び卓の前に戻り、腰を下ろした。

「史可法が清軍に書を送ったというのは——本当のことか」

 核心を突いてきた。朱慈煥は息を整えた。ここが、この謁見の分かれ目だと分かっていた。

「私が直接見たわけではありません」

 慎重に、しかし明確に答えた。

「ただ、揚州を囲まれた時機と、その後の清軍の動きには説明のつかない緩さがあった。包囲が長引くほど清軍は有利なはずが、妙に焦っていない。史可法が踏み止まったのか、それとも別の思惑があったのか——私にはそう映りました」

 鄭芝龍は表情を変えなかった。しかし指先が、静かに卓を一度だけ叩いた。

「……調べさせる」

 それだけだった。庇護の言葉も、拒絶の言葉も、どちらもなかった。ただ男は茶を一口含み、卓に置いた。

「それまでは、ここを離れるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ