老一官
福建省 泉州
朱慈煥は一人で海賊の船に乗り込み泉州へ向かうことになった。
大男——頭領の洪大という男は、最後まで胡散臭そうな目で朱慈煥を見ていた。しかし結局、部下たちに命じて朱慈煥を自分の船へ移乗させた。信じたわけではないだろう。ただ、信じなかった場合のリスクを取れなかった。それで十分だった。
船上での二日間は、不気味なほど静かだった。
海賊たちは朱慈煥に話しかけなかった。食事は無言で運ばれてきた。見張りは常に二人いたが、目を合わせようとしない。まるで厄介な荷物でも運んでいるような扱いだった。
(構わない。私も彼らに話しかけるつもりはない)
朱慈煥は甲板の端に座り、流れる海を眺めながら、これからのことを考え続けた。鄭芝龍に会うことになるかもしれない、とは思っていた。しかしこれほど早く、しかもこういう形で連れて行かれるとは想定外だった。
泉州の港が見えてきたのは、翌朝のことだった。
朝靄の中に城壁と寺院の屋根が浮かび上がる。港には大小様々な船が連なり、荷を運ぶ人夫たちの声が遠くから聞こえてきた。活気のある街だった。しかし洪大は港に着くなり、朱慈煥を船から引きずり降ろすように岸へ連れ出し、そのまま街の奥へと歩き始めた。
「どこへ行くつもりですか」
「うるさい。黙ってついてこい」
洪大は振り返りもしなかった。
連れて行かれた先は、泉州の城壁に近い一角にある屋敷だった。堂々たる門構えで、門番が二人立っている。洪大が何事かを告げると、門番は朱慈煥をじろりと見てから中へ消えた。しばらくして、「通れ」とだけ言った。
屋敷の奥の広間に通された。
そこにいたのは、一人の男だった。
年の頃は四十がらみ。がっしりとした体格に、落ち着いた身なりをしている。しかしその目は鋭く、商人でも官吏でもない、もっと別の何かを生き抜いてきた者の目だった。
(この男は何者だ)
朱慈煥は内心で素早く考えを巡らせた。洪大がここへ連れてきたということは、この男は海賊たちの上に立つ者だ。泉州でこれだけの屋敷を構え、門番を置いている。福建の海を束ねる人物となれば——
「ほう」
男はゆっくりと朱慈煥を眺め回した。
「本当に子供じゃないか。明の皇族が、なぜ修行僧の格好でこんな船に乗っている」
「清の目を避けるためです。···あなたはご存知でしょう。今この国で、皇族の格好をして堂々と歩ける場所はどこにもない」
男が低く笑った。値踏みするような目だった。
「面白い子だ。——名を聞こうか」
「朱慈煥。崇禎帝の第三皇子です」朱慈煥は答えながら、静かに問い返した。「では、あなたのお名前を伺っても?」
男は少し間を置いた。それから、ゆっくりと口を開いた。
「都督同知(軍事組織の最高幹部職の一つ)の鄭芝龍だ」
朱慈煥は表情を変えなかった。しかし胸の内では、素早く算盤を弾いていた。
(やはりそうか。——これは、予想より大きな機会になるかもしれない)
「で、何をしに福建へ来た」




