祠の秘密
まだ完全とは言えないマンバを支えて祠に連れて行った。バアルは罰として、しばらく抱かないことにする。察しているのか、バアルはおとなしくフヨフヨと浮いて付いてくる。
「この場所、多分、パワースポットみたいなもんだと思うんだけど」
魔界に魔物を跳ね返す結界がある、と言うことに違和感を感じる。
「よくわかんないんだ。ここになんか建ってて。でも随分前だったんだろうね、木も腐ってて、元がどんな物だったのかもわかんねーんだけど……」
そう言って、マンバはその祠の前で合掌した。
「ここに来て、この痣が浮き出したんだわ」
襟をぐいっと引いて、さっきの痣を見せてくれる。
「あっちでも、まぁ、ちょっと霊感ある方っていうか。見えないものが見えちゃうタイプだったんだけどさ、こっち来たら、あんなことできるようになってたんだよね」
襟元を戻しながら、祠の扉を開くと、美しい石が現れた。
ごつごつした石の中から、結晶化した石が露出していて、角度によって色々な色に見える。
「これ、隠してんだよね。村人の諍いの元だって、村長が言うし。知らない村人も多いよ。ていうか、これ、持ちあげられるの、多分ウチだけだわ」
ひょいと持ち上げて、マンバが目を閉じると、マンバの体の表面が薄く光り始める。マンバの血色が戻っていく。
「……マンマァ!」
バアルはその光に怯えて、私のそばにやってきた。これは怖いかもね、と抱いてあげることにした。我ながら、甘い。わかってます。我が子の躾、……難しい。
「何人か盗んで悪魔に売り払おうとしたみたいだけど、誰も持ち上げられなかったみたい」
「悪魔に?」
「交換条件で人間界に戻してもらおうと思ったんじゃね。ーーどうせ、そのまま殺されちゃうのにな」
過去を思わせる言葉に「何があったの?」を呑み込んだ。まだそこまでは、踏み込んじゃいけない気がして。
マンバは石を祠に戻し、扉を閉めた。もう一度合掌して、顎で小屋に戻ろうと指図してくる。
「ね、マンバは悪魔も治せるんだ?」
「知らねーよ。やったことないのに」
「でも、バアル治してくれたでしょ」
「この子は……半分人間だろ」
「確かに」
今の会話に、何かヒントがあった気がして、腕を組む。うーん、うーん。
「マンバ!」
バティムが駆け寄ってきて、マンバを抱き上げた。
「あの薬草は人間にこんなに効くのか!?」
「おっ、降ろせよ!」
「それとも、お前は自分も治せるのか!?」
「おっ、降ろせって、オッサン!」
マンバが照れているのを見て、思わず笑う。
「お前、すごいな!」
はち切れそうな、目一杯の笑顔。
大きな口を開けて、歯をむき出しにする、そうそのバティムの屈託のない笑顔。忘れちゃうよね、彼が悪魔だってこと。わかるわかる。
一気に無言になったマンバを見て、私は恋に落ちる瞬間を目の当たりにした。
「異種族恋愛って、アリなの?」
二人を見て私は思わず、つぶやいていた。
「ばっば……ばか!」
「まぁ、マンバか。……悪くないかもな」
バティムがちらりと見ると、真っ赤になるマンバが、可愛くて私も笑う。
「お前! そう言うふざけたこと言ってっと許さねーからなっ!」
茹でタコのようになって、バティムをポコポコ叩いている。楽しそうな様子を、エリゴールが遠くから見ていることに、ふと気づく。
手を振ると、エリゴールは姿を消した。
「エリゴール……?」




