第18話 「狡猾で効率的な方法」
シローは恐怖に全身が総毛立った。
「ミリアは無事なのか!?」
「――わからねぇ! 無線で声をかけているが応答がない!」
ゼノの口調も、いつもより焦っているのがわかった。
「—―くそっ、油断してたぜ! 合流ポイントの家を出た瞬間を狙われた! 真っ先にミリアを狙うあたり、奴らは俺たちの火力を削りにきているぞ!」
ゼノの叫び声が無線越し聞こえた瞬間、また一つ銃声がした。
銃弾が耳元をかすめる。
「—―ちっ。……あのヤロー、なかなか良い場所に陣取ってやがる。俺も逃がさねぇつもりらしい」
そう言い終わるまでに、数発の銃弾が放たれた。
そして、その数と同じ着弾音が無線の向こうから聞こえる。
今も狙われているゼノのことは気になるが、それよりも今はミリアのほうが心配だ。
「ゼノ! そこからミリアは見えるか!?」
「—―あぁ。だが、足だけだ。無事かどうかまではわからない!」
そんなゼノの言葉に一番慌てているのは、ユーリィであった。
顔色を青くさせながら、口に手を当てている。
早く助けにいかないと。彼女がそう言おうと口を開こうとした瞬間だ。
突然、シローが大声で叫んだ。
「助けにいくな! これは罠だぞ!」
「えっ!?」
ユーリィが驚きの声を上げる。
そして、信じられないというような目でシローを見つめるが、彼が気にする様子はない。切迫詰まった表情で無線に耳を傾けている。
「—―あぁ、わかっているよ。これは、……『友釣り』だな」
「そうだ! 奴ら、ミリアを餌にして俺たちを誘い出すつもりだぞ!」
こんなときでも冷静になれるゼノに、シローは安堵する。
友釣りとは、戦争中に行われていた狡猾な狙撃手段だ。
あえて殺さず、負傷させることで、敵の仲間をおびき出す。そして、助けにきた人物から狙っていく、残忍だが効果的な方法。
オルランド共和国軍も、ガリオン帝国軍も、表立ってはこの方法を推奨していない。敵の戦力と戦意を奪うには効果的だが、自軍の戦意喪失を招きかねないからだ。誇りを持っている軍人であればあるほど、このような手段は禍根を残す。
それでも戦争末期には、このような残忍な作戦もたくさん考案された。シローがこのような手段を使ったのかと問われたら、公式記録上はやっていません、と答えるだろう。
「ゼノ。とりあえず、そこから頭を出すな。そこの敵は俺たちでやる」
「—―あぁ? どうする気だよ」
通信越しの間抜けた声に、シローは真剣な顔で答える。
「狙撃手は、俺とユーリィで排除する。敵の居場所を教えてくれ」
シローが自分の銃を握りしめると、ユーリィもそれに倣って準備を始めた。
――◇――◇――◇――◇――◇―
シローとユーリィは、今いる美術館の二階へと向かった。
ランク戦で使われているこの廃墟の街は、そのほとんどが二階建ての建物である。この場所からなら、目的の場所を視認できるはずだ。
「ユーリィ。敵に見つからないように気をつけろよ」
「はい、わかりました」
ユーリィは素直に頷く。
それから二人は別れて、長い廊下の両端へと向かう。外から見られないように、中腰姿勢で移動しながら窓枠の下を潜っていく。
「……煙突の折れた赤レンガの家、か」
シローは破れたカーテンで身を隠しながら、予備の単眼望遠鏡を覗き込む。
ミリアが撃たれたのは、街の広場のあるほうだ。
方角的には、こちらで間違いない。
「—―シローさん。こちら、ユーリィです」
雑音混じりの無線から、彼女の声がした。
「シローだ。どうした?」
「—―見つけました。敵の狙撃手です」
……早いな、と思った。
狙撃手の任務は、狙撃だけではなく偵察や潜伏も挙げられる。そのため、《狙撃兵科》の授業でも、敵に見つからないようにする方法などを教わるのだが。どうして、ユーリィはこんなにも早く見つけることができたのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎるが、今は目の前の問題を優先させることにする。
「場所はどこだ?」
「—―私から見て、一時の方角です。距離は、……およそ200メートル」
彼女からの正確かつ的確な情報に、シローも視線をそちらへ走らせる。
すると、民家のベランダに一人の人間が伏せているのを見つけた。
その手には長細い銃が、……スナイパーライフルが握られている。
間違いない。敵の狙撃手だ。
ちゃんと授業で習ったように、見つからないような偽装工作を行っている。ユーリィの情報がなければ、一目で見つけることは難しかったかもしれない。
「こちらも確認した。……それにしても、よく見つけたな」
「—―えへへ。私、目だけはいいんですよ」
彼女の得意げな顔が目に浮かぶ。
そういえば、狙撃に関する理解も早かったな。まるで、以前にこういったことを学んでいたかのように―




