第17話 「彼らは強い、と敵リーダーは認識を改める」
予期せぬ攻撃に驚いたのだろう。
敵チームの一人が、倒れた仲間のほうへ慌てて振り返る。その隙を逃さないように、引き金を引く。
ダンッ、と再び銃声が響いた。
スナイパーライフルから放たれた銃弾は、そのまま敵の頭部へと向かっていく。
「……くっ!」
だが、敵の行動は早かった。
死角からの狙撃だと判断すると、すぐさま民家の壁へと逃げ込んだのだ。
その時、わずかに呻き声を漏らしていた。恐らく、体のどこかに銃弾が当たったのだろう。
しかし、『一撃必殺』とまではいかなかった。
「ちっ!」
シローは激しく舌打ちをしながら、素早くボルトハンドルを手前に引いて、すぐに撃てる態勢を整える。……が、それ以降は敵が顔を出すことはない。
「――シロ、やったか?」
無線通信を通して、ゼノが聞いてくる。
「いや、一人はやったが、もう一人は仕留めそこなった。せいぜい肩を負傷させたくらいだ」
「――へぇ。シロの狙撃から逃げられるなんて。やるな、そいつ」
「あぁ、あの判断力と行動力。素人じゃないな。もしかしたら、俺たちと同じ『戦場帰り』かもしれない」
仲間の負傷を前にして、すぐさま行動を取れるのは簡単なことではない。
仇をとろうと躍起になるか、自分の身を顧みず助けようとするか。それが人の情というもの。戦いとは、それらを容赦なく踏みつけることだ。それが分かっているからこそ、あの敵はすぐさま身を引いたのだろう。
「――『戦場帰り』か。だとしたら手強い相手だが、俺たちのような古参兵ではないだろう。精々、戦争末期に従軍していた程度さ」
「あぁ、そうだろうな」
その意見には同意できる。
もし、自分たちのように最前線で戦っていたのだったら、お互いのことを知らないはずがない。それほどまでに、あの戦争では魔術兵士の数が減ってしまった。
「――で、どうする?」
「そうだな。もう少し、この場所で粘ってみて、必要に応じて移動するぞ。向こうのチームの出方も確認したい」
「――了解だ」
ザザッ、という無線のノイズを残して、ゼノとの通信が切れる。
……さて、今のところは順調だが。
……向こうがどう出てくるか。
――◇――◇――◇――◇――◇―
「こちら、A。同行していたCがやられた。そちらの状況を確認したい」
相手チームのリーダーが、撃たれた肩の痛みに耐えながら仲間との連絡を取る。
「――こちら、BとD。敵歩兵と交戦するも成果なし。相手もかなりの手練れだと思われる」
「了解した。一度、合流して態勢を立て直したい。開始地点まで撤退するぞ」
「――イエス、サー」
無線を切りながら、自分のことをアルファと名乗ったリーダーは、己の判断の甘さに苦悩していた。
まさか狙撃手を交戦している場所の近距離に配置しているなんて。それも、こちらの動きを完全に読まれていたようなタイミングだ。向こうのチームには《普通歩兵科》が少ないから、接近戦では有利になると思っていたが、……油断していた。
「くそっ、これが戦場だったら仲間が死んでいるんだぞ」
リーダーは顔を歪めながら、自分が戦争に従軍していたときのことを思いだす。
何もできなかった。
彼が戦場に立った時には、すでに前線は膠着状態になっていて、激しい戦闘は少なくなっていた。だが、それでは散発的な戦闘は起きて、その度に負傷者が出た。
あのような苦い経験はしないように、今日まで鍛錬を積んできたのだが。それでも、自分の才能のなさに愕然としてしまう。
「くそっ、どうする?」
どうすれば勝てるのか。
相手が格下のチームだといって、油断をしていたわけではない。
だが、認識は改めなくてはいけない。
彼らは強い。
強いチームを相手に、どうすれば勝利に近づくことができる?
被弾した肩を庇いながら、今とるべき行動を考える。
チームの武装。
自分の魔法。
そして、相手のチーム構成。
それらをまとめて、彼はある決断に達していた。
「こちら、A。……D、聞こえているか?」
再び無線を繋げると、仲間の一人を呼び出す
「――こちら、D。感度良好」
「ある作戦を思いついた。デルタはそのまま民家の屋上へ向かってくれ。なるべく視界の良い場所へ」
そして、自分の考えを伝える。
「まずは向こうの火力を削るぞ。Dは狙撃ポイントについたら、もう一度連絡をしてくれ」
――◇――◇――◇――◇――◇―
「……動く気配がないな」
シローは警戒しながら大通りのほうを見るが、敵チームが行動を起こしている様子はなかった。
「おい、ゼノ。そっちはどうだ?」
「――いや、こっちも同じだ。静まり返ってやがる」
「そうか」
仲間が一人脱落したくらいで、戦意が下がるような相手ではないと思うんだが。
「仕方ない。こっちも一度引いて、ユーリィたちと合流をしよう」
「――うしっ、わかった。バックアップは任せろ」
退路を確保する役割はゼノに任せて、シローはユーリィとの合流ポイントへと向かう。
細い路地を小走りで駆け抜けて、目標の場所へと辿り着く。
そこは美術館だった。
長い廊下のある二階建ての建物。ここがユーリィと約束した場所だ。
「美術館に入った。ゼノもミリアと合流してくれ」
「――了解だ」
ここからは二班に別れての行動だ。
ミリアは公園が近くにある民家に潜んでいる。万が一、砲撃が必要になったときに、銃の射角が取れるような場所を選んでいた。
シローはゼノとの通信を切り上げると、美術館の二階の廊下で待機していたユーリィに声をかける。
「お疲れ様です、シローさん」
にこり、といつものように彼女は微笑んだ。
シローは軽く返事をしながら、ユーリィの隣に立つ。
「まだ、一人を倒せただけだ。これからが本番になるぞ」
「はい! 頑張ります!」
ユーリィは気合いを入れるように、空いている手で拳を握る。
それから間もなくして、ミリアからの通信が入った。
「――え、えっと、ミリアです! ゼノ先輩と合流しました!」
「わかった。それじゃあ、ゼノが動きやすいように支援砲撃を頼めるか?」
「――はい、わかりました。これから家を出て広場のほうへ」
ミリアが現状を報告しながら、次の行動に移ろうとしていた。
その時だった。
ダンッ、と美術館の外から、一発の銃声が響いた。
「っ!」
「近いですよ、シローさん!」
咄嗟に身構える、シローとユーリィ。
そんな二人に悲鳴のような声で通信が入った。
「――くそっ、やられた!」
「ゼノか、どうした!?」
シローが慌てて聞くと、通信の向こうでゼノが怒り狂っている。
「ミリアが撃たれた! 向こうにも狙撃手がいるぞ、気をつけろ!」




