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第7話 「狙撃手だけのチーム」


――◇――◇――◇――◇――◇―


 狙撃手だけで編成されたダークケルベロス・・・・・・・・のチームは、自分たちのセオリー通りに二手に分かれていた。


 二人一組ツーマンセル

 狙撃を行うときの定石であり、一人が狙撃銃を構えて、もう一人が着弾地点などの観測を務める。学園ランキング52位ということもあって、その動きには迷いはない。


「また、お前と一緒かよ」


「そう言うなよ。それともリーダーと一緒が良かったのか?」


「ははっ、冗談だろう」


 問われた男は朗らかに笑う。


「リーダーと組めなかったときのアンジェの機嫌を考えてみろ。ランク戦が終わってから何を言われるのかわかったもんじゃない」


「あぁ、確かにな」


 もう一人の男も笑顔で返す。


 チームの一人だけの女子であるアンジェは、今頃リーダーと一緒に別のポイントに向かっているはずだ。


 見通しの悪い森林地帯でも、彼らの戦法は変わらなかった。


 あらかじめ決めていた狙撃ポイントに移動して、そこで敵が来るのを待つ。この場所が重要で、何かあっても互いに援護できるような所を選んでいる。

 接近戦を苦手とするスナイパーにとって、仲間が援護できる場所にいるということは、とても心強い。


 男たちが目指していた場所は、なだらかな起伏のある丘の麓。


 大木と地面の隆起で身を隠しながら、リーダーへ無線通信を行う。その時、片方のメンバーは双眼鏡で周囲を警戒している。


「リーダー。こっちはポイントについたぞ」


「――了解した。我らも約束された場所へと辿り着かん」


 どうやら、向こうも狙撃ポイントについたようだ、とリーダーの言葉を脳内で標準語に翻訳する。


「――周辺の警戒を怠るな。神の手先どもは狡猾だ。どんな手を使ってくるのかわからない」


 その場で警戒しながら待機しろ、か。

 男は簡潔に返事をして、無線を切った。


「……なぁ、どう思う?」


 相方の男が双眼鏡を覗きながら尋ねてくる。


「敵チームのことか? 正直、どう動いてくるのかわからないな。向こうの狙撃手も困っているだろうから、メンバー全員でゆっくり進んでくるかもな」


「そうじゃねぇよ。リーダーとアンジェのことさ」


 男は双眼鏡から手を放すことなく、肩で笑ってみせる。


「今頃、何をしていると思う? 手くらい繋いでいるかな?」


「あぁ、そっちか」


 問われた男は苦笑しながら、スナイパーライフルの望遠スコープを調節する。


「まず、間違いなく。……何も起こってないだろうな。手を繋ぐどころか、会話にも困っているかもしれん」


「それはありそうだ。アンジェがチームに入ったころなんか、二人とも会話がまったくなかったもんな。ちらちらと互いのことを意識しながら、顔を真っ赤にさせていたし」


「ははっ、そんなこともあった。それから比べると、リーダーとアンジェの仲も進展して―」


 男たちがチーム内の恋愛模様に話の華を咲かせる。


 その時だった。

 突然、予想もしていないことが起きた。


 少し離れたところにある小山が、何の前触れもなく爆発したのだ。爆炎をまき散らしながら、小山の麓を焦土に変えていく。


「な、なんだ!?」


「爆発、……いや、砲撃か!?」


 男たちは危機感を覚えて、咄嗟に頭を下げた。


 その直後、今度は自分たちの傍で爆発が起きた。幸いにも直撃はしなかったが、それでも凄まじい爆風に吹き飛ばされそうになる。


「く、くそっ! これは《砲兵科カノン》の攻撃だ! 敵チームが仕掛けてきやがった!」


「ちっ! 俺たちの居場所がバレたのか!?」


 相方の男は双眼鏡を放り投げて、自分の狙撃銃を手に取った。


 そして、ボルトハンドルを操作して、銃弾を装填。いつ敵が来てもいいように、臨戦態勢をとる。


 もう一人の男も、スナイパーライフルを構えながら、じっと望遠スコープを覗いていた。いつでも撃てるように引き金に指を伸ばしているが、今のところ敵影は見えない。


「……敵が見えないぞ」


「油断するなよ。どこから来るのかわからない」


 男たちは神経を研ぎ澄ませながら、鬱蒼とした森林に目を光らせる。


 だが、その後のことだった。

 今度は自分たちがいるところとは別の場所で爆発が起きた。それも一発、二発ではない。森林地帯のフィールドを広範囲に砲撃しているのだ。


「……これは揺さぶりだな」


「揺さぶり?」


「あぁ。広い範囲を攻撃して、俺たちが出てくるのを待っているんだ。きっと、どこかにスナイパーが潜んでいるはずだぜ」


 男は冷静に分析をする。


 学園で唯一のスナイパーのみで構成されたチームだけあって、狙撃に対する理解も深かった。相手の誘いにのって動いてしまったら、それこそ向こうの思うツボだ。


 ここは、動かず敵の出方を見るのが良策か、と男は判断する。そんな時、彼らのチームリーダーから無線が入った。


「――同胞よ! 無事か!?」


「こっちは問題ない。リーダーは?」


「――あぁ。我らも問題ない。よもや奴らめ、禁じられた古代兵器を復活させていたとは―」


「リーダー、そんな無駄話はいらない。向こうの揺さぶりに惑わされるなよ。間違っても撃ち返すな。位置がバレるからな」


「――あ、うん」


「それと、敵と戦闘になったら無理に戦おうとせず、こっちに引きつけろ。俺たちが狙撃する」


「――わ、わかった。……空気も読めず無駄話をして、ごめんなさい」


 意気消沈してしまうリーダーに悪いと思いながらも、手短に取るべき行動を指示する。


 男は無線を切って、素早く銃を構えた。


「リーダーも無事みたいだな?」


「あぁ。あっちはアンジェもいるし、軽率な行動はとらないさ」


 居場所がバレた狙撃兵ほど、無防備なものはいない。


 長距離を狙うスナイパーライフルにはボルトアクションが採用されている。


 そのため、一撃の威力は強いが連射性に欠ける。近距離で敵に見つかってしまったら、ろくに反撃もできずに袋叩きにされるだろう。


「とりあえず、敵が動くまで周囲を警戒するぞ」


「あぁ、わかった」


 男は二人してスナイパーライフルを構えては、黙って望遠スコープを覗き込む。


 辺りには、先ほどの砲撃のせいか砂埃が舞っていた。先ほどよりも、さらに悪い視界に思わず舌打ちをしそうになる。


 ……その時だった。

 ……黒い何かが、視界を横切っていった。


「っ! 今の見たか!?」


「何を?」


「あっちのほうで、何かが走っていくのが見えたんだ!」


 男の見ている方へ、相方も銃を構える。


「……うーん、何も見えないが。本当に何かいたのか?」


「わ、わからない。なにせ一瞬だったから」


 相方の問いに、男は自信なさそうに答える。


「だったら、鹿や野兎じゃないのか? さっきの爆発で驚いて逃げているんだよ」


「……そうかなぁ」


 それにしては動きが機敏だったような、と思いながらも再び望遠スコープを覗き込む。


 ……が、その直後だ。

 がざり、という小さな音が聞こえた。


 いつもなら聞き逃していたかもしれない程度の音に、なぜか男は危機感を抱いた。

 そして、スコープから目を離して音がした方へと視線を向ける。


「……っ!」


 その光景を目にして、男は恐怖に硬直する。

 何かがこちらへと迫ってきていた。狼のように速く、獅子のように獰猛で、飢えた獣のごとく、その男の瞳がギラギラと輝いていた。


「よっしゃっ! 獲物、発見―っ!!」


 旧式のライフルを肩に担いだまま、一直線に突撃してくる。


 慌てて男はスナイパーライフルを構えて、その人物へ引き金を引く。距離は100メートルも離れていない。絶対に外さない距離だ。

 ……しかし―


「おらおらっ! そんな弾に当たるかよ!」


 なんと、その人物はひらりと銃弾を躱してみせたのだ。


 いや、厳密にいえば、撃つタイミングを見計らって回避行動をとっていたのか。そんなこと、いったいどれだけの戦闘経験を積めばできると思っているんだ。


「く、くそ!」


 男はボルトハンドルを操作して、次弾を装填させる。


 その間に、相方も気がついて銃撃を開始する。しかし、やはり当たらない。奴との距離はどんどん近づいている。


「このっ!」


 再び銃を構え、狙いを定める。

 この一撃をヘッドショットさせて終わらせてやる、と思いながら相手の頭を睨みつける。


 ……その時だ。

 ……自分たちに迫ってきている男の、首に刻まれたものが見えた。


 金槌の入れ墨だ。

 そんなものを入れている人間なんて、学園に一人しかいない!


「こ、こいつ、……ゼノ・スレッジハンマーだっ!」


「マジかよ! 《普通歩兵科アサルト》の学年主席じゃないか!」


 二人の男が叫んでいるなか、その男、ゼノが不敵に笑った。


 そして、数秒後には。

 スナイパーの男二人は、ランク戦から脱落していた。


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