第8話 「ゼノの戦い方」
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「数年前の戦争で、最も多くの敵を倒した武器はなんだと思う?」
紅茶の入ったコップを傾けながら、シローがユーリィとミリアに尋ねる。
「えっと、銃でしょうか?」
「あ、あの、魔法を入れてもいいなら、魔法だと思います」
即答するユーリィと、おどおどしながら自信なさそうに答えるミリア。
そんな二人に、シローはゆっくりと首を横に振った。
「残念ながら違う。確かに、銃も魔法も戦闘には欠かせないものだった。だが、それ以上に敵を倒すための武器が身近にあったんだ」
それはなんですか、と聞くように、彼女たちは黙ってシローのことを見つめる。
そして、シローも淡々と答えた。
「シャベルだよ」
「「え?」」
彼の答えが意外だったのか、ユーリィもミリアも驚いたような声を出す。
「……シャベルって、あの土を掘ったり、埋めたりするものですか?」
「あぁ、そうだ。前線で使われていた軍用シャベルは頑丈で重い。また、それなりの長さがあったから、下手なナイフよりも立派な武器になったそうだ」
シローは一気に飲み干すと、水筒を手に取って蓋を開ける。
中からは、紅茶の良い香りがした。
「元々は、銃弾から身を守るための塹壕を掘るためのものだったが、敵の兵士と不意に遭遇することも珍しくなくてな。シャベルは護身用の武器として、大きな役割を果たしていたそうだ」
シローは彼女たちのコップに紅茶を注いでから、最後に自分のにも入れる。
「……ゼノが戦っていたのは、そんな戦場ばかりだった。塹壕戦やゲリラ戦。銃を撃った回数よりも、銃やシャベルで敵を殴った回数のほうが多かった、と笑っていたよ」
紅茶で唇を湿らせてから、シローは続ける。
「ゼノが旧式のライフルを使っている理由は、そこにある。自分から敵に接近していって、ライフルを振り回しながら肉弾戦で片をつける。……突撃しかできない普通歩兵科の学年主席とは、よく言ったものさ」
ふぅ、とシローが息をつく。
最初は、ゼノがどんな戦い方をするのか、とユーリィに聞かれたから簡潔に答えるつもりだったのだが、思いのほか長話になってしまった。
「……じゃあ、今頃は?」
「あぁ、さっきから散発的に銃声が聞こえるから、そろそろ決着が着くころじゃないか? とはいっても、接近戦へ持ち込んだゼノに敵はいないがな」
ぐいっ、と紅茶を飲み干す。
数年前の戦争では、ゼノと同じ戦場に立つ機会は少なかった。
いや、それ以上に。互いを嫌っていたので、会話も数えるほどしかしなかった。それよりも流れ弾と称して、相手に向かって銃を撃った回数のほうが多いかもしれない。
「さて、そろそろ俺たちも行こう。出迎えくらいしてやらないと、ゼノの機嫌が悪くなる」
「そうですね」
にこり、とユーリィは笑いながら片づけを始める。
人数分のコップを集めて、水筒と一緒にシローのバックへと詰めていく。その手つきは慣れているようで、まるで普段から彼の身の世話をしているのではないか、と疑うほどだった。
そして、最後に。
ユーリィがそのジャージを着ていることに気がついて、ミリアはがっかりするように肩を落とした。
「……あ、あうあう~」
「ん? どうした、ミリア?」
「い、いえ!? な、なんでもないのです!」
ぶんぶんと首を振るが、どこからどう見ても何かを言いたそうな顔であった。
「言いたいことがあるなら、今のうちに言ってくれよ。何か気になることでもあったのか?」
このランク戦で、という意味だったのだが、問われたミリアは別の意味で捉えていた。
意を決した様子で、彼女は問う。
「あ、あの。どうしてユーリィ先輩が、……シロー先輩のジャージを着ているのですか?」
「え?」
その思いもしない質問に、シローの頭の中は真っ白になっていた。
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「フフフッ、よくぞここまで来たな!」
ダークケルベロスが仰々しく言い放つ。
着てもいないマントを払い、片手で顔を隠す。まるで、自分がこの世界の支配者と言わんばかりの態度だった。
「だが、その悪運もこれまでだ。我が同志を撃ち滅ぼした罪は重いぞ。貴様には、この俺が。……死の門の番人である『ダークケルベロス』が直々に相手になってやろう」
少し小高い丘の上で、女生徒を侍らしながら口上を宣う。
そんな話を聞くくらいなら、さっさと銃を撃てばいいのに。なぜか、ゼノは彼の言葉に耳を傾けていた。
いつもの不敵な笑みを浮かべながら。
「ははっ、久々に気合いの入った奴だな。……気に入ったぜ!」
にやり、と笑いながら旧式のライフルを肩にのせる。
「悪いが手加減はしねぇぞ。天国でも地獄でもぶっ飛ばしてやるから、そこで後悔するんだな」
「フフッ、それはこちらのセリフだ」
ダークケルベロスが銃を構えて、その先端をゼノへと向ける。
「……アンジェよ、手を出すな。これは世界の命運をかけた戦いだ。この聖戦だけは、俺の手で決着をつけなくてはいけない」
「……承知しました」
アンジェは恭しく頭を下げると、その場から身を引く。
「ははっ! 女を戦いに巻き込みたくねぇってか? ますます気に入ったぜ!」
「フフッ、何のことかな?」
ゼノが笑い、ダークケルベロスも笑う。
互いの視線がぶつかり合い、それが臨界点に達した、その瞬間。
……男二人の戦いが始まった。
彼らの決着がつくまで、それほど時間はかからなかったという。




