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第8話 「ゼノの戦い方」


――◇――◇――◇――◇――◇―



「数年前の戦争で、最も多くの敵を倒した武器はなんだと思う?」


 紅茶の入ったコップを傾けながら、シローがユーリィとミリアに尋ねる。


「えっと、銃でしょうか?」


「あ、あの、魔法を入れてもいいなら、魔法だと思います」


 即答するユーリィと、おどおどしながら自信なさそうに答えるミリア。


 そんな二人に、シローはゆっくりと首を横に振った。


「残念ながら違う。確かに、銃も魔法も戦闘には欠かせないものだった。だが、それ以上に敵を倒すための武器が身近にあったんだ」


 それはなんですか、と聞くように、彼女たちは黙ってシローのことを見つめる。


 そして、シローも淡々と答えた。


「シャベルだよ」


「「え?」」


 彼の答えが意外だったのか、ユーリィもミリアも驚いたような声を出す。


「……シャベルって、あの土を掘ったり、埋めたりするものですか?」


「あぁ、そうだ。前線で使われていた軍用シャベルは頑丈で重い。また、それなりの長さがあったから、下手なナイフよりも立派な武器になったそうだ」


 シローは一気に飲み干すと、水筒を手に取って蓋を開ける。

 中からは、紅茶の良い香りがした。


「元々は、銃弾から身を守るための塹壕を掘るためのものだったが、敵の兵士と不意に遭遇することも珍しくなくてな。シャベルは護身用の武器として、大きな役割を果たしていたそうだ」


 シローは彼女たちのコップに紅茶を注いでから、最後に自分のにも入れる。


「……ゼノが戦っていたのは、そんな戦場ばかりだった。塹壕戦やゲリラ戦。銃を撃った回数よりも、銃やシャベルで敵を殴った回数のほうが多かった、と笑っていたよ」


 紅茶で唇を湿らせてから、シローは続ける。


「ゼノが旧式のライフルを使っている理由は、そこにある。自分から敵に接近していって、ライフルを振り回しながら肉弾戦で片をつける。……突撃しかできない普通歩兵科(アサルト)の学年主席とは、よく言ったものさ」


 ふぅ、とシローが息をつく。


 最初は、ゼノがどんな戦い方をするのか、とユーリィに聞かれたから簡潔に答えるつもりだったのだが、思いのほか長話になってしまった。


「……じゃあ、今頃は?」


「あぁ、さっきから散発的に銃声が聞こえるから、そろそろ決着が着くころじゃないか? とはいっても、接近戦へ持ち込んだゼノに敵はいないがな」


 ぐいっ、と紅茶を飲み干す。


 数年前の戦争では、ゼノと同じ戦場に立つ機会は少なかった。


 いや、それ以上に。互いを嫌っていたので、会話も数えるほどしかしなかった。それよりも流れ弾と称して、相手に向かって銃を撃った回数のほうが多いかもしれない。


「さて、そろそろ俺たちも行こう。出迎えくらいしてやらないと、ゼノの機嫌が悪くなる」


「そうですね」


 にこり、とユーリィは笑いながら片づけを始める。


 人数分のコップを集めて、水筒と一緒にシローのバックへと詰めていく。その手つきは慣れているようで、まるで普段から彼の身の世話をしているのではないか、と疑うほどだった。


 そして、最後に。

 ユーリィがそのジャージを着ていることに気がついて、ミリアはがっかりするように肩を落とした。


「……あ、あうあう~」


「ん? どうした、ミリア?」


「い、いえ!? な、なんでもないのです!」


 ぶんぶんと首を振るが、どこからどう見ても何かを言いたそうな顔であった。


「言いたいことがあるなら、今のうちに言ってくれよ。何か気になることでもあったのか?」


 このランク戦で、という意味だったのだが、問われたミリアは別の意味で捉えていた。


 意を決した様子で、彼女は問う。


「あ、あの。どうしてユーリィ先輩が、……シロー先輩のジャージを着ているのですか?」


「え?」


 その思いもしない質問に、シローの頭の中は真っ白になっていた。



――◇――◇――◇――◇――◇―



「フフフッ、よくぞここまで来たな!」


 ダークケルベロスが仰々しく言い放つ。

 着てもいないマントを払い、片手で顔を隠す。まるで、自分がこの世界の支配者と言わんばかりの態度だった。


「だが、その悪運もこれまでだ。我が同志を撃ち滅ぼした罪は重いぞ。貴様には、この俺が。……死の門の番人である『ダークケルベロス』が直々に相手になってやろう」


 少し小高い丘の上で、女生徒を侍らしながら口上を宣う。


 そんな話を聞くくらいなら、さっさと銃を撃てばいいのに。なぜか、ゼノは彼の言葉に耳を傾けていた。


 いつもの不敵な笑みを浮かべながら。


「ははっ、久々に気合いの入った奴だな。……気に入ったぜ!」


 にやり、と笑いながら旧式のライフルを肩にのせる。


「悪いが手加減はしねぇぞ。天国でも地獄でもぶっ飛ばしてやるから、そこで後悔するんだな」


「フフッ、それはこちらのセリフだ」


 ダークケルベロスが銃を構えて、その先端をゼノへと向ける。


「……アンジェよ、手を出すな。これは世界の命運をかけた戦いだ。この聖戦だけは、俺の手で決着をつけなくてはいけない」


「……承知しました」


 アンジェは恭しく頭を下げると、その場から身を引く。


「ははっ! 女を戦いに巻き込みたくねぇってか? ますます気に入ったぜ!」


「フフッ、何のことかな?」


 ゼノが笑い、ダークケルベロスも笑う。

 互いの視線がぶつかり合い、それが臨界点に達した、その瞬間。


 ……男二人の戦いが始まった。


 彼らの決着がつくまで、それほど時間はかからなかったという。



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