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第6話 「死の門の番人(ダークケルベロス)」


――◇――◇――◇――◇――◇―


 同じ時刻。

 森林地帯のフィールドで、同じように作戦会議を開いているチームがいた。


 学園ランキング52位。

 オルランド魔法学園は、ランキングが序列を示す実力至上主義。その中で52位ともなると、上位ランカーからも油断できないという認識を持たれるほどだ。


 なにより、このチームは他にはない特殊性を持っていた。


 メンバー全員が《狙撃兵科スナイパー》なのだ。この魔法学園で唯一の、狙撃手だけで構成されたチーム。それがシローたちの対戦相手であった。


「よし、聞いてくれ。相手は格下のチームだが油断はできない。俺が集めた情報によると、凄腕の狙撃手と、《砲兵科カノン》の人間がいるらしい。注意が必要だ」


 チームのリーダーの男が、他のメンバーを見渡した。


 全員がそれなりの装備で身を固めている。

 迷彩柄の服に、同じ色の帽子。


 彼らが手にしているのは、ユーリィと同じ狙撃銃『イーグルM24』。


 ただし、彼らの銃は私物であり、使いやすいように細かな調節をされている。


「今回のフィールドが森林地帯というのは、運がなかったな。狙撃は難しいかもしれないが、それは向こうも同じだ。力を合わせて勝利を手にするぞ!」


 メンバーの士気を高めるために、リーダーがいつも以上に声を張る。


 一緒に頑張ろう、絶対に勝つぞ、そんな意味が込められていた。

 だが、それを聞いていたメンバーからは、実に面倒そうな声が返ってきた。


「はいはい、わかっているよ」


「どうせ、話が長くなるんだろう。リーダー」


「ほら、早くしないとランク戦が始まっちゃうよ」


 チームで一人だけの女子にまで言われて、リーダーはしゅんと肩を落とした。


 なんだか泣きたい気分だった。

 どうして、彼らはこうも面倒くさそうな態度をとるのだろうか。いつもは、もっと楽しそうに練習をするのに。


「ん? どうしたの、リーダー?」


「……いや、なんだが、軽く死にたくなって」


 どんよりと表情を曇らせて、視線をメンバーから外す。

 リーダーな

んて柄じゃないのに、とかブツブツ言いながら、どんどん気分を落ち込ませていく。


「……おいおい、またブルーになっているぜ」


「……あぁ、負のスパイラルに飲み込まれているな」


「もう。しっかりしてよね、リーダー」


 チーム紅一点の女子が、自分のものではないスナイパーライフルを持って立ち上がる。


 それは、リーダーの銃だった。

 全体的に黒くて華奢な印象のある狙撃銃を、うじうじ悩んでいる彼へと手渡しにいく。


「ほら、リーダー。早く挨拶をして。じゃないと本当にランク戦が始まっちゃう!」


「……え、だって、挨拶はもう―」


「いいから、早く!」


「ちょっ、待っ―」


 リーダーが女子から渡されたスナイパーライフルを受け取る。

 両手で掴み、その重さを実感する。


 その瞬間だ。

 突然、リーダーの目つきが変わったのだ。


「こ、この感触は!?」


 それまで自信がなさそうにおどおどしていたのが、キリッと鋭い目つきになっていく。

 目だけではない。

 彼の表情や態度までも、がらりと変わっていた。


「……フフフ、待たせたな。我が同胞よ!」


 声色まで変わっている。

 バッ、と仰々しく手を払うと、その掌で顔を覆う。


「……あぁ、今宵も邪神に導かれたというのか。この体に流れる呪われた血が、戦い続けろと叫んでいる。なんと因果なことか」


 リーダーは自分の体を抱きしめながら、自身の言葉に酔いしれる。


「フフ、だが安寧などは求めてはおらぬ。この魔眼に秘められし呪縛から解放されるまで、奴と戦い続けると誓ったのだ!」


「……奴、って誰かな?」


「……俺が知るかよ」


 メンバーたちはひそひそと話し合っているなかでも、豹変したリーダーの挨拶・・は続く。


「我が名は、ダークケルベロス。死の門の番人にして、闇の眷属の一員である。同胞たちよ、我と一緒に戦おうではないか!」


 狙撃手だけのチームのリーダー。

 ダークケルベロスこと、ジャック・スミスは魔法体質の生徒である。


 自分の意思では魔法を使うことはできないため、体に溜まった魔力が本人の性格に影響を与えてしまうのだ。彼の場合は、一種の陶酔状態となる。


 まるで、自分が何か特別な人間であると勘違いをしてしまい、闇とか、呪縛とか、魔眼が疼くとか、よくわからないけど何かカッコいい言葉を乱発するようになる。


 本人にしたら、その時の記憶がしっかりと残っているので、尚更タチが悪い。


「ぐっ! 沈まれ、我が右腕よ! まだ貴様が目覚める時ではないのだ!」


 ちなみに、学園側に登録されている魔法の名前は『厨二体質ダークケルベロス』。


 厨二とは、二つ目のキッチンを指す。普段にはない性格を厨房に例えた、学園側のセンスが光るネーミングである。


「アンジェ! アンジェはいるか!?」


 自分の右腕と戦っていたダークケルベロスが、唐突に呼びかけた。

 そして、少し離れたところにいる女子を見つめる。


「……な、なによ、リーダー」


 アンジェと呼ばれた彼女は、もじもじしながら返事をする。


「フフフ、我が忠実なしもべよ。……あぁ、天使アンジェとは忌々しい響きだ。だが貴様を堕天させた、その日から。我が闇の眷属として生まれ変わったのだ」


 ダークケルベロスはいちいち大袈裟に手を払っては、なぜか片手で顔を覆う。そして、指の隙間からメンバーたちを見つめるのだ。


 ……きっと、たくさん練習してきたに違いない、とチームの男たちは確信していた。


「アンジェよ。今宵も、我が背中は貴様に預ける。何があっても、俺から離れるなよ」


「……べ、別にいいけどさ」


 彼女は不機嫌そうに視線をそらすが、当時に何かを期待するようにもじもじしている。


「……でも、たまには私の言うことも聞いてほしい、っていうか―」


「口答えは許さん!」


 バッ、と着てもいないマントを払い、そして再び片手で顔を覆う。


「アンジェ。貴様は我が血族なのだ。我に従い、我に忠実であれ。何があっても、我を裏切るな」


 そして、自分の掌を見つめながら、どこか深刻そうな表情を浮かべる。


「俺は、もう貴様を失いたくはない。何があっても貴様を守ると誓ったのだ。……アンジェ、貴様は俺のものだ。誰にも渡しはしない」


 前のランク戦で流れ弾に当たっただけじゃないか、とは誰も口にしない。


 そして、こんなことを大真面目に女子に言ったところで、気味悪いと思われるか、無言で物理的な距離を取られるかだろう。

 ……だが―


「……はい、ダークケルベロス様」


 彼女もまた、彼と同類の人間であった。


 主君に忠誠を誓っているように、ダークケルベロスの傍に寄り添う。その頬は赤く染まっていて、尊敬の眼差しをしていた。


「……私は堕天使アンジェ。どこまでも、貴方様についていきます」


「うむ、信頼しているぞ」


「はい」


 堕天使アンジェこと、……アン・ミシェルは恭しく頭を下げる。


 そんな二人の光景を見て、残された男たちがひそひそと話す。


「……リーダーがいつもこの感じなら、二人の仲はとっくに進展しているのにな」


「……あぁ。だって、まだ手も繋いでいないんだろう? これはもう絶対に両想いだろ」


 はぁ、と呆れながら、自称・死の門の番人と、自称・堕天使を見る。


「さぁ、我が同胞たちよ。決戦の時だ! 必ずや勝利して、神々の陰謀を暴いてやるぞ!」


 フフフッと意味深な笑みを浮かべながら、手にしたスナイパーライフルを空へと向ける。その姿を、憧れるような目でアンジェが見つめていた。


 ……早く付き合っちゃえよ、と男たちがモヤモヤしていると。パンッと乾いた音が鳴って、青空に白い煙が描かれる。


 ……ランク戦が開始していた。


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