第6話 「死の門の番人(ダークケルベロス)」
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同じ時刻。
森林地帯のフィールドで、同じように作戦会議を開いているチームがいた。
学園ランキング52位。
オルランド魔法学園は、ランキングが序列を示す実力至上主義。その中で52位ともなると、上位ランカーからも油断できないという認識を持たれるほどだ。
なにより、このチームは他にはない特殊性を持っていた。
メンバー全員が《狙撃兵科》なのだ。この魔法学園で唯一の、狙撃手だけで構成されたチーム。それがシローたちの対戦相手であった。
「よし、聞いてくれ。相手は格下のチームだが油断はできない。俺が集めた情報によると、凄腕の狙撃手と、《砲兵科》の人間がいるらしい。注意が必要だ」
チームのリーダーの男が、他のメンバーを見渡した。
全員がそれなりの装備で身を固めている。
迷彩柄の服に、同じ色の帽子。
彼らが手にしているのは、ユーリィと同じ狙撃銃『イーグルM24』。
ただし、彼らの銃は私物であり、使いやすいように細かな調節をされている。
「今回のフィールドが森林地帯というのは、運がなかったな。狙撃は難しいかもしれないが、それは向こうも同じだ。力を合わせて勝利を手にするぞ!」
メンバーの士気を高めるために、リーダーがいつも以上に声を張る。
一緒に頑張ろう、絶対に勝つぞ、そんな意味が込められていた。
だが、それを聞いていたメンバーからは、実に面倒そうな声が返ってきた。
「はいはい、わかっているよ」
「どうせ、話が長くなるんだろう。リーダー」
「ほら、早くしないとランク戦が始まっちゃうよ」
チームで一人だけの女子にまで言われて、リーダーはしゅんと肩を落とした。
なんだか泣きたい気分だった。
どうして、彼らはこうも面倒くさそうな態度をとるのだろうか。いつもは、もっと楽しそうに練習をするのに。
「ん? どうしたの、リーダー?」
「……いや、なんだが、軽く死にたくなって」
どんよりと表情を曇らせて、視線をメンバーから外す。
リーダーな
んて柄じゃないのに、とかブツブツ言いながら、どんどん気分を落ち込ませていく。
「……おいおい、またブルーになっているぜ」
「……あぁ、負のスパイラルに飲み込まれているな」
「もう。しっかりしてよね、リーダー」
チーム紅一点の女子が、自分のものではないスナイパーライフルを持って立ち上がる。
それは、リーダーの銃だった。
全体的に黒くて華奢な印象のある狙撃銃を、うじうじ悩んでいる彼へと手渡しにいく。
「ほら、リーダー。早く挨拶をして。じゃないと本当にランク戦が始まっちゃう!」
「……え、だって、挨拶はもう―」
「いいから、早く!」
「ちょっ、待っ―」
リーダーが女子から渡されたスナイパーライフルを受け取る。
両手で掴み、その重さを実感する。
その瞬間だ。
突然、リーダーの目つきが変わったのだ。
「こ、この感触は!?」
それまで自信がなさそうにおどおどしていたのが、キリッと鋭い目つきになっていく。
目だけではない。
彼の表情や態度までも、がらりと変わっていた。
「……フフフ、待たせたな。我が同胞よ!」
声色まで変わっている。
バッ、と仰々しく手を払うと、その掌で顔を覆う。
「……あぁ、今宵も邪神に導かれたというのか。この体に流れる呪われた血が、戦い続けろと叫んでいる。なんと因果なことか」
リーダーは自分の体を抱きしめながら、自身の言葉に酔いしれる。
「フフ、だが安寧などは求めてはおらぬ。この魔眼に秘められし呪縛から解放されるまで、奴と戦い続けると誓ったのだ!」
「……奴、って誰かな?」
「……俺が知るかよ」
メンバーたちはひそひそと話し合っているなかでも、豹変したリーダーの挨拶は続く。
「我が名は、ダークケルベロス。死の門の番人にして、闇の眷属の一員である。同胞たちよ、我と一緒に戦おうではないか!」
狙撃手だけのチームのリーダー。
ダークケルベロスこと、ジャック・スミスは魔法体質の生徒である。
自分の意思では魔法を使うことはできないため、体に溜まった魔力が本人の性格に影響を与えてしまうのだ。彼の場合は、一種の陶酔状態となる。
まるで、自分が何か特別な人間であると勘違いをしてしまい、闇とか、呪縛とか、魔眼が疼くとか、よくわからないけど何かカッコいい言葉を乱発するようになる。
本人にしたら、その時の記憶がしっかりと残っているので、尚更タチが悪い。
「ぐっ! 沈まれ、我が右腕よ! まだ貴様が目覚める時ではないのだ!」
ちなみに、学園側に登録されている魔法の名前は『厨二体質』。
厨二とは、二つ目のキッチンを指す。普段にはない性格を厨房に例えた、学園側のセンスが光るネーミングである。
「アンジェ! アンジェはいるか!?」
自分の右腕と戦っていたダークケルベロスが、唐突に呼びかけた。
そして、少し離れたところにいる女子を見つめる。
「……な、なによ、リーダー」
アンジェと呼ばれた彼女は、もじもじしながら返事をする。
「フフフ、我が忠実なしもべよ。……あぁ、天使とは忌々しい響きだ。だが貴様を堕天させた、その日から。我が闇の眷属として生まれ変わったのだ」
ダークケルベロスはいちいち大袈裟に手を払っては、なぜか片手で顔を覆う。そして、指の隙間からメンバーたちを見つめるのだ。
……きっと、たくさん練習してきたに違いない、とチームの男たちは確信していた。
「アンジェよ。今宵も、我が背中は貴様に預ける。何があっても、俺から離れるなよ」
「……べ、別にいいけどさ」
彼女は不機嫌そうに視線をそらすが、当時に何かを期待するようにもじもじしている。
「……でも、たまには私の言うことも聞いてほしい、っていうか―」
「口答えは許さん!」
バッ、と着てもいないマントを払い、そして再び片手で顔を覆う。
「アンジェ。貴様は我が血族なのだ。我に従い、我に忠実であれ。何があっても、我を裏切るな」
そして、自分の掌を見つめながら、どこか深刻そうな表情を浮かべる。
「俺は、もう貴様を失いたくはない。何があっても貴様を守ると誓ったのだ。……アンジェ、貴様は俺のものだ。誰にも渡しはしない」
前のランク戦で流れ弾に当たっただけじゃないか、とは誰も口にしない。
そして、こんなことを大真面目に女子に言ったところで、気味悪いと思われるか、無言で物理的な距離を取られるかだろう。
……だが―
「……はい、ダークケルベロス様」
彼女もまた、彼と同類の人間であった。
主君に忠誠を誓っているように、ダークケルベロスの傍に寄り添う。その頬は赤く染まっていて、尊敬の眼差しをしていた。
「……私は堕天使アンジェ。どこまでも、貴方様についていきます」
「うむ、信頼しているぞ」
「はい」
堕天使アンジェこと、……アン・ミシェルは恭しく頭を下げる。
そんな二人の光景を見て、残された男たちがひそひそと話す。
「……リーダーがいつもこの感じなら、二人の仲はとっくに進展しているのにな」
「……あぁ。だって、まだ手も繋いでいないんだろう? これはもう絶対に両想いだろ」
はぁ、と呆れながら、自称・死の門の番人と、自称・堕天使を見る。
「さぁ、我が同胞たちよ。決戦の時だ! 必ずや勝利して、神々の陰謀を暴いてやるぞ!」
フフフッと意味深な笑みを浮かべながら、手にしたスナイパーライフルを空へと向ける。その姿を、憧れるような目でアンジェが見つめていた。
……早く付き合っちゃえよ、と男たちがモヤモヤしていると。パンッと乾いた音が鳴って、青空に白い煙が描かれる。
……ランク戦が開始していた。




