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第34話 「ランク戦が終わって」

――◇――◇――◇――◇――◇―


 ランク戦を終えて学園に戻ると、ゼノが校門の前で待っていた。

 門に寄りかかりながら、不敵な笑みを浮かべている。まだ、ランク戦の結果は知らないはずだが、その表情はシローが勝ったことを確信していた。


「やったな」


「……勝ったかどうか、まだ知らないだろうが」


「ははっ、その顔を見ればわかるさ」 


 ゼノが軽く肩を小突く。

 感情が顔で出るタイプではないと思っていたが、付き合いの長いゼノには何かわかるところがあるのだろう。

 そんな相棒は、シローの持っている長い鞄に視線を向けた。鞄の中には、オルランド共和国の国宝銃『ニヴルヘイム』が入っている。


「で? 少しは吹っ切れたか?」


「……あぁ」


 シローは遠くを見つめて目を細める。


「相手が倒すべき『敵』だと思ったら、自然と引き金を引けた。やっぱり俺は、……あの戦争に取り残されているらしい」


「ははっ、何だっていいさ。お前がもう一度、前向きになれたのならな」


 けらけらとゼノが笑う。


「今回のランク戦だって、どうせ手加減をしてたんだろう? お前が本気を出したら、死人が出るどころの騒ぎじゃないからな。まぁ、地形が変わっちまうから、地図を直さなくちゃいけねぇ」


「それはない」


「はっ、謙遜するなよ。お前の実力は、同じ戦場に立っていた俺が良く知っている」


 否定するシローに、ゼノがわかったような口調で返した。


「まぁ、とりあえず。俺の言った通りだっただろう?」


「は? なんのことだ?」


「お前の『臆病者』の話さ。……お前は銃が撃てないんじゃない。撃たないだけだって」


 そういえば、そんなことを言われた気がする。


「俺としては、ようやくスタートラインに立てた気分だ。これで学園の一番を目指せるってもんだぜ」


「……お前、まだそんなことを言っているのか?」


「おうよ! やるからには一番を目指さなくちゃな。そうでないと、男として生まれた意味がねぇ!」


 親指を立てながら、ゼノが満面の笑みを浮かべる。

 いつも通りのため息をつきたくなる光景だが、なぜか今だけはそんな気がしない。なんとなく、頑張れるような気がした。


普通歩兵科アサルト》で前線に立てる、ゼノ。

砲兵科カノン》で広範囲を攻撃できる、ミリア。

狙撃兵科スナイパー》で遠距離からの狙撃ができる、シローと。同じくスナイパーライフルを扱える、ユーリィ。

 ランク戦を戦うチームとしても、悪くない編成だと思った。


「それで? 今日はどうするんだ?」


「……ユーリィの顔でも見てこようと思っている。まだ、保健室にいるんだろう?」


「あぁ。さっきまでリーシャがミリアの治療をしていたから、この時間はユーリィ一人だけだぜ」


「そうか」


 シローは銃の入った鞄を握りなおすと、ゼノに背を向けて歩き出す。

 その時、背中から相棒の声が聞こえた。


「……なぁ、シロ。お前に確認しておきたいことがあるんだが」


「ん? なんだ?」


 その場で首だけ振り返る。

 だが、シローの目に映った相棒の様子を見て、何か大切なことを言われる気がした。


「ユーリィのことだ。……あの子は、何者なんだ?」


「……どういう意味だ?」


 いつになく真剣な目をしてるゼノに、シローは戸惑いを隠すことができなかった。

 それから聞く話は、シローにとっても無視できないことであった。



――◇――◇――◇――◇――◇―



「調子はどうだ?」


「はい! 私は元気ですよ」


 保健室のベッドで、ユーリィが嬉しそうに笑っている。

 以前の、何かに諦めていた笑みではなく、心から幸せそうな笑顔だった。


「シローさんも、お疲れ様でした。さっきまでランク戦だったんですよね?」


「あぁ、そうだ」


「学園中の噂になっていますよ。たった一人で、格上のチームに勝ったとか。……これでシローさんの『臆病者』の噂も消えればいいんですけど」


 しゅん、と彼女が肩を落とす。

 まるで自分が『臆病者』と言われて落ち込んでいるみたいだった。


「……ユーリィは気にしなくてもいい。そもそも狙撃手は、臆病じゃないと務まらないらしい」


「そうなんですか?」


「あぁ。敵に見つかる前に、敵を撃たないといけないからな。そう思うと、『臆病者』なんて誉め言葉みたいなものだ」


 そう言って、シローはユーリィの頭に手を伸ばす。

 そして、彼女の髪の感触を確かめるように、優しく撫でていく。


「えへへ」


 ユーリィも幸せそうに頬を染めている。

 そっと目を閉じて、されるがままに身を委ねていた。


 こんな時間がいつまでも続けばいいのに、とシローは心の底で思ってしまう。

 穏やかな表情を浮かべながらも、彼はある不安を抱えていた。


 ……それは、先ほどゼノと別れる時にかわした会話の内容にあった。






次回、最終話です。

とはいっても、章が変わるだけなので、来週からも変わらず更新していきます。

よかったら見てやってください。




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