第34話 「ランク戦が終わって」
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ランク戦を終えて学園に戻ると、ゼノが校門の前で待っていた。
門に寄りかかりながら、不敵な笑みを浮かべている。まだ、ランク戦の結果は知らないはずだが、その表情はシローが勝ったことを確信していた。
「やったな」
「……勝ったかどうか、まだ知らないだろうが」
「ははっ、その顔を見ればわかるさ」
ゼノが軽く肩を小突く。
感情が顔で出るタイプではないと思っていたが、付き合いの長いゼノには何かわかるところがあるのだろう。
そんな相棒は、シローの持っている長い鞄に視線を向けた。鞄の中には、オルランド共和国の国宝銃『ニヴルヘイム』が入っている。
「で? 少しは吹っ切れたか?」
「……あぁ」
シローは遠くを見つめて目を細める。
「相手が倒すべき『敵』だと思ったら、自然と引き金を引けた。やっぱり俺は、……あの戦争に取り残されているらしい」
「ははっ、何だっていいさ。お前がもう一度、前向きになれたのならな」
けらけらとゼノが笑う。
「今回のランク戦だって、どうせ手加減をしてたんだろう? お前が本気を出したら、死人が出るどころの騒ぎじゃないからな。まぁ、地形が変わっちまうから、地図を直さなくちゃいけねぇ」
「それはない」
「はっ、謙遜するなよ。お前の実力は、同じ戦場に立っていた俺が良く知っている」
否定するシローに、ゼノがわかったような口調で返した。
「まぁ、とりあえず。俺の言った通りだっただろう?」
「は? なんのことだ?」
「お前の『臆病者』の話さ。……お前は銃が撃てないんじゃない。撃たないだけだって」
そういえば、そんなことを言われた気がする。
「俺としては、ようやくスタートラインに立てた気分だ。これで学園の一番を目指せるってもんだぜ」
「……お前、まだそんなことを言っているのか?」
「おうよ! やるからには一番を目指さなくちゃな。そうでないと、男として生まれた意味がねぇ!」
親指を立てながら、ゼノが満面の笑みを浮かべる。
いつも通りのため息をつきたくなる光景だが、なぜか今だけはそんな気がしない。なんとなく、頑張れるような気がした。
《普通歩兵科》で前線に立てる、ゼノ。
《砲兵科》で広範囲を攻撃できる、ミリア。
《狙撃兵科》で遠距離からの狙撃ができる、シローと。同じくスナイパーライフルを扱える、ユーリィ。
ランク戦を戦うチームとしても、悪くない編成だと思った。
「それで? 今日はどうするんだ?」
「……ユーリィの顔でも見てこようと思っている。まだ、保健室にいるんだろう?」
「あぁ。さっきまでリーシャがミリアの治療をしていたから、この時間はユーリィ一人だけだぜ」
「そうか」
シローは銃の入った鞄を握りなおすと、ゼノに背を向けて歩き出す。
その時、背中から相棒の声が聞こえた。
「……なぁ、シロ。お前に確認しておきたいことがあるんだが」
「ん? なんだ?」
その場で首だけ振り返る。
だが、シローの目に映った相棒の様子を見て、何か大切なことを言われる気がした。
「ユーリィのことだ。……あの子は、何者なんだ?」
「……どういう意味だ?」
いつになく真剣な目をしてるゼノに、シローは戸惑いを隠すことができなかった。
それから聞く話は、シローにとっても無視できないことであった。
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「調子はどうだ?」
「はい! 私は元気ですよ」
保健室のベッドで、ユーリィが嬉しそうに笑っている。
以前の、何かに諦めていた笑みではなく、心から幸せそうな笑顔だった。
「シローさんも、お疲れ様でした。さっきまでランク戦だったんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「学園中の噂になっていますよ。たった一人で、格上のチームに勝ったとか。……これでシローさんの『臆病者』の噂も消えればいいんですけど」
しゅん、と彼女が肩を落とす。
まるで自分が『臆病者』と言われて落ち込んでいるみたいだった。
「……ユーリィは気にしなくてもいい。そもそも狙撃手は、臆病じゃないと務まらないらしい」
「そうなんですか?」
「あぁ。敵に見つかる前に、敵を撃たないといけないからな。そう思うと、『臆病者』なんて誉め言葉みたいなものだ」
そう言って、シローはユーリィの頭に手を伸ばす。
そして、彼女の髪の感触を確かめるように、優しく撫でていく。
「えへへ」
ユーリィも幸せそうに頬を染めている。
そっと目を閉じて、されるがままに身を委ねていた。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、とシローは心の底で思ってしまう。
穏やかな表情を浮かべながらも、彼はある不安を抱えていた。
……それは、先ほどゼノと別れる時にかわした会話の内容にあった。
次回、最終話です。
とはいっても、章が変わるだけなので、来週からも変わらず更新していきます。
よかったら見てやってください。




