25雫目・幸せの基準 小雫夜話(前編)
一話完結…できませんでした…。
最終話です。珍しく前後編です。若干、メルヘンホラーかも…?
書き下ろしです。
…昔ながらのガラスを覗くの好きです。あの、微妙な歪み具合が…///
僕の爺ちゃんは、とても不思議な人だ。穏やかで優しくて、少し厳しい。
よく昔話をしてくれて、正月や盆に集まった兄弟や従兄弟たちが、揃って話をせがみに詰めかけたものだ。
その昔話の中で、なぜか僕にだけ話してくれたものがあった。とても不思議で、少し悲しい話だった。
今から70年くらい前、まだ、爺ちゃんが幼い頃の話だ。
爺ちゃんの従姉妹の中に、爺ちゃんの家に病気の療養に来ていた人がいたそうだ。おっとりして優しい人で、やんちゃだった爺ちゃんを、とても可愛がってくれたらしい。
彼女は人が居ない時に、宙を見つめて囁く癖があった。誰かが来ると口を噤むが、時折、そっと寄って来た爺ちゃんに気付かず、誰もいない場所に話し掛けていたという。
ある日、気になって、爺ちゃんは彼女に聞いた。
「なにと、はなしてるの?」
彼女は、驚いて目をぱちくりさせてから、くすくす笑い、
「何だと思う?」
と逆に問い返した。
「…わかんない」
「お友達と話してるの」
「ここ、おれとねぇちゃんしか、いないよ?」
爺ちゃんが不思議そうにすると、
「文ちゃんには、まだ視えないかな。ちょっと待ってて」
彼女は言い置いて、押し入れの中から木箱を取り出した。木箱の中に、両手ほどの大きさのガラスの皿が、厚手の敷物に包まれて入っている。
ガラスの皿は透明だったが、ほんのり青味掛かっていた。
彼女はそれを取り出すと、皿の上面を爺ちゃんに向ける。ガラスの向こうが、厚みのせいで薄青く歪んで見えた。
ふと、彼女の肩に、小さな影が現れる。
爺ちゃんが、あ、と声を上げると、彼女はまた、くすくすと笑った。
「これ、文ちゃんにあげる。『小雫』っていうの。大事にしてね」
「ねぇちゃん、いいの?」
「良いよ。あたしは、それが無くても視えるから」
彼女は皿を箱に仕舞うと、爺ちゃんに持たせた。
爺ちゃんは、暇があれば、その皿を覗いて遊んだそうだ。
ガラスを通して視た世界は、不思議に満ちていたという。
そよぐ風の、流線系の形。
音楽を奏でる、豊かな音の色彩。
雨粒たちの、賑やかなお喋り。
誰かの背中にひっそり生えた、透明な羽根…。
特に、新月の日は、良く視えたそうだ。
でも、ある日を境に、ガラスを覗くのを止めたと言った。
ありがとうございました。
後編に続きます。
あと一息ですが、お付き合い、よろしくお願いしますm(_ _)m




