表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我輩は騎獣である  作者: KEITA
第四章
49/127

前半は別視点



「ぐッ、」

 低い呻きと共に、小さな身体が小さな家の壁に叩きつけられた。


「おいおい、殺すな。やっと見つけたドワーフの純粋種なんだから。また探し直すのは一苦労だ」

「そうだな。――なあ、お前。いい加減素直になれや」

 ずり、と壁伝いに崩れ落ちる彼に近づく、二つの影。

「素直に俺達について来いって言ってるんだよ。お前だって命が惜しいだろう」

「そうそう。意地張ったってなんにもならねえぜ?」

 二つの影は、どちらも彼と比べると上背があり、すらりと細身だ。そして何より、両耳が尖っていた。

「――……」

 息を整えつつ、彼は口の端に垂れた血を拭う。体躯こそ眼前の二人よりだいぶ小柄で、数の利も向こうにあった。しかし。

「聞いてるのか」

その瞳に敗北の色も降伏の意図も無い。ただ、理不尽な暴力を振るう相手を凛と見据える毅い光があった。

「おい、なんとか言えよ」

 男の片方が、苛立ったように声を荒げる。沈黙したままの彼が、あまりに堂々としていたから。絶体絶命の場面だというのに。

「おい、」

 彼の丸っこい唇から、声が洩れる。

「…る」

「は?」

「今なんつった?」

 聞こえなかったようなので、彼は大きい声で言い直した。


「断るってんだ。このクソったれエルフどもガ」



 記憶に残る、声がある。


『おいらたちも、滅びゆく種族なのかもなあ』


 寂しげな、父の声だ。


『エルフはあっちゅうまに減っちまった。エルフだけじゃねえ、ドワーフもそうだ。おいらの親戚も、爺ちゃんも。エルフに肩入れして、みぃんな死んじまった』


 父は声と同様の寂しげな顔で、遠くを見つめていた。


『おいらたちは、ひとりだけじゃ生きられない。だから、昔っからエルフとおいらたちは助け合って生きてきたんだ』


 寂しげな視線の先には、何が映っていたのだろう。


『でも、もうそういうのは流行らねえのかもなあ。……おいらたちドワーフは、』


 どうしようもない寂しさと哀しさを込め、息子に語りかける声。


『滅びゆく種族、なのかもなあ』


 そんな父も、ある日呆気なく死んでしまった。母に先立たれ、哀しみのあまり衰弱して。

 あの日から、年老いた祖父だけが唯一の家族となった。



 腹部が蹴りつけられる。瞬時に喉奥に溜まった血漿が、口から溢れた。

「がふッ」

 強靭な筋力で跳ね飛ばされた小さな身体が、地面にまた叩きつけられる。がどっという鈍い音。彼は受身の取り方など知らない。肩と背から不吉な音もした。何度も衝撃を受け、骨が折れてしまったらしい。

「いい気になるなよ、醜男がッ」

 彼を蹴り飛ばした男が、唾を飛ばしながら吐き棄てる。

「お前を保護してやるって言ってるんだよ。ドワーフは他妖精の助けがあってこそ生きてこられたんじゃねえか。あ? 俺らエルフが護ってやってたからこそ、お前らみたいなドン臭くて醜い一族が繁栄したんだろ」

「そうそう。黙ってついてくりゃいいんだよ。それで、俺らのために霊具作ってれば一生安泰だろうが」

 ぼろぼろになった彼を見下ろし、そう言い募る二人。見たところ、とても若い。かの一族の基準から言うと幼いと言っても良かった。おそらく、百歳も越えていないだろう。

「聞いてんのか、ああ!?」

 体格成長さえ低速だが、肉体自体は幼い頃から強靭で、身体能力も高い。それがエルフという種族だ。

 そして。

「…ろ」

「あん? 聞こえねえよッ」

 戦乱を知らず、一族の悔恨と戒律さえ知らされなかったものは、こうやって堕ちてゆくのだ。彼はつくづくそれを感じ取っていた。


「とっとと失せろ。おいらは死んでもお前らについていくつもりはないかラ」



 記憶に残る声は、もうひとつある。


『ロナは優秀な子だな。ちっさいのに、もう難しい霊具作れるようになった』


 穏やかに響く、祖父の声だ。


『この分だと、将来はドワーフきっての職人になるだろうなあ。おいらは本当に鼻が高い』


 祖父は、あんなに穏やかで優しいひとだったのに。


『……おいらはもうすぐ、いくさ場に行かなきゃならない。友達が大変なんだ。助けてやらなきゃな』


 どうして、穏やかに死ねなかったのか。


『心配するな、全部終わったら戻るから。けど、しばらく逢えなくなるからな。ロナ、それまでいい子にしてろよ。――それから、』


 あの日、祖父に手渡された数枚の紙。それを孫に託す眼差しと声はどこまでも優しく、穏やかだった。


『これ、預かっていてくれ。きっといつか役に立つから』


 穏やかだった。死地に向かうとは思えないほどに。


『ある霊具の設計図だ。親戚から分けてもらった複製だが、超古代ドワーフが作った「真具」の代物らしい。いざとなったら、これを売って生活の足しにしろよ』


 そうして、家族はすべていなくなった。



 血溜まりの中に、倒れ付す。もう身体中が動かない。


「おい、死んだんじゃねえか」

「やりすぎたか」


 聞こえる音も、声も虚ろだ。呼吸がしにくい。視界自体が、もうほぼ見えなくなっていた。何度も顔を殴られ蹴られたので、もしかしたら眼球が潰れているのかもしれない。


「ちっ、死んじまったのか。面倒くせえな」

「ああ。また探し直さなきゃいけないな」


 彼は突っ伏したまま、悟られないように内心で笑んだ。そうだ、そうやって去るがいい。

(お前らなんぞの言いなりになってたまるか)


「あーあ、いつになったら復興はなし得るのかね。……、」

「さあな。……、」


 声が、気配が、遠ざかってゆく。


「……」

 土埃と血臭の中で、安堵の息を洩らしながら。

 彼の意識も、徐々に遠ざかっていった。



 家族がいなくなってから。

 たった独りとなってから。

 祖父が遺しておいてくれたツテを頼り、人界の人間界隈で暮らした。ドワーフの純粋種であることを世間から隠し、ただの人間の振りをしながら細々と生活すること数十年。様々な出逢いと別れがあった。

 人間の寿命は妖精に比べて短い。出逢ったときは同年代だと思っていた輩が、気づけば自分より遥かに老いている。そして、あっという間に生涯を終えてゆく。人付き合いが苦手な性質だったので、物づくりの顧客以外で知り合いと呼べる存在は極わずかだ。しかしその分、親しくなった者に対しては格段に思い入れが強まる。知己がどんどんいなくなってゆくのはやはり哀しかった。

 かつての家族のように、大切なものは先に死んでゆく。そう気づいてからは、もう新しく親しい者を作るのをやめた。これ以上見知った命の終焉を経験するのは、正直耐え切れなかったからだ。

 小物から建物まで幅広く製作・修理や修復を生業とし、人里離れた場所に居を構え、ほぼ隠遁者のような生活を送ること更に数年。丁度百歳の誕生日を迎えた矢先のことだった。

 かの二人のエルフが棲家を訪れてきたのは。



『市民登録票は人間ということになってるが、お前はドワーフだろう』

 背の高い男は、そう確信めいた口調で切り出した。もうひとりも続けるように言う。

『しかも純粋種だな。やっと見つけたぜ』

 整った顔立ちと独特の雰囲気を持つ、歳若いものたちだった。そして、その耳は細く尖っている。

 エルフだ。まったく逢ったことが無いとは言わないが、だいぶ懐かしい姿であることに変わりない。まだ彼ら一族は生きていたのか。そして、どうしてここにいるのか。そして、なぜ自分の正体と棲家が知られたのかもわからない。

 同族ではないが、久しく見なかった妖精の一族。それに出逢えた嬉しさよりも、訝しみが勝った。彼らの表情も声も、懐かない猫を無理矢理撫でているかのような不自然さに満ちていたからだ。

『なあ、こんな僻地で苦労してんだろ? 俺らについて来いよ、楽させてやるから』

『その通り。かつてのエルフとドワーフの絆、それを取り戻そうじゃないか』

 突然の申し出だった。あまりに突然過ぎたし、彼らの持つ空気は優しげながら不気味だったので素直に頷けはしない。戸惑いのままに断ったら、彼らのそれまでの態度は激変したのだ。

『つべこべ言うな』

『お前は黙ってついてくればいいんだよ。怪我したくねえだろ?』

 いきなり掴み掛かられ、脅される。彼らが手にしていたのは、武器霊具だった。ドワーフの感覚が、危機を訴える。――武器系統の霊具を手にしている武人系のエルフは、本能を制御出来ない若者ほど危険だ。下手に逆らえば殺される。不承不承言う通りにしようと思った、その時。

 エルフの片方が、棲家に置いてあった製作途中の物品を見ながらこう洩らしたのだ。鼻で笑うように、心底馬鹿にした風情で。


『こんな僻地で、こんなチンケなもんばっか作って。俺らのとこにくればもっと有意義なもん作れるぜ』


 ドワーフの感覚が、その言葉を赦せなかった。


 抵抗した。

 彼らに滅茶苦茶に殴られようと、蹴られようと。命を、失おうと。

 抵抗しようと思った。かの言葉を聞いた直後、微塵も躊躇わずそう決意した。

(おいらの作ったもんをけなす奴は、おいらの敵だ)

 そのことが、本能に刻まれているから。



 エルフたちが去ってゆき、自分の我を通せたと確信したとき。

 身の内を満たしたのは身体的な傷の痛みより遥かに巨きい、精神的な満足であった。

(おいらは――ドワーフだ)

 そのことを証明できたから。

 例え人間の界隈で人間に溶け込み生活していようと、いつだって心に抱いていたもどかしさ。素性を隠し、真なる自分を偽って暮らす苦しみ。それが一気に解放され、解決されたのだ。今わの際に。

 自分が自分であることを、証明できた。

 だから満足だった。

(もう、思い残すことはねえ)

 本気でそう感じた。例え子孫を残すこと叶わず、真具を他者に託すことすら出来なかったとしても。 最後の最期で、ドワーフのドワーフたる意地を貫き通すことが出来たから。

 そして、意識を手放した。



「……、治せるか、リョク」

「……、うむ。両眼をなんとかすれば、」


 戻ってきた意識。そして、戻ってきた感覚。


「お、気が付いたみてえだな」

「うむ。妖精の匠どの、じっとしていろ。我輩らは敵でないゆえ」


 また、若い男の声だ。二人。しかし、自分に暴力を振るったあのエルフらのものではないようだ。

(……?)

 身体はまだ動かない。視界も回復していない。何が、起こっているのだろう。

(目が、熱い)

 ほぼ潰されて感覚を失っていたはずの眼球が。

「――ぁあッ!」

 熱い!


「うし、血は止まったな」

「騎者どの、彼の身体を押さえていてくれ。打撲と骨折の治癒に移る」

「おう」


 軽く、四肢が押さえられる感覚がした。そして全身に這う、温かい熱。熱が辿ったあとから、正常な皮膚感覚が戻ってきている。覚えがあった。これは、もしや。

(『癒しの霊力』か……?)

 うっすらと考えているうち、熱はじわじわと身体の内部に浸透していった。熱いともとれるまで浸み渡ったのち、折れていた骨の至る箇所が、繋ぎ合わされていくのがわかった。潰された内臓も、修復されていく。

(いてえ)

 壮絶な痛みが襲う。重傷であればあるほど、治癒の応えも凄まじいのだ。意識がある分、特にひどかった。

「ぅうあ、ぁああぁああッ!」

 耐え切れず、叫び声をあげる。四肢を押さえる腕の主らしき声が、耳元で励ましてきた。短い言葉だったが、暖かい声音だった。痛みと不安に暴れる相手に対し、心から安心させるようにしっかりと。


「がんばれ、もうちょいだから」


 その声に励まされ、なんとか治癒に耐えた。


「よし。――取り敢えず、目ぇ以外は全部終わったか」

「うむ」


 まだ視界は晴れない。眼球が殆ど役割を為していないのだ。けれど、全身はもうほぼ自由に動ける。痛みも殆ど無い。

(なんなんだ、一体)

 しかしまだ、現状把握がつかなかった。確かなことは、自分は一命をとりとめたのだということだけだ。

「お、い。どうなってる。あんたら、誰なんダ」

 礼を言う前に、不安が先立った。目が見えないし、さっきのさっきで警戒心が拭えない。声が違うだけで、目を開けたらそこに先ほどのエルフが立っていたとしたら、どうしよう。とてつもない恐怖だ。

「だ、誰なんだッ。あんたらもエルフか!? だったら失せロッ」


「あー……。そだなリョク、目ぇこの場で治せるか」

「うむ。ただ、本性に戻る必要があるな。人型では若干霊力を行使しにくいゆえ」

「ふーん。まあ、心配ねえと俺は思うぜ。ひと気無い一軒家だし」

「そうであるな」


 そういった会話ののち。熱がまた、両眼を通り抜ける。

「――完了したぞ」

「うし。ドワーフのおっさん、目ぇ開けてみ」

 視界が晴れた先にいたのは。


「お初にお目にかかる、妖精の匠どの。我が名はリョクだ」


 見たことも無いほど、美しい獣だった。恐怖も、警戒心も、ありとあらゆる負の感情が瞬時に霧散するほどの。

「――」

 回復したばかりの瞳を見開いて、呆気にとられる。なんだ、この生き物は。

「うぃっす。もうダイジョブそうだね」

 横合いからかかった声。視線を移せば、立っていたのはエルフではない、妖精でもない二本足の種族だった。

「俺はアルセイドってんだ。アルセイド=リラ=イヴァニシオン」

 暖かな声音。暖かな色彩――生命の息吹たる、緑色をした双眸。その身にはなんの特殊能力も備わっていないとわかる、中間的器たる生命体。ここ数十年馴染みのある、この世界で一番多い人型種。

 彼は、にぃっと白い歯を見せて笑んだ。かのエルフらのそれとは違う、心からのものだとわかるたぐいの微笑みだった。


「見ての通り、しがない人間だよ」


 安堵の余り、腰が抜けた。



『家宝を専属修復出来そうな者が見つかった』

 その情報を得たのは、つい先日のことである。

『中央大陸西北のアルカリーってゆう小国なんだけど。首都の端っこで、評判の道具屋がいるんだとさ。なんでもここ七十年ちょい、ずっと現役な職人さんで外見も老けないんだって。材料もってけば格安でなんでも作ってくれるうえに、修理やメンテナンスも進んでしてくれるナイスガイ。どう考えてもドワーフですありがとうございます的展開だな、うん』

 騎者どのはそう言って面白そうに白い歯を見せた。

『ドワーフってのは物づくりにすんげえ拘り持ってるからな。エルフみたく住処は散り散りになったけど、そういう関連の仕事に就いてる場合が多いんだ。だから割と見つけやすい』

『それはわかるが、騎者どの。肝心の家宝は複雑難儀な造りであるのだろう。滅多なことでは修復に責任が持てぬと聞いた。かのものは引き受けてくれるだろうか』

『ああ、それは大丈夫だと思う。なんせ、やっこさんはアレを持ってるみてえだからな』

『アレ?』

 首を傾げた我輩の眼前に差し出された、騎者どのの霊具。

『こいつの、設計図だよ』

『設計図』

『おうよ』

 家宝を見つめる緑眼は、確信していた。

『やっこさんは絶対、こいつの「砥ぎ師」になってくれる』



 騎者どのの祖父御、そのまた祖父御から受け継がれてきた、長剣。あまりに強力で、あまりに複雑なつくりのそれは、今や全世界においても貴重且つ稀少な武器霊具でもある。

 長老どのが存命であった時期、彼はその専属修復者を周到に確保していた。ドワーフは人間よりは長命とはいえ、エルフと比べると命数が短い。自らの命数が残り少なくなる前に技術を子や孫に託し、定期的な「砥ぎ師」となることで剣の切れ味を維持、外装が壊れた場合の修復を担ってきたらしい。そうして、イヴァニシオン家には代々ドワーフが入り浸ってきた。長老どのはそこから連なる繋がりをも確保、それを長期に渡り維持し、彼らが作った霊具を王宮に献上しては金銭利益を彼らに戻す橋渡し役割もこなしていた。つくづく感じるが、騎者どのの祖父御は出来た御仁である。

 そして、そういった地道な相互利益が、エルフとドワーフの古代から続く交流が一環なのだそうだ。

 ともあれ。

『こいつを製作した超古代のドワーフが、これまた周到なひとだったみたいでさ。子供や孫に技術を受け継がせておいたばかりか、その造りの仕組みを懇切丁寧に記録した設計図を遺しておいたみてえなんだ。で、それをいくつか複製コピーして親戚に配っておいたんだと。大部分が戦乱で焼かれちまったけど、一部無傷で保管されてた場合もあったんだ』

『もしや、』

『おうよ。そのうちのひとつが、今から行くドワーフの元にあるらしい。すんげえ偶然だよな。でもってすんげえ僥倖』

 これだけ出来すぎが重なると、こええくらいだよ。そう言ってやや複雑そうに口の端を上げる相棒。

 思った。

『……我輩は、運命という言葉は正直好かぬ。けれども、他に形容する言葉が見当たらない』

『……俺も、思ってたトコ』

 騎者と騎獣は揃って空を見上げる。待ち構えているものは一体なんだろうかと。

 それは、良いことばかりでない気がしたのだ。



 悪い予感は、時として当たってしまう。

 我輩らがかの妖精の元へ到着し、目にしたものは。

『……ッ!?』

『な、』


 血の海に満身創痍で転がっていた、小さな身体だった。


『リョク、近づくなよ! 俺が取り敢えず手当てを――』

『騎者どの。我輩なら大丈夫だ』

 人型と化した姿で、拳を握り締める。本性であったら一も二も無く気絶していたであろうが、この形体であるゆえ臭気に耐えられている。そのことを確信して。

 何より。

『騎者どのが傍にいれば、我輩は平気だ。癒しの霊力も行使出来るゆえ、任せるがいい』

『……そうか、頼む』

 そのことが、わかっているから。


◆ ◇ ◆


「改めて、礼を言っとく。ありがとナ」

「いいってことよ。こっちこそ家宝の『砥ぎ師』引き受けてくれてマジ感謝してるとこだから」

「うむ。それにしても、妖精どのは物づくりの名手であるな。茶器や食器、そして調度品から邸宅自体に至るまで、すべて自身の手で製作したとは。まさに匠と称するに相応しい御仁であられる」

「んだんだ。首都でも評判なんだぜー、ドヴェルグ印の良識家具ってな」

「……よ、よせやい。わざとらしく褒めたってなにも出ねえゾ」


 そう言いつつ、いそいそと茶菓子を追加してくれる辺り、わかりやすい御仁のようだ。感情が駄々漏れな辺り、どこかの天使を思い出す。彼らを引き合わせたら、きっと仲良くなれるだろう。

 ロナルド=B=ドヴェルグ。家宝の新たな「修復者」どのである。そして、刃の専属「砥ぎ師」だ。小柄で肉厚な容貌、濃い体毛といった見た目はまさにドワーフそのものだ。そして固有名には亡き妖精の知己と共通の響きがあることに気づいた。実際、彼の遠縁に当たる人物だったらしい。

「ジャスティンってのはおいらの曾爺さんの兄の名だよ。戦乱の合間、一緒に人界から避難しようって誘ったみてえだが、曾爺さんは断ったんだと。友達になったエルフやら人間やらを見捨てられねえからっテ」

 そういえば、かの老妖精も思い出話として同じことを語っていた。それをうっすらと思い起こし、懐かしい心地となる。天使の我が友は、彼の「真具」を大切に扱っているだろうか。

「そっか。おもしれーもんだな。色んなトコで、色んな繋がりがあってさ」

 騎者どのは、緑眼と声音にそっと感慨を載せた。

「あんまり偶然が重なると、怖いけど。でも、立ち止まっててもしゃーないからな。良い方向に進んでるってんなら、流されてみるのもアリだな」

「そうであるな」

「一理有りだと、おいらも思ウ」

 物づくりの匠は、研ぎ終わったばかりの長剣を見つめた。今は持ち主の腰に戻っている、伝説級の武器霊具を。

「おいらに出来るのは、限られてるから。出来ることを、するだけダ」

 先が見えぬ暗闇であっても、己に出来ることを、出来る限り実行する。

 それが、今のところ可能な唯一の決意だろう。

「――にしてもさ、ロナルドはどしてあんな状態になってたん? 喧嘩かなんか??」

 我輩としても気になっていた修復者どのの大怪我。その理由を問う騎者どのに、彼は苦い顔をして答えた。

「わかんねえ。でも、あいつらは言ってタ」

 彼に重傷を負わせたエルフが去り際に洩らした、言葉。


『いつになったら復興はなし得るのかね』


「復興……? どーいう意味だ」

「さア」

「……」

 考えても、答えは見えない。けれど、記憶の底に眠るかの惨劇と、あまりに重なる部分が多い。そのことが、我輩の胸中に楔として残った。

(ついてこい、と誘われ。断りを入れたら、理不尽な激昂に遭い、重傷を負わされる。しかも相手は、エルフの若者。――まるで、我が群れに起きた事象のようではないか)

なぜであろうか。

 先に待ち受ける暗闇の正体が、もうすぐわかりそうな気がするのは。




ロナルド=B=ドヴェルグ(ロナ)・・・アルセイドは「おっさん」呼ばわりしてるけど、年代的にはそれほど歳食ってないドワーフ。二十~三十路程度。彼の語尾がカタコトっぽいのは、彼自身喋るのが得意じゃないから。照れ屋で頑固、朴訥で真面目、まさにドワーフですありがとうございます的なひと。本人は人間に紛れて生活出来てるって思ってたけど、実際はバレバレでした。亡き人間の友らにも、生暖かい目で見守られてたっぽい。

ちなみに、彼もちゃんと「真具」を製作中。


そしてリョクが彼の大怪我を治せたのは、彼が身体の丈夫な妖精だったっていうせいもあるけど、アルセイドと長時間一緒にいることで霊力行使能力が腕の良い霊法師並みにスキルアップしていたお陰でもあります。騎者と騎獣ってのははそういうものなのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ