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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第98話 黒星の断罪――神すら恐れる公爵令息の怒り

第98話 黒星の断罪――神すら恐れる公爵令息の怒り


王国暦八二一年、秋月二十四日。


王立アストレア学園、第五演習区域。


地下遺跡最深部。


――静寂。


それが、最初に訪れた異変だった。


先ほどまで地下遺跡を震わせていた魔力の轟音が、完全に消えていた。


崩落しかけた天井。


赤黒い光を放つ魔導装置。


そして、傷ついた二人の家族。


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、そのすべてを見つめていた。


シャル姉。


ルシウス。


二人とも、まだ意識が戻らない。


リゼットが治癒術式の補助を続け、カイルが周囲を警戒している。


……許さない。


胸の奥で、怒りが燃えていた。


だが、不思議と頭は冷えている。


今ここで感情に任せて力を放てば、二人まで巻き込んでしまう。


それだけは、絶対にできない。


「……カイル」


俺は、静かに声をかけた。


「何だ?」


親友の声が、わずかに震えていた。


「二人を頼む」


「……ああ」


「リゼット。治癒の邪魔をしている赤黒い魔力、あとどれくらいで除去できる?」


「……完全には難しいわ」


彼女は、唇を噛んだ。


「でも、進行は抑えられている」


「……分かった」


俺は、頷いた。


そして。


ゆっくりと、魔導装置へ向き直った。


その瞬間。


背後に浮かぶ黒い星が、静かに回転を始めた。


《黒星解放》。


七つの魔法陣が、俺の周囲へ現れる。


火。


水。


風。


土。


雷。


光。


闇。


そして、その中心に流れる《無限神力》。


……まずは、すべての魔力を把握する。


俺は、右手を上げた。


「《神光・創世聖柱》」


黄金の光が、地下遺跡全体へ広がる。


だが、今回は攻撃ではない。


魔力の流れを可視化するための光。


次の瞬間。


無数の赤黒い魔力線が、空中に浮かび上がった。


「……なるほど」


俺は、目を細めた。


魔導装置は、一つではない。


森林区域。


岩山区域。


地下区域。


三つの装置が、互いに魔力を送り合っている。


しかも。


その中心には、古い封印術式。


……これが、俺の神力を妨害していたのか。


俺は、静かに息を吐いた。


「……面白い仕組みだな」


だが。


そんなものは、関係ない。


俺の家族を傷つけた時点で。


この装置は、必ず止める。


     ◇


俺は、左手を上げた。


「《神闇・深淵葬界》」


黒い魔法陣が、足元に広がる。


次の瞬間。


赤黒い魔力が、ゆっくりと闇の中へ吸い込まれ始めた。


「……っ!?」


リゼットが、目を見開く。


「レオン……何をしているの!?」


「暴走している魔力を、外へ漏らさないようにしてる」


「……そんなことが……」


「できる」


俺は、静かに答えた。


「ただし、これだけじゃ足りない」


魔導装置の内部には、まだ膨大な魔力が残っている。


無理に吸収すれば、装置が崩壊する。


だから。


「《神地・不滅城塞》」


地面から、黄金の紋様を帯びた岩壁が立ち上がる。


魔導装置を囲み、外部への衝撃を遮断する。


さらに。


「《神海・蒼天奔流》」


青い魔法陣が輝いた。


水属性の神魔法が、装置内部の魔力循環を冷却する。


……よし。


暴走の速度が、落ちた。


だが。


次の瞬間。


魔導装置の中心が、激しく輝いた。


『――継承者』


……っ!?


俺は、目を見開いた。


……今の声。


どこかで、聞いたことがある。


『――黒星の継承者』


……まさか。


古代の敵。


ルシアン・セレスティス。


かつて、俺が封印した存在。


その声に、似ている。


だが。


これは、本人ではない。


魔導装置に残された、古い記録のようなものだ。


『――七つの星が、再び目覚める』


……。


俺は、静かに目を細めた。


「……黙れ」


その瞬間。


黒い星が、強く輝いた。


「俺は、今……」


俺は、低く呟いた。


「お前の話を聞く気分じゃない」


次の瞬間。


七つの魔法陣が、一斉に回転を始めた。


「《七彩神星陣》!」


七色の光が、地下遺跡全体を包み込む。


火が魔力の過剰反応を抑え、水が流れを整える。


風が循環を制御し、土が構造を固定する。


雷が暴走した回路を分離し、光が正常な術式を修復する。


そして闇が、余剰魔力を吸収する。


七属性。


完全同時制御。


さらに。


《無限神力》。


俺は、静かに右手を握った。


「……止まれ」


その瞬間。


魔導装置の回転が、完全に停止した。


……よし。


だが。


まだ、終わりじゃない。


     ◇


装置の奥。


そこには、小さな黒い結晶が埋め込まれていた。


……これが、封印術式の核か。


俺は、ゆっくりと歩み寄った。


そして。


右手を上げる。


「《神雷・天罰轟雷》」


黄金の雷が、指先に集まる。


だが、放たない。


雷を、極限まで圧縮する。


……一点だけ。


俺は、静かに呟いた。


「……砕けろ」


次の瞬間。


シュンッ。


細い雷光が、結晶を貫いた。


バキィン!


黒い結晶が、粉々に砕け散る。


その瞬間。


地下遺跡を覆っていた赤黒い魔力が、完全に消えた。


……終わった。


俺は、静かに息を吐いた。


だが。


胸の奥の怒りは、消えていない。


むしろ。


これからだ。


……誰が、こんな装置を仕掛けた。


誰が、安全制御を外した。


そして。


誰が、シャル姉とルシウスを傷つけた。


すべて、明らかにしてやる。


     ◇


「……レオン!」


背後から、カイルの声が響いた。


俺は、振り向いた。


「……どうした?」


「二人の容体が、少し落ち着いた!」


……っ!


俺は、すぐに駆け寄った。


シャルロットは、まだ意識が朦朧としている。


だが、呼吸は安定していた。


ルシウスも、かすかに目を開けている。


「……兄……様……」


「……ルシウス!」


俺は、少年の手を握った。


「……よかった」


ルシウスは、弱々しく笑った。


「……僕……役に……立てましたか……?」


……。


俺は、思わず唇を噛んだ。


「……当たり前だろ」


震える声で答えた。


「お前が、みんなを守ったんだ」


「……よかった……」


少年は、安心したように目を閉じた。


その隣で。


「……レオン……」


シャルロットが、かすかに声を上げた。


「……シャル姉!」


俺は、彼女の手を握った。


「……ごめん」


彼女が、弱々しく呟いた。


「……守れなくて……」


「……違う」


俺は、首を振った。


「シャル姉は、ルシウスを守ってくれた」


「……でも……」


「ありがとう」


俺は、真っ直ぐに彼女を見つめた。


「本当に、ありがとう」


その瞬間。


シャルロットの瞳から、一筋の涙が零れた。


「……レオン……」


俺は、そっと彼女の手を握り直した。


……絶対に。


二人を、守り抜く。


     ◇


同じ頃。


白鷹館。


「……装置が、停止した?」


ユリウス・ファルケンハインが、報告書を見つめていた。


グレゴールが、険しい顔で頷く。


「……ああ」


「……負傷者は?」


「……シャルロットとルシウスが、重傷らしい」


……沈黙。


ユリウスの笑顔が、消えた。


「……重傷?」


「……ああ」


「……誰が、そんなことをした?」


グレゴールが、唇を噛んだ。


「……アルベルトが、勝手に魔導装置を起動した」


ユリウスは、しばらく黙っていた。


そして。


「……なるほど」


静かに呟いた。


「……最悪だね」


クラリッサが、顔を青ざめさせた。


「……ユリウス様」


「……何だい?」


「……これは、もう演習の問題ではありません」


「……分かっている」


ユリウスは、静かに答えた。


「……王国を揺るがす事件になる」


その声には、初めて焦りが滲んでいた。


     ◇


地下遺跡。


俺は、二人のそばに座っていた。


そのとき。


遠くから、複数の強大な魔力反応が近づいてきた。


……この魔力。


俺は、顔を上げた。


そして。


静かに呟いた。


「……父上たちだ」


その瞬間。


地下遺跡の入口に、四つの影が現れた。


黒獅子。


銀月の魔女。


黒狼。


白銀の女帝。


王国最強の一族を支える四人。


そして。


彼らの目に映ったのは。


血に染まったシャルロットとルシウス。


その傍らで、二人の手を握る俺の姿だった。



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