第95話 地下遺跡の異変――蒼風の剣姫、五彩の神童を守る
第95話 地下遺跡の異変――蒼風の剣姫、五彩の神童を守る
王国暦八二一年、秋月二十四日。
王立アストレア学園。
第五演習区域。
地下遺跡。
「……全員、下がってください!」
ルシウス・シルヴェインが、叫んだ。
足元の魔法陣が、赤黒い光を放っている。
その中心から、異様な魔力が噴き出していた。
「ルシウス! 何だ、これ!?」
中等部の仲間が、声を上げる。
「分かりません!」
ルシウスは、両手を広げた。
「ですが、通常の演習用術式ではありません!」
次の瞬間。
通路の奥から、巨大な影が現れた。
「グオオオオオッ!」
漆黒の魔獣。
鋭い牙。
赤く光る瞳。
そして。
身体を覆う、不気味な魔力。
「……っ!」
ルシウスが、息を呑んだ。
……本物だ。
これは、模擬魔獣じゃない。
「全員、退避してください!」
少年が、叫ぶ。
だが。
魔獣は、すでに動いていた。
巨大な爪が、仲間たちへ振り下ろされる。
「……危ない!」
ルシウスは、両手を上げた。
「《土壁封陣》!」
地面から、巨大な岩壁が立ち上がる。
ドゴォン!
魔獣の爪が、岩壁へ激突した。
「……っ!」
衝撃が、腕へ伝わる。
……重い!
だが。
ここで退くわけにはいかない。
「《雷炎槍》!」
雷と炎を纏った槍が、魔獣へ放たれた。
ドォン!
魔獣の肩が、吹き飛ぶ。
しかし。
「……っ!?」
傷口から、黒い魔力が噴き出した。
そして。
瞬く間に、再生していく。
「……再生!?」
ルシウスが、目を見開いた。
……まずい。
普通の魔獣じゃない。
少年は、歯を食いしばった。
「……それでも!」
五つの魔法陣が、周囲に浮かび上がる。
「《五彩連環》!」
五色の魔力が、巨大な輪となって回転した。
火が攻撃を担い、水が魔力を整える。
風が速度を与え、土が防御を支える。
雷が、すべてを貫く。
「《五彩連環・雷炎破》!」
巨大な雷炎の槍が、魔獣の胸部へ突き刺さった。
ドォォン!
魔獣の巨体が、後方へ吹き飛ぶ。
「……やった!」
仲間が、叫んだ。
だが。
次の瞬間。
魔獣の身体が、再び動いた。
「……嘘だろ」
ルシウスが、呟いた。
……まだ、倒れない。
◇
同じ頃。
岩山区域。
「……何かしら?」
シャルロット・ヴァルディスが、突然足を止めた。
蒼い瞳が、鋭くなる。
……この魔力。
普通じゃない。
彼女は、すぐに周囲を見渡した。
「全員、警戒して!」
仲間たちが、驚いたように振り向く。
「シャルロット先輩?」
「地下区域から、異常な魔力反応があるわ!」
「……地下区域?」
「ええ!」
その瞬間。
遠くから、低い爆発音が響いた。
ドォォン!
シャルロットの表情が変わる。
……ルシウス!
彼女は、即座に剣を抜いた。
「私は、地下区域へ向かうわ!」
「……え!?」
仲間が、驚いたように叫ぶ。
「でも、演習は……!」
「そんなことを言っている場合じゃない!」
シャルロットの声が、鋭く響いた。
「本物の魔獣が出ている可能性があるのよ!」
彼女は、地面を蹴った。
「《天翔瞬歩》!」
蒼い風が、身体を包み込む。
次の瞬間。
その姿が、岩山の向こうへ消えた。
◇
森林区域。
「……っ!?」
俺――レオンハルト・ヴァルディスは、突然足を止めた。
「レオン?」
カイルが、振り向く。
「どうした?」
……この魔力。
俺は、眉をひそめた。
遠く離れた地下区域から、異様な魔力反応が伝わってくる。
しかも。
……ルシウスの魔力も、そこにある。
「……まずい」
俺は、静かに呟いた。
「地下区域で、何か起きてる」
リゼットが、すぐに解析魔法を展開した。
「《魔力残響解析》!」
紫色の魔法陣が、空中に広がる。
「……っ!」
彼女の表情が、険しくなる。
「……本物の魔獣反応!?」
「……やっぱりか」
俺は、静かに頷いた。
カイルが、剣を握った。
「……行くぞ!」
「……ああ」
俺は、右手を上げた。
「《神風・天穹裂刃》」
黄金の風が、周囲を包み込む。
風の流れを変え、身体を加速させる。
「カイル! リゼット!」
「おう!」
「分かった!」
俺たちは、地下区域へ向けて駆け出した。
……待ってろ。
ルシウス。
シャル姉。
絶対に、間に合わせる。
◇
地下区域。
「……くっ!」
ルシウスが、膝をついた。
魔力の消耗が、激しい。
だが。
魔獣は、まだ倒れない。
「グオオオオッ!」
巨大な爪が、再び振り下ろされる。
「……っ!」
少年は、両手を上げた。
「《風水結界》!」
風と水の結界が、仲間たちを包み込む。
ドゴォン!
衝撃が、結界を揺らした。
……重い!
ルシウスの額に、汗が浮かぶ。
「……みんな!」
少年は、叫んだ。
「先に逃げてください!」
「……でも、ルシウス!」
「僕は、大丈夫です!」
……嘘だ。
本当は、かなり苦しい。
だが。
ここで逃げれば、仲間が危険に晒される。
……兄様なら。
レオン兄様なら、どうする?
その瞬間。
少年は、拳を握った。
……そうだ。
兄様なら、絶対に諦めない。
「……僕だって!」
ルシウスが、立ち上がる。
「シルヴェイン家の人間です!」
五つの魔法陣が、再び輝いた。
「《五彩連環》!」
だが。
その瞬間。
魔獣の背後から、赤黒い魔力が噴き出した。
「……っ!?」
巨大な尾が、ルシウスへ迫る。
……間に合わない!
そう思った、そのとき。
「《蒼嵐一閃》!」
蒼い斬撃が、通路を駆け抜けた。
ズバァン!
魔獣の尾が、切り裂かれる。
「……っ!?」
ルシウスが、目を見開いた。
「……シャルロット姉様!?」
そこには。
蒼い風を纏った少女が立っていた。
シャルロット・ヴァルディス。
《蒼風の剣姫》。
彼女は、静かに剣を構えた。
「……ルシウス」
「……はい!」
「よく、頑張ったわね」
その声は、優しかった。
だが。
次の瞬間。
彼女の瞳が、鋭くなる。
「……ここからは、私も戦うわ」
◇
「グオオオオッ!」
魔獣が、咆哮した。
シャルロットは、静かに息を吸った。
「《風刃乱舞》!」
無数の風の刃が、魔獣へ降り注ぐ。
ズバババッ!
魔獣の身体が、切り裂かれる。
だが。
再生する。
「……再生能力」
シャルロットが、眉をひそめた。
「厄介ね」
ルシウスが、駆け寄った。
「姉様! この魔獣、普通の攻撃では倒せません!」
「……分かったわ」
シャルロットは、頷いた。
「なら、再生する前に封じるしかない」
「……はい!」
二人は、同時に構えた。
「《五彩連環》!」
ルシウスの五属性魔法が、魔獣を包み込む。
「《蒼嵐一閃》!」
シャルロットの蒼い斬撃が、魔獣の胸部を切り裂く。
ドォォン!
魔獣の巨体が、後方へ吹き飛んだ。
そして。
「《土壁封陣》!」
ルシウスが、地面へ手を向ける。
巨大な岩壁が、魔獣を囲んだ。
「……よし!」
シャルロットが、頷いた。
「これで、しばらく動けないはず――」
その瞬間。
赤黒い光が、岩壁の隙間から漏れ出した。
「……っ!?」
二人が、同時に振り向く。
……何?
次の瞬間。
ドォォォォン!
巨大な爆発が、地下区域を揺らした。
岩壁が、粉砕される。
「……っ!」
シャルロットが、咄嗟にルシウスを抱き寄せた。
「ルシウス!」
「……姉様!?」
彼女は、剣を構えた。
「《風壁》!」
蒼い風の結界が、二人を包み込む。
だが。
衝撃は、想像以上だった。
バキィン!
結界に、亀裂が走る。
「……っ!」
シャルロットが、歯を食いしばった。
……このままじゃ。
二人とも、危ない。
だが。
その瞬間。
「《神銀・絶対領域》!」
七色の光が、地下区域を包み込んだ。
次の瞬間。
爆発の衝撃が、完全に遮断された。
「……っ!?」
シャルロットが、目を見開く。
「……この魔法は」
ルシウスも、顔を上げた。
「……兄様!?」
通路の奥。
そこには。
黒い髪を揺らし、七色の魔法陣を背負った少年が立っていた。
レオンハルト・ヴァルディス。
俺は、静かに剣を抜いた。
「……二人とも」
俺は、真っ直ぐに二人を見つめた。
「怪我はないか?」
シャルロットが、頷いた。
「……ええ」
ルシウスも、頷く。
「……大丈夫です!」
……よかった。
俺は、静かに息を吐いた。
そして。
目の前の魔獣を見つめた。
……なるほど。
こいつが、原因か。
俺は、右手を上げた。
七つの魔法陣が、ゆっくりと回転する。
火。
水。
風。
土。
雷。
光。
闇。
「……さて」
俺は、静かに呟いた。
「ここからは、俺が相手をしよう」
魔獣が、咆哮する。
「グオオオオッ!」
俺は、剣を構えた。
そして。
「《七彩神星陣》」
七色の魔法陣が、地下区域を包み込んだ。
その中心に、小さな黒い星が浮かび上がる。
……絶対に。
二人には、指一本触れさせない。
その決意と共に。
俺は、一歩前へ踏み出した。




