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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第92話 魔力に刻まれた嘘――消えた記録を追う七属性の瞳

第92話 魔力に刻まれた嘘――消えた記録を追う七属性の瞳


王国暦八二一年、秋月二十二日。


王立アストレア学園。


朝の空気は、どこか重かった。


特別交流演習で発生した魔導障壁の異常。


そして、消失した術式記録。


その話題は、すでに高等部だけでなく、中等部にも広がっていた。


「なあ、レオン」


教室へ入るなり、カイル・アッシュフォードが声をかけてきた。


「昨日の件、どうなった?」


「まだ調査中だよ」


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、鞄を机へ置いた。


「ただ、少し進展はあったらしい」


「進展?」


「リゼットが、魔導結晶に残った魔力を調べてる」


カイルは、眉をひそめた。


「……また、誰かが細工したってことか?」


「可能性はある」


俺は、静かに答えた。


「でも、まだ断定はできない」


「……お前、相変わらず慎重だな」


「前の事件で、証拠の大切さは嫌というほど学んだからな」


そう答えると、カイルは少し黙った。


先日の偽造記録事件。


リゼットが疑われ、俺も不当に巻き込まれた。


あのとき、父上たちは学園へ乗り込み、王国教育評議会まで動く騒ぎになった。


だが、俺が一番強く感じたのは別のことだ。


疑いだけで人を裁けば、誰かが必ず傷つく。


だから。


今回こそ、確かな証拠を掴みたい。


「……それに」


俺は、窓の外を見た。


「今回は、ルシウスが巻き込まれてるからな」


カイルの表情が変わった。


「……ああ」


「絶対に、うやむやにはしたくない」


俺は、静かに拳を握った。


     ◇


昼休み。


魔導研究棟・第二解析室。


「……来たわね、レオン」


リゼット・クローディアが、机の前から振り向いた。


紫色の髪を後ろでまとめ、眼鏡型の魔力測定器を装着している。


その隣には、生徒会長フィオナ・エルグランデ。


さらに、セレスティアとシャルロットもいた。


「みんな、集まってたのか」


「当然でしょう?」


シャルロットが、腕を組んだ。


「ルシウスのことだもの」


セレスティアも、頷く。


「私も、王女として見過ごせないわ」


フィオナが、少し笑った。


「頼もしいわね。でも、今日は感情より分析を優先しましょう」


「……はい」


シャルロットが、少しだけ頬を赤くした。


俺は、机の上を見た。


そこには、演習で使用された魔導結晶の破片が置かれている。


「これが?」


「ええ」


リゼットが、頷いた。


「異常反応を起こした障壁の制御結晶よ」


「……なるほど」


俺は、結晶を見つめた。


表面には、細かな亀裂が走っている。


そして。


微弱な魔力が、内部で不規則に揺れていた。


「……妙だな」


「分かる?」


リゼットが、少し驚いたように尋ねる。


「ああ」


俺は、結晶へ手をかざした。


「魔力の流れが、途中で二つに分かれている」


「……っ!」


リゼットの瞳が輝いた。


「そうなの!」


彼女は、資料を広げた。


「本来、この障壁は三重構造だったの。外側が防御、中間が魔力循環、内側が安全停止」


「……うん」


「でも、異常が起きたとき、安全停止の術式だけが別の魔力回路へ接続されていた」


俺は、眉をひそめた。


「……つまり?」


「誰かが、安全停止を迂回する回路を作った可能性がある」


沈黙。


セレスティアが、静かに口を開いた。


「……故障ではなく?」


「故障でも似た現象は起きるわ。でも、ここまで整った回路が偶然形成される可能性は低い」


……なるほど。


俺は、結晶を見つめた。


「リゼット」


「何?」


「少し、俺にも調べさせてくれ」


「もちろん」


俺は、右手を上げた。


まずは、光属性。


「《聖光天柱》」


ただし、今回は攻撃ではない。


光の魔力を極限まで細く絞り、結晶内部を照らす。


次に、水属性。


「《蒼海激流》」


微細な水の魔力を流し込み、結晶内の魔力循環を可視化する。


さらに、雷属性。


「《紫電迅雷》」


ごく弱い電流を流し、断絶した回路の位置を探る。


三属性の複合解析。


その様子を見て、リゼットが息を呑んだ。


「……すごい」


「まだだ」


俺は、静かに答えた。


そして。


光属性の魔力へ、ほんのわずかに神力を流し込んだ。


「《神光・創世聖柱》」


瞬間。


結晶の内部が、黄金の光で満たされた。


だが、破壊はしない。


神力を、修復と解析だけに使う。


……見えた。


俺は、目を細めた。


結晶の奥。


通常の魔力回路とは異なる、細い痕跡。


まるで、誰かが意図的に隠したような回路。


「……これだ」


俺は、指先で空中へ魔法陣を描いた。


結晶内部の構造が、立体映像として浮かび上がる。


「……っ!?」


リゼットが、身を乗り出した。


「レオン! そこ!」


「……ああ」


俺は、頷いた。


「安全停止の術式が、別の回路へ接続されてる」


フィオナの表情が、険しくなった。


「……つまり」


「少なくとも、単純な記録装置の故障だけでは説明しにくいわね」


リゼットが、静かに答えた。


そして。


彼女は、立体映像の一部を拡大した。


そこには、極めて小さな魔力署名が残っていた。


「……これは?」


シャルロットが、尋ねる。


「術式を書き換えた人物の魔力痕跡……かもしれない」


リゼットが、息を呑んだ。


「でも、薄すぎる。個人の特定まではできないわ」


俺は、静かに頷いた。


「なら、まずは記録として保存しよう」


「ええ」


リゼットは、すぐに複写魔法を展開した。


紫色の光が、立体映像を記録結晶へ転写する。


……よし。


これで、少なくとも証拠の一部は残せた。


     ◇


同じ頃。


高等部三年生談話室。


「……魔力痕跡を復元した?」


グレゴール・ハインツが、眉をひそめた。


ユリウス・ファルケンハインは、静かに報告書を読んでいた。


「……なるほど」


「どうする?」


グレゴールが、低い声で尋ねる。


「このままだと、面倒なことになるぞ」


ユリウスは、穏やかに微笑んだ。


「慌てる必要はないよ」


「……何?」


「彼らが見つけたのは、術式改変の痕跡だけだ」


「……ああ」


「誰が行ったのか、まだ分からない」


ユリウスは、書類を閉じた。


「なら、今は静観すべきだ」


グレゴールは、不満そうに舌打ちした。


「……本当に、それでいいのか?」


「もちろん」


そのとき。


扉が、開いた。


「……ユリウス先輩」


入ってきたのは、アルベルト・レイフォードだった。


金色の髪。


鋭い瞳。


そして、隠しきれない苛立ち。


「話がある」


ユリウスは、微笑んだ。


「どうしたんだい、アルベルト君?」


「……レオンハルトのことだ」


「ほう」


アルベルトは、拳を握った。


「僕は、あいつに勝ちたい」


「……うん」


「なのに、最近はあいつの家族まで持ち上げられている」


ユリウスの瞳が、わずかに細くなった。


「……家族?」


「シャルロットも、ルシウスもだ!」


アルベルトは、吐き捨てるように言った。


「どいつもこいつも、ヴァルディス家だからって特別扱いされている!」


グレゴールが、鼻で笑った。


「……実力もあるようだがな」


「黙れ!」


アルベルトが、睨みつける。


ユリウスは、静かに片手を上げた。


「落ち着きたまえ」


「……っ!」


「君の気持ちは分かるよ」


ユリウスは、優しく微笑んだ。


「努力しても、誰かの影に隠れてしまう苦しさはね」


その言葉に、アルベルトの表情が少し緩んだ。


「……なら」


「ただし」


ユリウスの声が、少し低くなった。


「感情だけで動いてはいけない」


「……何?」


「君が勝ちたいのは、レオンハルト本人だろう?」


「……ああ」


「なら、彼の家族へ無意味に敵意を向けるべきではない」


アルベルトは、唇を噛んだ。


「……分かっている」


だが。


その瞳には、納得しきれない光が残っていた。


ユリウスは、それを見逃さなかった。


……危ういな。


彼は、心の中で呟いた。


アルベルトの嫉妬は、使い道を誤れば、自分たちにまで牙を剥く。


しかし。


同時に。


それは、非常に強い動機にもなる。


「……アルベルト君」


「……何だ?」


「君には、次の演習で重要な役割を任せたい」


アルベルトが、顔を上げた。


「……重要な役割?」


ユリウスは、静かに微笑んだ。


「君自身の実力を示す機会だよ」


     ◇


放課後。


学園の中庭。


「レオン!」


シャルロットが、俺を呼び止めた。


「シャル姉?」


彼女は、少し真剣な顔をしていた。


「今日の解析、すごかったわね」


「いや、リゼットのおかげだよ」


「それでも、あなたがいなければ見つからなかった痕跡でしょう?」


「……まあ、そうかもしれないけど」


俺は、少し照れくさくなった。


シャルロットは、ふっと微笑んだ。


「本当に、あなたはすごいわ」


「シャル姉だって、すごいだろ」


「……え?」


「昨日の演習でも、ルシウスを守ってくれた」


俺は、真っ直ぐに彼女を見つめた。


「ありがとう」


その瞬間。


シャルロットの頬が、赤く染まった。


「……っ!」


「……シャル姉?」


「……もう!」


彼女は、そっぽを向いた。


「そういうことを、何でもない顔で言わないで!」


……また怒られた。


本当に、何でだ?


そのとき。


「レオン兄様ぁぁぁ!」


ルシウスが、駆け寄ってきた。


「ルシウス?」


「今日、中等部の先生に褒められました!」


「おお!」


俺は、笑った。


「何を?」


「《五彩連環》の制御です!」


少年は、嬉しそうに拳を握った。


「兄様に教えてもらった通り、雷の発動を少し遅らせたら、魔力効率が上がったんです!」


「本当か!」


「はい!」


俺は、思わずルシウスの頭を撫でた。


「すごいじゃないか!」


「えへへ……!」


その様子を見て、シャルロットも微笑んだ。


……こういう時間が、好きだ。


何でもない会話。


家族の成長。


そして、笑顔。


俺は、心の中で思った。


……絶対に、守りたい。


この時間を。


この笑顔を。


     ◇


夜。


白鷹館。


ユリウスは、一人で書類を見つめていた。


『学園合同競技会・特別交流演習』


『追加課題案』


『安全管理規程』


そして。


『ヴァルディス家関係者一覧』


「……家族、か」


彼は、小さく呟いた。


レオンハルト・ヴァルディス。


シャルロット・ヴァルディス。


ルシウス・シルヴェイン。


さらに。


黒獅子アルフォンス。


銀月の魔女エレオノーラ。


黒狼レオナード。


白銀の女帝イザベラ。


……恐ろしい一族だ。


ユリウスは、静かに笑った。


「だからこそ、慎重に扱わなければならない」


彼は、書類を閉じた。


そして。


窓の外へ視線を向ける。


「……だが」


その灰色の瞳が、冷たく光った。


「強い絆ほど、揺さぶる価値がある」



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