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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第90話 特別交流演習――蒼風の剣姫と五彩の神童

第90話 特別交流演習――蒼風の剣姫と五彩の神童


王国暦八二一年、秋月二十日。


王立アストレア学園。


朝の教室に入ると、カイルが珍しく真剣な顔で待っていた。


「レオン。ちょっと見てくれ」


「どうした?」


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、差し出された紙を受け取った。


『学園合同競技会・特別交流演習』


高等部と中等部の代表候補による合同訓練。


剣術、魔法、戦術、救助の四項目を組み合わせた実践形式の演習。


そして、参加者の欄には――。


レオンハルト・ヴァルディス。


シャルロット・ヴァルディス。


ルシウス・シルヴェイン。


「……なるほど」


俺は、紙を見つめた。


「家族三人が同じ演習に参加するのか」


「そこじゃねえよ!」


カイルが、机を叩いた。


「何でこんな都合よく、お前の親戚ばっかり選ばれてるんだ!?」


「……確かに」


偶然にしては、出来すぎている。


しかも。


運営責任者。


ユリウス・ファルケンハイン。


……また、あの人か。


「レオン」


リゼットが、隣に立った。


「今回の演習、少し気になる点があるわ」


「何だ?」


「通常の合同訓練なら、学年ごとに安全基準が設定されるの」


「……うん」


「でも、今回の規程では、高等部と中等部で同じ評価基準が適用されることになっている」


俺は、眉をひそめた。


「……中等部にも?」


「ええ」


「それは、おかしいな」


ルシウスは、確かに強い。


五属性を扱う天才だ。


だが、まだ十三歳。


高等部の上級生と同じ条件で戦わせるなら、相応の安全管理が必要なはずだ。


「……確認しよう」


俺は、紙を折り畳んだ。


「まずは、運営委員会に話を聞く」


     ◇


昼休み。


生徒会室。


「……やっぱり、そう来たのね」


フィオナ・エルグランデが、資料を見ながら呟いた。


向かいには、俺とセレスティア。


そして、シャルロットが座っている。


「この演習、問題がありますか?」


俺が尋ねると、フィオナは頷いた。


「規程そのものは、ぎりぎり適法よ」


「……ぎりぎり?」


「ええ。合同演習では、上級生が下級生の安全を確保することが条件になっているの」


フィオナは、資料を指差した。


「つまり、ルシウス君が危険な状況になった場合、上級生側に保護責任が生じる」


「……なるほど」


俺は、静かに頷いた。


「それを利用すれば、俺たちの行動を制限できるわけか」


シャルロットの表情が、険しくなる。


「……ユリウス先輩らしいわ」


セレスティアも、眉をひそめた。


「でも、ルシウスは正式な中等部代表候補でしょう?」


「ええ」


フィオナは、頷いた。


「参加資格は十分にあるわ。だから、参加そのものを拒む理由にはならない」


……厄介だな。


俺は、少し考えた。


そして。


「なら、参加します」


三人が、こちらを見た。


「レオン?」


シャルロットが、驚いたように尋ねる。


「本気?」


「ああ」


俺は、頷いた。


「ルシウスだって、自分の実力を試したいはずだ」


「……」


「危険だからって、最初から挑戦する機会を奪うのは違うと思う」


フィオナが、少し微笑んだ。


「……あなたらしいわね」


「ただし」


俺は、資料を指差した。


「安全基準については、正式に確認させてもらいます」


「……ええ」


フィオナは、頷いた。


「それがいいわ」


シャルロットも、静かに頷いた。


「私も、レオンと一緒に戦うわ」


その言葉に、セレスティアが少しだけ目を細めた。


「……私も、見学に行きます」


「セレス?」


「当然でしょう?」


彼女は、にこりと微笑んだ。


「大切な人が出る演習ですもの」


「……っ」


シャルロットの頬が、わずかに赤くなる。


「……私にとっても、大切な人です」


……何だ?


急に空気が変わった気がする。


フィオナだけが、楽しそうに笑っていた。


     ◇


午後。


第二演習区域。


広大な訓練場には、複数の障害物と魔導標的が設置されていた。


中央には、巨大な模擬魔獣の幻影。


そして。


「レオン兄様!」


ルシウスが、元気よく駆け寄ってきた。


「おお、ルシウス!」


「今日は一緒に戦えるんですね!」


「ああ」


俺は、笑った。


「楽しみにしてたよ」


「僕もです!」


その隣で、シャルロットが微笑む。


「ふふ。今日は三人で頑張りましょうね」


「はい!」


ルシウスが、元気よく返事をした。


俺も、頷いた。


「よろしくな」


そのとき。


「皆さん、準備はよろしいですか?」


ユリウス・ファルケンハインの声が響いた。


彼は、演習場の中央に立っていた。


「本日の特別交流演習では、三つの課題を用意しています」


一つ目。


模擬魔獣の制圧。


二つ目。


複数地点の防衛。


三つ目。


救助対象の保護。


「なお、今回は学年混合演習ですので、上級生には下級生の安全確保も求められます」


……やっぱり、そこか。


俺は、静かに息を吐いた。


だが。


ユリウスは、穏やかに微笑んでいる。


「では、始めましょう」


     ◇


第一課題。


模擬魔獣の制圧。


巨大な狼型の幻影が、訓練場に現れた。


「グオオオオッ!」


その咆哮が、空気を震わせる。


「……来るぞ!」


俺が叫ぶ。


だが。


「兄様!」


ルシウスが、一歩前に出た。


「最初は、僕にやらせてください!」


「……いいのか?」


「はい!」


少年の瞳は、真剣だった。


俺は、少し考えた。


そして。


「分かった」


頷いた。


「ただし、無理はするなよ」


「はい!」


ルシウスは、両手を広げた。


五つの魔法陣が、周囲に浮かび上がる。


火。


水。


風。


土。


雷。


「《五彩連環》!」


五色の魔力が、巨大な輪となって回転した。


次の瞬間。


「《雷炎槍》!」


雷と炎を纏った槍が、幻狼へ放たれる。


ドォン!


幻狼の前脚が、吹き飛んだ。


「……すごい!」


観客席から、歓声が上がる。


だが。


幻狼は、まだ倒れない。


「グオオオッ!」


巨大な爪が、ルシウスへ迫った。


「……っ!」


俺が動こうとした、その瞬間。


「《蒼嵐一閃》!」


蒼い斬撃が、空を駆けた。


シャルロットだ。


彼女の剣が、幻狼の爪を切り裂く。


「ルシウス!」


「ありがとうございます、シャルロット姉様!」


「油断しないで!」


「はい!」


二人の連携は、見事だった。


……なるほど。


これなら、俺が無理に前へ出る必要はない。


俺は、少し後方へ下がった。


そして。


二人の動きを見守った。


     ◇


第二課題。


複数地点の防衛。


三つの魔導標的を、同時に守る。


しかも、敵の幻影は四方向から襲ってくる。


「……なるほど」


俺は、配置を確認した。


「三人で三地点を守るだけじゃ、四方向すべてには対応できない」


シャルロットが、頷いた。


「ええ。誰かが、広範囲を担当する必要があるわね」


ルシウスが、拳を握った。


「僕がやります!」


「……ルシウス?」


「《五彩連環》なら、広い範囲を守れます!」


俺は、少年を見つめた。


……本気だ。


なら。


「分かった」


俺は、頷いた。


「ルシウスは中央を頼む」


「はい!」


「シャル姉は右側」


「任せて」


「俺は左側を守る」


三人が、同時に動いた。


「《五彩連環》!」


ルシウスの五属性魔法が、中央を包み込む。


「《風刃乱舞》!」


シャルロットの剣が、右側の幻影を切り裂く。


そして。


俺は、左手を上げた。


「《神炎・太陽劫火》」


赤い魔法陣が、黄金に輝いた。


次の瞬間。


小さな太陽のような炎が、俺の手のひらに現れた。


……よし。


出力は、最小限。


俺は、その炎を前方へ放った。


黄金の火球が、幻影の群れを包み込む。


だが。


標的も、地面も、まったく傷ついていない。


「……なっ!?」


観客席から、驚愕の声が上がった。


「何だ、今の魔法!?」


「炎なのに、周囲が燃えていない!?」


俺は、静かに息を吐いた。


……成功だ。


神力で強化した炎を、対象だけに作用させる。


母上の《銀月天輪》で学んだ精密制御。


それを、火属性へ応用したんだ。


「……レオン」


シャルロットが、驚いたように呟いた。


「また、新しい魔法を……」


俺は、笑った。


「シャル姉たちのおかげだよ」


彼女は、少し頬を赤くした。


「……もう」


     ◇


第三課題。


救助対象の保護。


訓練場の中央に、三つの救助人形が配置された。


しかし。


その周囲には、複雑な魔法障壁が展開されている。


「……なるほど」


俺は、目を細めた。


「これは、少し厄介だな」


ルシウスが、前へ出た。


「兄様! 僕が解除してみます!」


「……できるか?」


「はい!」


少年は、両手を広げた。


「《風水結界》!」


風と水の魔法陣が、障壁を包み込む。


次の瞬間。


障壁の一部が、ゆっくりと揺らぎ始めた。


「……おお!」


俺は、思わず感心した。


ルシウスは、障壁を力任せに破壊していない。


風と水で魔力の流れを変え、術式を緩めている。


……やるな。


だが。


その瞬間。


障壁の内部から、強い魔力反応が生じた。


「……っ!?」


ルシウスが、目を見開いた。


「何だ、これ……!?」


魔法陣が、急激に回転を始める。


……おかしい。


これは、ただの訓練用障壁じゃない。


俺は、すぐに動いた。


「ルシウス! 離れろ!」


「……っ!」


少年が、後方へ跳ぶ。


その瞬間。


障壁が、激しく光った。


ドォォン!


衝撃波が、訓練場を揺らした。


「……っ!」


俺は、右手を上げた。


「《神銀・絶対領域》!」


七色の結界が、瞬時に展開される。


衝撃波を包み込み、周囲への被害を防いだ。


……危なかった。


だが。


これは、明らかにおかしい。


俺は、障壁の残骸を見つめた。


通常の演習用魔法なら、ここまで強い反応は起きない。


「……レオン」


シャルロットが、隣に立った。


その表情は、険しかった。


「今の……」


「ああ」


俺は、静かに頷いた。


「誰かが、術式に手を加えている可能性がある」


その瞬間。


ルシウスが、悔しそうに拳を握った。


「……僕のせいですか?」


「違う」


俺は、即座に答えた。


「お前は、何も悪くない」


「……でも」


「ルシウス」


俺は、少年の肩に手を置いた。


「よく気づいてくれた。お前が術式を緩めたから、異常が表に出たんだ」


「……兄様」


「だから、胸を張れ」


ルシウスは、少しだけ目を潤ませた。


そして。


「……はい!」


力強く頷いた。


     ◇


演習終了後。


運営委員会の控室。


「……異常反応?」


ユリウス・ファルケンハインが、報告書を見つめていた。


クラリッサが、頷く。


「はい。第三課題の障壁が、想定以上の魔力反応を示したそうです」


「……原因は?」


「現在、調査中です」


ユリウスは、しばらく黙っていた。


そして。


「……なるほど」


静かに笑った。


「レオンハルトが、防いだのか」


「はい」


「……さすがだね」


しかし。


クラリッサの表情は、険しかった。


「ユリウス様」


「何だい?」


「この件は、正式な安全調査が必要です」


「もちろん」


ユリウスは、頷いた。


「僕も、そう思うよ」


だが。


その灰色の瞳には、何かを計算するような光が宿っていた。

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