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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第88話 七彩神星陣――五彩の神童と最強公爵令息の共鳴

第88話 七彩神星陣――五彩の神童と最強公爵令息の共鳴


王国暦八二一年、秋月十八日。


ヴァルディス公爵邸。


「レオン兄様! 今日は絶対に僕の魔法を見てください!」


朝食を終えるなり、ルシウス・シルヴェインが俺の腕を掴んできた。


銀色の髪を揺らし、紫色の瞳を輝かせている。


「分かった、分かった。そんなに引っ張るなって」


「昨日からずっと楽しみにしていたんです!」


「それは嬉しいけど……」


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、食堂の奥をちらりと見た。


そこでは、イザベラ伯母上が優雅に紅茶を飲んでいる。


「ルシウス」


「はい、お母様!」


「レオンちゃんに教えるのは構わないけれど、朝から困らせてはいけませんよ」


「はい!」


……返事はいいんだけどな。


ルシウスは、俺の腕を離そうとしない。


その様子を見ていたシャルロットが、くすりと笑った。


「相変わらずね、ルシウス」


「シャルロット姉様だって、昨日はレオン兄様とずっと剣の話をしていたじゃないですか!」


「そ、それは稽古の相談よ!」


「僕だって魔法の相談です!」


「二人とも、喧嘩するなって」


俺が苦笑すると、向かいに座っていたレオナード叔父上が腹を抱えて笑い始めた。


「はははっ! レオンは本当に人気者だな!」


「叔父上まで……」


「いやあ、いいことじゃないか」


父上アルフォンスも、珍しく口元を緩めている。


母上に至っては、俺の頭を撫でながら言った。


「レオンちゃんが愛されている証拠ね」


……朝から、随分と賑やかな家族だ。


けれど。


悪くない。


むしろ、こういう時間が俺は好きだった。


     ◇


午前九時。


公爵邸の第一魔法訓練場。


俺とルシウスは、広大な石造りの訓練場に向かい合っていた。


周囲には、母上とイザベラ伯母上。


そして、見学に来たシャルロットがいる。


「それじゃあ、ルシウス」


俺は、右手を上げた。


「まずは、お前の《五彩連環》を見せてくれ」


「はい!」


ルシウスは、元気よく返事をした。


そして、両手を広げる。


「――五属性、同時展開!」


赤。


青。


緑。


茶。


紫。


五つの魔法陣が、少年の周囲に浮かび上がった。


火、水、風、土、雷。


それぞれの属性が、独立したまま回転を始める。


……なるほど。


俺は、思わず目を細めた。


五つの魔法陣は、単に並んでいるわけじゃない。


互いの魔力の流れを補い合っている。


火が生んだ熱を風が制御し、水が過剰な熱を吸収する。


土が魔力の基盤を固定し、雷が全体の循環を加速させる。


「《五彩連環》!」


ルシウスが叫んだ。


瞬間。


五つの魔法陣が、一つの巨大な輪となって結びついた。


ゴオオオオッ!


五色の魔力が、訓練場の中央へ集まっていく。


そして。


巨大な魔導標的を包み込んだ。


炎が外殻を削り、水流が衝撃を分散し、風が攻撃の軌道を変え、土が逃げ道を塞ぎ、雷が術式核を撃ち抜く。


ドォォン!


標的が、光の粒となって砕け散った。


「……すごい」


俺は、素直に感心した。


単純な五属性同時攻撃じゃない。


一つの属性で作った隙を、次の属性で突いている。


しかも、それをほぼ同時に行っているんだ。


「兄様!」


ルシウスが、期待に満ちた目でこちらを見る。


「どうでしたか!?」


「最高だよ」


俺は、笑った。


「五属性の役割分担が完璧に近い」


「本当ですか!?」


「ああ。ただ……」


「ただ?」


「雷の発動が、ほんの少しだけ早いな」


ルシウスが、目を丸くした。


「……分かりましたか?」


「うん。水流が完全に標的を包み込む前に雷が走っていた」


「……あっ!」


少年は、悔しそうに拳を握った。


「やっぱり、そこか……!」


「でも、十分すごいよ」


俺は、ルシウスの頭を撫でた。


「十三歳でここまでできるなんて、本当に尊敬する」


「……っ!」


ルシウスの顔が、ぱっと明るくなった。


「ありがとうございます、兄様!」


その様子を見ていたイザベラ伯母上が、満足そうに頷いた。


「さすが、私の息子ね」


母上も、微笑んでいる。


「それで、レオンちゃん」


「はい?」


「あなたなら、どう発展させるの?」


……来たか。


俺は、訓練場の中央へ歩き出した。


「実は、少し考えていたんです」


     ◇


俺は、ゆっくりと両手を広げた。


まずは、ルシウスと同じ五属性。


火。


水。


風。


土。


雷。


五つの魔法陣が、俺の周囲に浮かび上がる。


「……兄様!」


ルシウスが、目を輝かせた。


「僕と同じです!」


「ああ。でも、ここから少し変える」


俺は、さらに二つの魔法陣を展開した。


光。


そして、闇。


七つの魔法陣が、ゆっくりと回転する。


「……七属性同時展開」


シャルロットが、息を呑んだ。


俺は、魔力の流れを整えた。


五属性は、互いに干渉しやすい。


そこへ光と闇を加えれば、普通なら術式が崩壊する。


だが。


俺には、《無限神力》がある。


「……よし」


俺は、七つの魔法陣の中心へ神力を流し込んだ。


瞬間。


七色の光が、黄金の輝きを帯びる。


魔法陣の回転が、さらに加速した。


「……っ!」


空気が震える。


大地が、低く唸る。


訓練場を囲む結界が、わずかに揺れた。


「レオンちゃん!」


母上が、声を上げた。


「出力を抑えて!」


「分かっています!」


俺は、すぐに神力の流量を絞った。


……危ない。


まだ、完全には制御できないな。


だが。


ここまで来れば、あと少しだ。


俺は、七つの魔法陣を一つの輪へ結びつけた。


火が攻撃を担い、水が流れを整える。


風が速度を与え、土が構造を支える。


雷が循環を加速し、光が術式を安定させる。


そして闇が、余剰魔力を吸収する。


……よし。


すべてが、つながった。


「《七彩神星陣》!」


瞬間。


巨大な七色の魔法陣が、訓練場の上空に現れた。


その中心に、小さな黒い星が浮かび上がる。


ゴオオオオオッ!


七色の光が、渦を巻いた。


しかし。


俺は、攻撃を放たなかった。


代わりに。


七つの属性を、静かに循環させる。


すると。


訓練場全体の魔力が、驚くほど安定した。


「……これは」


イザベラ伯母上が、目を見開いた。


「結界魔法……?」


「はい」


俺は、頷いた。


「まずは、防御と魔力制御に使ってみました」


七属性を同時に使えば、攻撃力はとんでもないことになる。


だが、それだけじゃない。


火の熱を水で制御し、風で流れを整え、土で固定する。


雷で魔力を循環させ、光で修復し、闇で余剰を吸収する。


そうすれば。


攻撃にも、防御にも、補助にも使える。


「……すごい」


ルシウスが、呟いた。


その声には、驚きと興奮が入り混じっていた。


「兄様……僕の《五彩連環》が……」


「ルシウス」


俺は、少年を見つめた。


「お前の魔法があったから、思いついたんだ」


「……え?」


「だから、これはお前のおかげでもある」


その瞬間。


ルシウスの瞳が、潤んだ。


「……兄様」


そして。


「僕、もっと強くなります!」


少年は、拳を握った。


「いつか、兄様と一緒に戦えるくらい!」


俺は、笑った。


「もう十分、頼りにしてるよ」


「……っ!」


ルシウスは、嬉しそうに笑った。


     ◇


午後。


今度は、剣術訓練場。


シャルロットが、俺の前に立っていた。


「さて、レオン」


彼女は、細身の剣を構えた。


「今日は、私の《蒼嵐一閃》を本格的に教えてあげるわ」


「よろしくお願いします、シャル姉」


「……ふふ」


彼女は、嬉しそうに微笑んだ。


「まず、大切なのは風の流れを感じることよ」


「風の流れ?」


「ええ。風を無理やり動かすんじゃないの」


シャルロットは、剣を軽く振った。


その瞬間。


蒼い風が、刀身を包み込む。


「自分の動きと、風の動きを一致させるの」


……なるほど。


俺は、目を細めた。


「だから、あんなに速いんだ」


「そうよ」


彼女は、静かに頷いた。


「風が私を運び、私は風を導く」


次の瞬間。


シャルロットの姿が、消えた。


《天翔瞬歩》。


神速の移動。


そして。


「《蒼嵐一閃》!」


蒼い斬撃が、空を裂いた。


訓練場の標的が、音もなく切り裂かれる。


「……すごい」


俺は、思わず呟いた。


何度見ても、美しい技だ。


「レオン」


シャルロットが、振り向く。


「今度は、あなたの番よ」


「分かった」


俺は、剣を構えた。


風属性の魔力を流し込む。


そして。


シャル姉の動きを思い出す。


風を支配するんじゃない。


風と一体になる。


……こうか。


俺は、一歩踏み込んだ。


《天翔瞬歩》。


次の瞬間。


身体が、風に運ばれるように加速した。


「……っ!」


シャルロットが、目を見開いた。


「もう、そこまで……!?」


俺は、剣を振り抜く。


「《蒼嵐一閃》!」


蒼い斬撃が、標的を切り裂いた。


……よし。


昨日より、ずっといい。


だが。


まだ、完成じゃない。


俺は、剣を構え直した。


「シャル姉」


「……何?」


「今度は、少し違うことを試してもいい?」


「もちろんよ」


俺は、風属性の魔力を高めた。


そして。


そこへ、神力を流し込む。


蒼い風が、黄金の輝きを帯びる。


「……レオン?」


シャルロットが、息を呑んだ。


俺は、ゆっくりと剣を振り抜いた。


「《神嵐・蒼天一閃》!」


シュンッ。


黄金の斬撃が、空を駆けた。


しかし。


俺は、威力を最小限に抑えた。


斬撃は、標的だけを正確に切り裂き、背後の壁には傷一つ残さなかった。


「……できた」


俺は、思わず笑った。


シャルロットが、呆然と立ち尽くしている。


「……レオン」


「ん?」


「あなた、本当に……」


彼女は、言葉を探すように口を開いた。


そして。


ふっと笑った。


「……すごいわ」


「いや、シャル姉のおかげだよ」


俺は、素直に答えた。


「この技、シャル姉が教えてくれなかったら思いつかなかった」


「……っ!」


彼女の頬が、赤く染まった。


「……もう」


「え?」


「本当に、あなたって……」


シャルロットは、少し俯いた。


そして、小さな声で呟いた。


「……大好き」


「……ん?」


「な、何でもないわ!」


……何だったんだ?


     ◇


夕方。


学園の高等部三年生談話室。


ユリウス・ファルケンハインは、机に広げられた資料を見つめていた。


「……七属性の神魔法、か」


クラリッサが、静かに頷いた。


「公爵邸での訓練内容については、詳細までは分かりません。ただ、通常の魔力とは異なる反応が観測されたそうです」


「なるほど」


ユリウスは、薄く笑った。


「ますます、正面から戦うべき相手ではなくなったね」


グレゴールが、舌打ちした。


「……化け物め」


「いや」


ユリウスは、首を振った。


「彼は化け物じゃない」


「……何?」


「人間だよ」


その灰色の瞳が、冷たく光った。


「だからこそ、心がある」


ユリウスは、別の書類を取り出した。


『第七班・第一予選課題』


そこには、次のように記されていた。


『模擬救助任務』


『複数の救助対象を保護し、制限時間内に指定地点へ搬送すること』


『班員全員の協力行動を評価対象とする』


「……救助任務?」


グレゴールが、眉をひそめた。


「そうだよ」


ユリウスは、微笑んだ。


「レオンハルト・ヴァルディスは、誰も見捨てない」


「……ああ」


「なら、見捨てられない状況を作ればいい」


クラリッサの表情が、険しくなる。


「……ユリウス様」


「何だい?」


「救助対象の配置を不当に操作することは、規程違反になります」


「もちろん、分かっているよ」


ユリウスは、穏やかに答えた。


「だから、規程の範囲内で行う」


そして。


机の上に、一枚の配置図を広げた。


そこには、三つの救助地点が記されていた。


互いに離れた場所。


異なる地形。


そして。


一つだけ、極端に難易度の高い区域。


「……さて」


ユリウスは、静かに笑った。


「彼は、どんな選択をするのかな?」


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