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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第86話 白鷹の盤上――勇者と悪役令息、同じ班へ

第86話 白鷹の盤上――勇者と悪役令息、同じ班へ


王国暦八二一年、秋月十六日。


王立アストレア学園。


朝の鐘が鳴り終わる頃、中央掲示板の前には、いつもの数倍もの生徒が集まっていた。


「おい、レオン! 班分けが発表されたぞ!」


「そんなに急がなくても、紙は逃げないだろ」


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、駆け寄ってきたカイルに苦笑した。


だが、親友の顔はいつになく真剣だった。


「いいから見ろって!」


人垣を抜け、掲示板の前に立つ。


そこには、来月開催される学園合同競技会の予選班編成が張り出されていた。


剣術、魔法、戦術。


三つの能力を総合的に評価する、四人一組の混合団体戦。


俺は、自分の名前を探した。


そして。


「……なるほど」


思わず、そんな声が漏れた。


第七班。


レオンハルト・ヴァルディス。


カイル・アッシュフォード。


リゼット・クローディア。


アルベルト・レイフォード。


「……はあ!?」


カイルが叫んだ。


「何だよこれ! 何でアルベルトがいるんだ!?」


周囲の生徒たちが、一斉にこちらを見る。


俺は、軽く肩をすくめた。


「声が大きいぞ、カイル」


「いや、驚くだろ普通!」


それはそうだ。


アルベルトは、先日の一連の事件で中心人物として疑われた勇者候補。


直接の関与が立証された範囲は限られていたため、処分は一週間の停学に留まった。


だが、俺とリゼットが被害を受けたことは、学園中が知っている。


そんな相手と同じ班。


偶然にしては、随分と出来すぎている。


「……レオン」


リゼットが、隣に立った。


「この編成、やっぱりおかしいわ」


「ああ」


「私は正式に異議を申し立てるつもりよ」


「待ってくれ」


俺は、掲示板の下部を指差した。


『班編成への異議申立ては、明白な規程違反または安全上の重大な問題が認められる場合に限る』


「これがある」


「……ええ」


「過去に対立していたというだけじゃ、認められない可能性が高い」


リゼットは、悔しそうに唇を噛んだ。


カイルが、腕を組む。


「じゃあ、どうするんだよ?」


「まず、編成の理由を聞く」


俺は、静かに答えた。


「それから考えよう」


そのとき。


「ずいぶん冷静なんだね」


背後から、穏やかな声が響いた。


振り向くと、ユリウス・ファルケンハインが立っていた。


淡い金髪。


灰色の瞳。


そして、いつもと変わらない優雅な笑顔。


「おはよう、レオンハルト君」


「おはようございます、ユリウス先輩」


「班編成に何か問題でも?」


……来たか。


俺は、掲示板へ視線を向けた。


「アルベルトと俺が同じ班になった理由を伺えますか?」


「もちろん」


ユリウスは、待っていたかのように答えた。


「今回の編成は、能力の均衡を重視しているんだ」


「能力の均衡?」


「君の魔法と剣術、カイル君の機動力、リゼット君の術式解析、そしてアルベルト君の勇者適性」


彼は、指を一本ずつ折りながら説明する。


「それぞれの長所を組み合わせれば、非常に優秀な班になるだろう?」


……確かに。


表面的には、筋が通っている。


「それに」


ユリウスが、少しだけ声を落とした。


「過去の対立を乗り越えることも、教育の一環だと思わないかい?」


カイルの眉が跳ね上がった。


「それは――」


「カイル」


俺は、親友を制した。


そして、ユリウスを見つめる。


「なるほど。説明は理解しました」


「それはよかった」


「ただ、一つだけ確認させてください」


「何だい?」


「この班編成に、特定の生徒を不利益に扱う意図はないんですね?」


一瞬。


ユリウスの笑顔が、わずかに止まった。


しかし、すぐに元へ戻る。


「もちろんだよ」


「分かりました」


俺は頷いた。


「なら、競技会では公平に戦わせてもらいます」


ユリウスの灰色の瞳が、細くなった。


「……楽しみにしているよ」


そう言って、彼は去っていった。


カイルが、小声で呟く。


「……何か、腹立つな」


「まあな」


俺は、掲示板を見上げた。


だが。


あの人が何を考えていようと、やることは変わらない。


俺は、仲間を守る。


それだけだ。


     ◇


昼休み。


生徒会室。


フィオナ・エルグランデは、机に広げられた資料を見つめていた。


「……なるほどね」


金色の髪を耳にかけ、彼女は小さく息を吐く。


「随分と巧妙な編成だわ」


向かいには、セレスティアとシャルロットが座っていた。


「やはり、意図的だと思いますか?」


セレスティアが尋ねる。


「断定はできないわ。でも、偶然だとしたら出来すぎね」


フィオナは、資料を指で叩いた。


「特に、レオン君とアルベルト君を同じ班にしたこと」


シャルロットの青い瞳が、鋭くなる。


「ユリウス先輩の考えそうなことです」


「ええ。ただ、問題はそこじゃないの」


「……?」


フィオナは、別の書類を取り出した。


「今回の競技会では、班内での協力行動が評価項目に追加されているわ」


セレスティアが、眉をひそめる。


「協力行動……?」


「そう。個人の強さだけではなく、班全体の連携を評価する」


「それ自体は、悪いことではありませんね」


「ええ。むしろ、教育的には正しいわ」


フィオナは、静かに続けた。


「でも、もし班の中に協力する気のない人間がいたら?」


沈黙。


シャルロットが、ゆっくりと口を開いた。


「……他の三人まで、評価を落とされる」


「その通り」


フィオナは、頷いた。


「しかも、規程違反ではない」


セレスティアの表情が険しくなる。


「……卑怯ね」


「ええ」


フィオナは、窓の外を見つめた。


「でも、まだ何も起きていない」


そして、二人に視線を戻す。


「だからこそ、今のうちに準備する必要があるわ」


シャルロットが、静かに頷いた。


「……私も、レオンを守ります」


その声には、強い決意が込められていた。


     ◇


放課後。


第七班の初顔合わせが行われた。


場所は、第三訓練場。


俺、カイル、リゼット。


そして。


「……久しぶりだな、レオンハルト」


アルベルト・レイフォード。


一週間の停学を終えた勇者候補は、以前より少し痩せたように見えた。


だが、その瞳に宿る敵意は変わっていない。


「久しぶり、アルベルト」


俺は、普通に挨拶した。


「……随分と余裕だな」


「そうか?」


「僕と同じ班になっても、平気なのか?」


「決まったものは仕方ないだろ」


俺は、軽く肩をすくめた。


「それに、競技会では協力しなきゃいけないんだから」


「……協力?」


アルベルトが、鼻で笑った。


「僕がお前に従うとでも?」


カイルが、一歩前に出る。


「おい、アルベルト!」


「カイル、いい」


俺は、親友を制した。


「別に、俺が班長じゃなくてもいい」


「……何?」


「誰が指揮を取るかは、実際に動いて決めればいいだろ」


アルベルトの表情が、わずかに揺れた。


「……本気で言っているのか?」


「ああ」


俺は、真っ直ぐに答えた。


「勝つために必要なら、誰の意見だって聞く」


しばらくの沈黙。


そして。


「……勝手にしろ」


アルベルトは、そっぽを向いた。


……やれやれ。


前途多難だな。


     ◇


「では、最初の連携訓練を始めます!」


担当教師の声が響いた。


今回の課題は、模擬魔獣の制圧。


訓練場の中央に、魔導装置で形成された巨大な狼型の幻影が現れた。


「《幻狼》か」


カイルが、剣を抜く。


「俺が前に出る!」


「待て」


俺は、片手を上げた。


「まず、相手の動きを見よう」


「……分かった!」


カイルが、構え直す。


リゼットは、後方で解析魔法を展開した。


「《魔力残響解析》!」


紫色の魔法陣が、幻狼を包み込む。


「……弱点は右後脚の術式核!」


「了解!」


俺は、右手を上げた。


「《天嵐刃》!」


緑色の魔法陣が輝き、鋭い風の刃が放たれる。


幻狼の右後脚を狙う。


だが。


「……甘い!」


アルベルトが、突然前へ飛び出した。


「《勇者剣・光閃》!」


黄金の斬撃が、幻狼の正面へ放たれる。


しかし、幻狼はそれを避けた。


そして。


「グルルルルッ!」


巨大な爪が、アルベルトへ振り下ろされる。


「……っ!?」


アルベルトの顔が、驚愕に染まった。


だが。


「《大地城壁》!」


俺は、地面へ手を向けた。


茶色の魔法陣が輝く。


次の瞬間。


分厚い岩壁が、アルベルトの前に立ち上がった。


ドゴォン!


幻狼の爪が、岩壁へ激突する。


「……なっ!?」


アルベルトが、目を見開いた。


俺は、その横へ駆け寄った。


「大丈夫か?」


「……助けたのか?」


「当たり前だろ」


俺は、剣を構えた。


「同じ班なんだから」


アルベルトは、何も言わなかった。


だが。


その拳が、わずかに震えていた。


     ◇


訓練は、まだ終わっていない。


幻狼が、再び咆哮した。


「グオオオオッ!」


魔力が、周囲へ広がる。


「……来るぞ!」


カイルが叫ぶ。


俺は、静かに息を吸った。


……さて。


せっかくだ。


少し、新しい技を試してみるか。


「リゼット! 術式核の位置は変わってないか?」


「ええ! 右後脚の内側!」


「カイル! 左から注意を引いてくれ!」


「任せろ!」


カイルが、地面を蹴った。


「《雷燕》!」


青い雷を纏った剣が、幻狼の左側へ迫る。


幻狼が、そちらへ振り向く。


その隙に。


俺は、右手を上げた。


「《蒼海激流》!」


青い魔法陣が輝く。


大量の水が、幻狼の足元へ流れ込んだ。


「……水魔法?」


アルベルトが、驚いたように呟く。


だが、まだ終わらない。


「《紫電迅雷》!」


次の瞬間。


水の流れに、紫色の雷が走った。


水と雷。


二属性複合魔法。


幻狼の動きが、一瞬だけ鈍る。


「……今だ!」


俺は、剣を構えた。


風属性の魔力を纏わせる。


シャル姉の《蒼嵐一閃》を思い出す。


あの、美しい風の流れ。


剣と風が一体化する感覚。


……こうか。


「《蒼嵐一閃》!」


蒼い斬撃が、幻狼の右後脚を貫いた。


バキィン!


術式核が砕ける。


次の瞬間。


幻狼の巨体が、光の粒となって消えた。


「……制圧成功!」


教師の声が響く。


カイルが、歓声を上げた。


「よっしゃあ!」


リゼットも、ほっと息を吐く。


「……うまくいったわね」


俺は、剣を下ろした。


「みんなのおかげだよ」


そのとき。


アルベルトが、こちらを睨んでいた。


「……今の技」


「ん?」


「シャルロット・ヴァルディスの技だろ」


「ああ」


俺は、頷いた。


「昨日、見せてもらったんだ」


「……一度見ただけで?」


「いや、昔から一緒に稽古してたし、完全に初めてじゃないよ」


俺は、苦笑した。


「それに、まだ本家には及ばない部分もある」


アルベルトの顔が、歪んだ。


……何だ?


そんなに驚くことか?


     ◇


夜。


白鷹館。


ユリウスは、訓練の報告を読んでいた。


「……なるほど」


グレゴールが、腕を組む。


「どうだった?」


「興味深いね」


ユリウスは、静かに答えた。


「レオンハルトは、アルベルトを助けたそうだ」


「……何?」


「しかも、班全体の連携を優先した」


クラリッサが、資料を確認する。


「協力行動の評価は高かったようです」


「……つまらんな」


グレゴールが、舌打ちした。


「もっと揉めると思ったのに」


ユリウスは、薄く笑った。


「いや。むしろ、よく分かったよ」


「何が?」


「彼は、自分を嫌う相手でも見捨てない」


ユリウスは、書類を閉じた。


「それが、彼の強さであり……」


少しだけ、間を置く。


「弱点にもなり得る」


クラリッサが、眉をひそめた。


「……ユリウス様」


「何だい?」


「今回の訓練では、レオンハルトの判断が適切だったと報告されています」


「もちろん」


「なら、彼を問題視する根拠はありません」


ユリウスは、柔らかく微笑んだ。


「まだ、ね」


そして、窓の外へ視線を向ける。


「次は、もう少し難しい選択をしてもらおう」


     ◇


その夜。


公爵邸。


俺は、自室で剣を手にしていた。


昼間の《蒼嵐一閃》。


あれは、まだ完成形じゃない。


シャル姉の風魔法は、もっと滑らかで、もっと速い。


俺は、剣を構え直した。


「……よし」


風属性の魔力を流し込む。


蒼い風が、刀身を包み込んだ。


そして。


ほんのわずかに、《無限神力》を重ねる。


瞬間。


風の色が、淡い金色へ変わった。


「……っ!」


空気が、震える。


俺は、慌てて神力を抑えた。


……危ない。


このまま振れば、訓練場どころか庭まで吹き飛ばしかねない。


でも。


分かったことがある。


通常魔法に神力を流し込むと、単純に威力が増すだけじゃない。


魔法そのものの性質が、変わる。


風は、より鋭く。


炎は、より純粋に。


水は、より自在に。


そして。


七属性すべてに、同じことができるはずだ。


「……面白くなってきたな」


俺は、思わず笑った。


《万有引力》だけが、俺の力じゃない。


七属性。


剣術。


家族から受け継いだ奥義。


そして、神力。


それらすべてを組み合わせれば――。


まだ、誰も見たことのない戦い方ができる。


俺は、剣を鞘へ戻した。


明日、父上たちに相談してみよう。


きっと。


もっと強くなれる。



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