↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/379

第85話 蒼風の剣姫と五彩の神童――最強一族の若き才能

第85話 蒼風の剣姫と五彩の神童――最強一族の若き才能


王国暦八二一年、秋月十五日。


王立アストレア学園。


中等部第二訓練場。


「……すごい人だな」


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、観客席を見渡して呟いた。


今日は、学園合同競技会に向けた中等部代表選考会。


その見学に来ている。


理由はもちろん、ルシウスだ。


「当たり前でしょう?」


隣に立つシャルロットが、得意げに微笑んだ。


「ルシウスは中等部でも有名人なのよ」


「五属性使いだもんな」


「ええ。それに、本人も本当に努力しているわ」


シャルロットは、訓練場の中央を見つめた。


そこには、中等部の制服を着たルシウスが立っていた。


銀髪に紫色の瞳。


まだ十三歳。


けれど、その表情には確かな自信がある。


「……頑張れよ、ルシウス」


俺は、小さく呟いた。


     ◇


「次の試合!」


審判役の教師が声を上げる。


「ルシウス・シルヴェイン対、マルク・ディートリヒ!」


対戦相手は、十四歳の中等部三年生。


土属性魔法を得意とする、実力者らしい。


「よろしくお願いします!」


ルシウスが、丁寧に頭を下げる。


「……こちらこそ」


マルクは、少し緊張した様子で構えた。


無理もない。


相手は、五属性を扱う神童だ。


だが。


「始め!」


試合開始の合図と同時に、マルクが動いた。


「《岩壁展開》!」


地面から、分厚い岩の壁が立ち上がる。


その背後から、無数の石弾が放たれた。


「なるほど……!」


俺は、思わず感心した。


守りを固めながら、相手の動きを制限する。


堅実な戦い方だ。


しかし。


「《風翔》!」


ルシウスの足元に、緑色の魔法陣が浮かび上がった。


次の瞬間。


少年の身体が、風に押し上げられるように宙へ舞う。


「なっ!?」


マルクが、驚きの声を上げた。


その隙に。


「《雷炎槍》!」


ルシウスの右手に、雷と炎を纏った槍が形成された。


二属性複合魔法。


しかも、魔力の混合が非常に安定している。


「行きます!」


槍が放たれた。


轟音。


岩壁の一部が砕け、衝撃が訓練場を揺らす。


「うおおっ!?」


マルクが、慌てて防御魔法を展開する。


だが。


ルシウスは、すでに次の魔法を準備していた。


「《水流拘束》!」


青い魔法陣から、水の鎖が伸びる。


マルクの足元を絡め取った。


「しまっ――!」


「これで終わりです!」


ルシウスが、片手を前に出す。


「《土壁封陣》!」


地面から四本の石柱が立ち上がり、相手の周囲を囲んだ。


攻撃ではない。


完全な拘束。


審判が、すぐに手を上げる。


「勝者、ルシウス・シルヴェイン!」


観客席が、歓声に包まれた。


「すげえ!」


「五属性を全部使ったぞ!」


「しかも、最後は相手を傷つけずに勝った!」


俺は、思わず立ち上がった。


「ルシウス!」


少年が、こちらを振り向く。


「兄様!」


俺が親指を立てると、ルシウスは満面の笑みを浮かべた。


「やりました!」


……本当に、すごいな。


十三歳で、ここまで戦えるとは。


しかも、最後に相手を必要以上に傷つけない判断ができている。


魔法の才能だけじゃない。


戦い方そのものが、よく考えられている。


「さすが、イザベラ伯母上の息子だな」


俺が呟くと、シャルロットが微笑んだ。


「でしょう?」


その表情は、どこか誇らしげだった。


     ◇


試合後。


ルシウスは、一直線に俺のところへ駆け寄ってきた。


「レオン兄様!」


「お疲れ、ルシウス!」


俺は、少年の頭を撫でた。


「すごかったぞ!」


「本当ですか!?」


「ああ。特に最後の拘束魔法。相手を傷つけずに勝ったのがよかった」


「えへへ……!」


ルシウスは、嬉しそうに笑った。


「兄様なら、そうすると思ったんです!」


「……俺?」


「はい!」


少年は、真剣な顔になった。


「兄様は、強いのに無駄に人を傷つけないでしょう?」


その言葉に、俺は少し驚いた。


「だから僕も、そうなりたいんです」


……なるほど。


俺は、思わず笑った。


「なら、もう十分近づいてるよ」


「……っ!」


ルシウスの瞳が輝いた。


「はい! もっと頑張ります!」


そのとき。


「ルシウス!」


シャルロットが、腕を組んで近づいてきた。


「あなた、最後の魔力制御が少し甘かったわよ」


「えっ!?」


「水流拘束の直後、土属性へ切り替えるときに一瞬だけ魔力が乱れたでしょう?」


「……あ」


ルシウスは、目を丸くした。


「分かりましたか?」


「当然よ」


シャルロットは、ふっと微笑んだ。


「でも、全体としては素晴らしかったわ」


「……ありがとうございます!」


そのやり取りを見て、俺は思った。


この二人、本当にいい関係だな。


互いに競い合い、認め合っている。


そして。


俺も、その中にいる。


……悪くない。


いや。


すごく嬉しい。


     ◇


午後。


高等部第一訓練場。


今度は、シャルロットの出番だった。


二年生代表候補の公開模擬戦。


相手は、高等部三年生の剣士。


規律委員会所属、グレゴール・ハインツ。


……って。


「えっ?」


俺は、思わず声を上げた。


「グレゴール先輩って、ユリウス先輩の知り合いじゃなかったか?」


隣のカイルが頷く。


「ああ。かなり親しいらしいぞ」


「……そうか」


俺は、訓練場を見つめた。


グレゴールは、長剣を肩に担いでいる。


大柄な体格。


鍛え上げられた腕。


見るからに力のある剣士だ。


一方、シャルロットは細身の剣を構え、静かに呼吸を整えていた。


「……シャル姉」


俺が呟くと、彼女がこちらを見た。


そして。


にこりと笑った。


……大丈夫そうだな。


「始め!」


審判の声が響く。


次の瞬間。


グレゴールが、地面を蹴った。


「《剛破斬》!」


重い斬撃。


真正面から叩き潰すような一撃だ。


しかし。


「遅いわ」


シャルロットの姿が、風に溶けた。


《天翔瞬歩》。


神速の移動。


グレゴールの剣が空を切る。


「なっ!?」


その背後に、シャルロットが現れた。


「《蒼風一閃》!」


鋭い斬撃。


グレゴールは、慌てて剣を返す。


キィン!


金属音が響いた。


「……やるな!」


「ありがとうございます」


シャルロットは、優雅に微笑んだ。


「ですが、まだ本気ではありません」


その言葉に、観客席がざわつく。


グレゴールの表情が険しくなった。


「……舐めるなよ!」


彼が、剣を大きく振りかぶる。


「《剛岩衝》!」


地面を砕くほどの衝撃波。


訓練場の床が震えた。


しかし。


「《風壁》」


シャルロットが、片手を上げる。


透明な風の壁が、衝撃波を受け流した。


「……何!?」


「力だけでは、風は捕まえられませんわ」


次の瞬間。


彼女の姿が、再び消えた。


右。


左。


背後。


風とともに、斬撃が舞う。


《風刃乱舞》。


グレゴールは、必死に剣を振るった。


だが。


一度も、シャルロットを捉えられない。


「くそっ!」


「終わりです」


シャルロットが、静かに告げた。


「《蒼嵐一閃》!」


一陣の蒼い風が、訓練場を駆け抜けた。


次の瞬間。


グレゴールの剣が、宙を舞っていた。


カランッ。


地面に落ちる金属音。


そして。


シャルロットの剣先が、彼の喉元の手前で静止していた。


「……勝者、シャルロット・ヴァルディス!」


大歓声。


俺は、思わず笑った。


「すげえ……!」


カイルも、目を丸くしている。


「おいおい……あれが二年生かよ!」


「シャル姉、強いだろ?」


「強いどころじゃねえよ!」


……うん。


俺も、ちょっと誇らしい。


     ◇


試合後。


シャルロットが、俺のところへやってきた。


「レオン。どうだった?」


「最高だったよ!」


俺は、素直に答えた。


「風の使い方も、剣の速さも、昨日よりさらにすごく見えた!」


「……っ!」


シャルロットの頬が、みるみる赤くなる。


「そ、そう……?」


「ああ!」


「……なら、よかったわ」


彼女は、少し照れたように微笑んだ。


そのとき。


「シャルロット先輩」


聞き慣れない声が響いた。


振り向くと、ユリウス・ファルケンハインが立っていた。


その隣には、先ほど敗れたグレゴール。


そして、眼鏡をかけたクラリッサの姿もある。


「素晴らしい試合だったよ」


ユリウスは、優雅に拍手した。


「さすがは蒼風の剣姫だ」


「……ありがとうございます」


シャルロットは、丁寧に一礼した。


しかし、その表情は少し硬い。


ユリウスは、俺へ視線を向けた。


「レオンハルト君も、見学していたんだね」


「ええ。従姉の試合ですから」


「なるほど。家族思いなんだね」


「……そうですね」


俺は、静かに答えた。


「大切な家族ですから」


その瞬間。


ユリウスの灰色の瞳が、わずかに細くなった。


「……素晴らしいことだ」


彼は、穏やかに微笑む。


「家族の絆は、何より大切にすべきものだからね」


……。


何だろう。


その言葉を聞いた瞬間、妙な違和感が胸をよぎった。


けれど。


ユリウスは、それ以上何も言わなかった。


「では、競技会を楽しみにしているよ」


そう告げて、去っていく。


俺は、その背中を見つめた。


……やっぱり。


何か、引っかかる。


     ◇


高等部三年生の談話室。


グレゴールは、不機嫌そうに椅子へ腰を下ろした。


「……くそっ」


「見事に負けたね」


ユリウスが、穏やかに言った。


「笑い事じゃない!」


「いや、笑ってはいないよ」


ユリウスは、書類を広げた。


「むしろ、非常に有益な試合だった」


「……何?」


「シャルロット・ヴァルディスの実力を確認できた」


クラリッサが、頷く。


「予想以上でした。剣速、魔力制御、判断力。いずれも高水準です」


「……だから何だ?」


「つまり、正面から倒すのは難しいということです」


グレゴールは、舌打ちした。


「分かってる!」


ユリウスは、静かに笑った。


「なら、正面から戦わなければいい」


「……また、それか」


「そうだよ」


彼は、机の上に二枚の資料を置いた。


一枚には、シャルロット・ヴァルディス。


もう一枚には、ルシウス・シルヴェイン。


「レオンハルトには、二人の大切な親族がいる」


クラリッサが、眼鏡を押し上げた。


「どちらも、競技会の代表候補です」


「……ああ」


「そして、二人とも非常に優秀」


ユリウスは、指先で資料を叩いた。


「優秀な者ほど、周囲から期待される」


「……?」


「期待は、時に重圧になる。そして、重圧は判断を鈍らせる」


グレゴールが、眉をひそめる。


「何が言いたい?」


ユリウスは、薄く笑った。


「彼らがどこまで家族を信じ、どこまで互いを守ろうとするのか……少し試してみたいと思ってね」


その言葉に、クラリッサの表情がわずかに曇った。


「……ユリウス様」


「何だい?」


「規程の範囲を越えることは、お勧めしません」


「もちろん、分かっているよ」


ユリウスは、柔らかく微笑んだ。


「僕たちは、あくまで公平な競技会を運営するだけだ」


しかし。


その灰色の瞳には、冷たい光が宿っていた。


     ◇


夕方。


公爵邸へ戻った俺は、ルシウスとシャルロットの二人と一緒に庭を歩いていた。


「兄様! 今日の僕、どうでしたか?」


「最高だったよ」


「本当ですか!?」


「ああ。あの五属性の使い方、見事だった」


ルシウスは、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます!」


シャルロットも、微笑んでいる。


「レオン。私の試合は?」


「もちろん、シャル姉もすごかった」


「……ふふ」


彼女は、少し照れたように目を伏せた。


そのとき。


「三人とも、楽しそうだな」


父上の声が響いた。


振り向くと、アルフォンスとレオナード叔父上が立っていた。


「父上!」


「叔父上!」


レオナードは、にやりと笑った。


「聞いたぞ、シャルロット。三年生を完封したんだって?」


「ええ、お父様」


「さすが俺の娘だ!」


叔父上は、嬉しそうに笑った。


そして、ルシウスの頭を撫でる。


「ルシウスも代表候補だそうじゃないか」


「はい!」


「いいねえ。若いってのは」


父上が、穏やかに微笑んだ。


「レオン。お前も、いい刺激を受けているようだな」


「はい」


俺は、二人を見た。


「シャル姉もルシウスも、本当に強くなっていました」


「そうか」


父上は、満足そうに頷いた。


そのとき。


レオナード叔父上が、ふと真剣な顔になった。


「……レオン」


「はい?」


「一つだけ、覚えておけ」


叔父上は、静かに言った。


「強い人間ほど、周囲から狙われることがある」


「……」


「だが、恐れる必要はない」


叔父上は、俺の肩を軽く叩いた。


「お前には、俺たちがいる」


父上も、静かに頷いた。


「そうだ」


俺は、思わず笑った。


「……分かっています」


そして。


シャルロットが、俺の手を取った。


「私もいるわ」


ルシウスも、反対側から拳を突き出す。


「僕もです!」


俺は、二人を見つめた。


……ああ。


本当に。


俺は、恵まれている。


原作では、一人で戦い続けた悪役令息。


でも、今は違う。


家族がいる。


仲間がいる。


大切な人たちがいる。


そして。


俺自身も、彼らを守りたいと思っている。


「……ありがとう」


俺は、二人の手を握った。


「これからも、よろしくな」


シャルロットが、優しく微笑む。


「もちろんよ」


ルシウスも、元気よく頷いた。


「一生ついていきます!」


その笑顔を見ながら。


俺は、心の中で誓った。


――この家族を、絶対に守る。


その誓いが、やがて王国全土を震わせる怒りへと変わる日が来ることを。


このときの俺は、まだ知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。