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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第79話 王国教育評議会の裁定――容赦なき処分

第79話 王国教育評議会の裁定――容赦なき処分


 王国暦八二一年、秋月五日。


 王立アストレア学園。


 事件発生から一週間近くが経過し、王国教育評議会による調査は最終段階へ入っていた。


 学園長室には、重苦しい空気が漂っている。


 机の上には、膨大な調査資料。


 魔道具の残骸。


 解析記録。


 目撃証言。


 そして、ノエル・クレインが提出した指示書。


 教育評議会の代表監察官は、静かに書類を閉じた。


「……結論を申し上げます」


 その場には、学園長。


 担当監察官。


 数人の教官。


 そして、アルフォンス・ヴァルディスとエレオノーラ・ヴァルディスがいた。


 代表監察官は、深く息を吸った。


「今回の一連の事件には、複数の重大な問題が確認されました」


 沈黙。


「第一に、学園側による不十分な調査」


「第二に、根拠の乏しい情報を用いた不当な処分」


「第三に、当事者の名誉を著しく損なう公示」


「そして第四に、生徒による意図的な情報操作と証拠改ざん」


 その言葉に、学園長は深く俯いた。


「……申し訳ございません」


 だが。


 アルフォンスは、静かに首を横に振った。


「……謝罪は、すでに聞いた」


 その声は、低かった。


「今、必要なのは責任の所在を明らかにすることだ」


 代表監察官は、頷いた。


「……おっしゃる通りです」


     ◇


「まず、学園側の処分について申し上げます」


 代表監察官は、一枚の書類を取り出した。


「今回の不当な処分を主導した担当監察官については、監察職からの解任を決定しました」


 担当監察官の顔が、真っ青になった。


「……なっ!?」


「さらに、事実確認を怠ったまま誤った情報の公示を承認した責任者についても、職務を解きます」


 室内が、静まり返った。


「……そんな……」


 担当監察官は、震える声で呟いた。


「……私は、規則に従って……」


 その瞬間。


「……規則?」


 エレオノーラが、静かに口を開いた。


 担当監察官が、びくりと肩を震わせた。


「……規則に従えば、子どもの名誉を傷つけてもいいのかしら?」


「……い、いえ……」


「……では、何のための規則なの?」


 その声は、穏やかだった。


 だが。


 室内の温度が、わずかに下がった。


「……あなたたちは、レオンちゃんを疑った」


 エレオノーラは、静かに続けた。


「でも、あの子の話を、ちゃんと聞こうともしなかった」


 担当監察官は、俯いた。


「……申し訳ありません」


「……謝る相手が違うわ」


 エレオノーラの声が、冷たく響く。


「……私ではなく、レオンちゃんとリゼットちゃんでしょう?」


 その言葉に、担当監察官は何も答えられなかった。


     ◇


「次に、学園長の責任について」


 代表監察官が、続けた。


「学園長には、監督責任に基づく正式な譴責処分を科します」


 学園長は、静かに頷いた。


「……承知いたしました」


「加えて、学園の監察制度について、王国教育評議会が直接監督することを決定しました」


 その言葉に、学園長は深く頭を下げた。


「……二度と、このようなことが起きぬよう努めます」


 アルフォンスは、静かに答えた。


「……当然だ」


 そして。


「ただし」


 その声が、少しだけ低くなった。


「今回の問題を、処分だけで終わらせるつもりはない」


 代表監察官が、顔を上げた。


「……閣下?」


「学園全体の調査体制を見直してもらう」


 アルフォンスは、静かに続けた。


「貴族だから、平民だから、勇者候補だから」


 その言葉に、室内の空気が変わった。


「……そのような理由で、判断を変えてはならん」


 代表監察官は、深く頷いた。


「……承知しております」


     ◇


 その日の午後。


 学園の小講堂。


 今度は、関与した学生たちへの処分が告げられることになった。


 俺は、カイルやリゼットたちと共に、後方の席に座っていた。


 壇上には、教育評議会の代表監察官。


 そして。


 ダリオ・ベルクス。


 ノエル・クレイン。


 アルベルト・レイフォード。


 三人が並んで立っていた。


「……これより、今回の事件に関与した生徒への処分を申し渡します」


 会場が、静まり返った。


 最初に名前を呼ばれたのは、ダリオだった。


「ダリオ・ベルクス」


「……はい」


 ダリオは、拳を握り締めていた。


「君は、虚偽の噂を意図的に広め、学園内の対立を煽った」


 代表監察官は、書類を読み上げる。


「さらに、複数の生徒へ圧力をかけ、虚偽の証言を促した事実が確認された」


 ダリオの顔色が変わった。


「……そ、それは……!」


「これらの行為は、学園の秩序を著しく乱す重大な違反である」


 沈黙。


 そして。


「……退学処分とする」


 ダリオの目が、大きく見開かれた。


「……なっ!?」


「……異議がある場合は、正式な手続きに従って申し立てることができる」


 だが、ダリオは何も言えなかった。


 その拳が、震えていた。


     ◇


「……次に、ノエル・クレイン」


 ノエルが、ゆっくりと顔を上げた。


「……はい」


「君は、解析室へ不正に侵入し、記録を改ざんした」


 ノエルは、静かに頷いた。


「……はい」


「また、虚偽の証言を用いて、無実の生徒へ疑惑を向けた」


「……その通りです」


 代表監察官は、しばらく書類を見つめていた。


「……ただし」


 ノエルの瞳が、わずかに揺れた。


「君が自ら証拠を提出し、事件の解明へ協力したことは、情状として考慮する」


 沈黙。


「……しかし、犯した行為の重大性は変わらない」


 代表監察官は、静かに告げた。


「……退学処分とする」


 ノエルは、ゆっくりと目を閉じた。


「……分かりました」


 その声は、静かだった。


 だが。


 拳は、強く握り締められていた。


     ◇


「……最後に」


 代表監察官が、書類をめくった。


「アルベルト・レイフォード」


 アルベルトは、ゆっくりと顔を上げた。


「……はい」


 その表情には、いつもの爽やかな笑顔が浮かんでいた。


「君については、複数の証言から、事件への関与が疑われている」


 アルベルトは、静かに頷いた。


「……はい」


「しかし、現時点では、君が直接的に解析記録を改ざんしたことを示す決定的証拠は確認されていない」


 俺は、静かに目を細めた。


 ……やっぱり。


 アルベルトは、巧妙に証拠を残さないよう動いていた。


「……ただし」


 代表監察官が、続けた。


「君が学園内で不適切な情報拡散に関与した事実は、複数の証言により確認されている」


 アルベルトの笑顔が、わずかに固まった。


「……そのため」


 会場が、静まり返る。


「一週間の停学処分とする」


 アルベルトは、深く頭を下げた。


「……承知しました」


 その態度は、実に模範的だった。


 だが。


 俺には、分かっていた。


 彼の内心が、激しい怒りに満ちていることを。


     ◇


 処分が告げられた後。


 学園の中庭。


 カイルが、納得できない様子で腕を組んでいた。


「……何だよ、あれ」


「……アルベルトのことか?」


「ああ!」


 カイルは、低く唸った。


「ダリオとノエルは退学なのに、あいつだけ一週間って……」


 俺は、静かに頷いた。


「……確かにな」


 リゼットも、険しい表情だった。


「……どう考えても、不自然よ」


 その時。


「……レオンハルト様」


 背後から、声がした。


 振り向く。


 フィオナ先輩だった。


「……少し、お話があるの」


 俺は、頷いた。


「……何でしょう?」


 フィオナ先輩は、周囲を確認してから、静かに口を開いた。


「……アルベルト君の処分について、教育評議会の内部でも意見が割れていたらしいわ」


「……そうなんですか?」


「ええ」


 彼女は、真剣な表情で続けた。


「……勇者候補という立場を、考慮すべきだという意見があったそうよ」


 その言葉に、俺は静かに目を細めた。


 ……なるほど。


 つまり。


 アルベルトは、まだ守られている。


 原作ゲームの主人公。


 勇者候補。


 その肩書きが、今も彼を支えているのか。


     ◇


 その日の夕方。


 ヴァルディス公爵家。


 父上は、教育評議会から届いた報告書を読んでいた。


 母上は、その隣に立っている。


「……あなた」


「ああ」


「……これで、終わりなのかしら?」


 母上の声は、静かだった。


 父上は、報告書を閉じた。


「……いや」


 その瞳が、鋭くなる。


「終わりではない」


 母上が、ゆっくりと微笑んだ。


「……そうよね」


 父上は、静かに続けた。


「処分が下されたことと、真実がすべて明らかになったことは違う」


 その言葉に、母上は頷いた。


「……レオンちゃんを陥れようとした人間が、まだいるのね」


「……ああ」


 父上は、窓の外を見た。


「……そして、その者は、まだ学園に残っている」


 沈黙。


 母上の紫色の瞳が、冷たく輝いた。


「……なら」


 その声は、驚くほど穏やかだった。


「……次は、絶対に逃がさないわ」


     ◇


 同じ頃。


 学園の旧校舎。


 アルベルト・レイフォードは、一人で窓の外を見つめていた。


 停学一週間。


 その処分自体は、彼にとって大した問題ではなかった。


 だが。


 自分が計画したことが、ことごとく失敗した。


 その事実が、何より許せなかった。


「……レオンハルト」


 彼は、低く呟いた。


「……どうして、いつも君なんだ」


 拳が、強く握り締められる。


「……僕が、勇者なのに」


 その瞳に、暗い光が宿った。


 そして。


「……次は、もっと上手くやる」


 アルベルトは、静かに笑った。


「……今度こそ、君を引きずり下ろしてみせる」


 だが。


 彼は、まだ知らなかった。


 その頃すでに。


 学園の上級生たちの間で、彼の存在に興味を持つ者が現れ始めていたことを。


 そして。


 その人物が、アルベルト以上に危険な思想を持っていることを。


 王立アストレア学園。


 最強公爵令息と偽善の勇者。


 二人の対立は、まだ始まったばかりだった。

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